シベリウス/交響曲第2番 (続き)

*紹介ディスク一覧

01年 P・ヤルヴィ/シンシナティ交響楽団  

05年 ヤンソンス/ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団

07年 サロネン/ロスアンジェルス・フィルハーモニック

10年 ドゥダメル/エーテボリ交響楽団  

14年 ネルソンス/ボストン交響楽団  

15年 ヤンソンス/バイエルン放送交響楽団  

15年 P・ヤルヴィ/パリ管弦楽団 

15年 ラトル/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団  

16年 佐渡裕/トーンキュンストラー管弦楽団  

21年 マケラ/オスロ・フィルハーモニー管弦楽団  2/26 追加!

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“精緻な描写と卓越した設計の妙で聴かせる、才人パーヴォの異色盤”

パーヴォ・ヤルヴィ指揮 シンシナティ交響楽団

(録音:2001年  レーベル:テラーク)

 トゥビンの交響曲第5番とカップリング。パーヴォのシベリウス録音はパリ管との交響曲全集、ストックホルム・フィルとのクレルヴォ交響曲、《4つの伝説曲》他の管弦楽曲集と、エストニア国立響とのカンタータ集、《塔の乙女》他の管弦楽曲集があります。

 第1楽章は速めのテンポで軽快に進行。木管など細部の解像度がややもどかしいですが、よく練られたソフトな響きでふっくらと造形しています。ソノリティに暖かみがあるので、クールな性格ではありません。仕上げも丁寧で、北欧の指揮者にありがちな粗削りなタッチとも一線を画しています。展開部も無用に壮大だったり、声を張り上げたりする事がなく、流麗なラインを優先。ダイナミクスも、弱音を基調に設計しています。

 第2楽章は一転して遅めのテンポで、繊細なピアニッシモで密やかに歌い始めるのが印象的。深い静寂に包まれた雪原の向こうから荘厳な歌が響いてくるような、実に神秘的な表現です。主題提示が終ると急速にテンポを煽り、熱っぽい躍動感を強調するのもスリリング。内から突き上げるような底力や、激烈なエネルギーの開放も聴かれますが、粗雑な合奏にはなりません。叙情的な箇所での、和声感や色彩の配合も美しいです。

 第3楽章は、テンポこそ中庸ですがリズムの精度が高く、精緻な合奏が見事。どことなく、細密画を見るような趣もあります。サクサクと刻まれるアインザッツは痛快で、ティンパニのアクセントもパンチが効いています。弱音部のリリカルな歌もデリカシー満点。

 第4楽章は速めのテンポで活力に溢れ、メリハリの効いた明快なプロポーションが魅力。再現部の第1主題ではティンパニを強打させ、三拍子のリズムを力強く弾ませているのもユニークです。旋律線もたっぷりと歌わせ、ブラス・セクションのソリッドな咆哮など激しさにも欠けていません。最後のクレッシェンドからコーダにかけては、ここに至ってやっと全曲の頂点を築く設計の妙と、高揚感とエネルギーの持続が凄まじい、圧巻のパフォーマンス。

弱音を主体にし、もどかしいほど山場を作らぬヤンソンス。豊富なアイデアで勝負

マリス・ヤンソンス指揮 ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団

(録音:2005年  レーベル:RCO LIVE

 楽団自主レーベルによるライヴ・シリーズの一枚。カップリングなしでこの曲だけの収録です(このシリーズでは時々あります)。第1楽章冒頭の、テヌートで音を引きずる弦からして、早くもヤンソンス流のフレージングのこだわりが発揮されますが、終始速めのテンポで躍動するこの楽章は、クライマックスでの音量の解放も避けて、もどかしいくらい山場を作らない演奏になっています。その分、細かな強弱の交代やデリカシー溢れる音感に神経を使っている様子。他の楽章もそうですが、どうも意図的に壮麗さを排除しているふしがあります。

 第2楽章も、雷鳴のようなティンパニにいきなり驚かされますが、とんでもない駆け足テンポがあったり、トゥッティをさらりと流したり、ティンパニのトレモロが急にクレッシェンドしたりと、独自の解釈が満載。これに較べると第3楽章はゴツゴツとして重たいですが、フィナーレの構成力には才気が光り、オケの響きを生かしながら抑制し続けた力感を解放。見事なクライマックスを形成します。ただ、コーダも弱音主体というか、通常より小さな音量で楽想が推移し、金管のロングトーンで聴き手を圧倒してくる他の演奏とは一線を画します。

“緻密なサウンドで強弱とテンポ変化をものの見事に設計した、同曲屈指の名演”

エサ=ペッカ・サロネン指揮 ロスアンジェルス・フィルハーモニック

(録音:2007年  レーベル:ドイツ・グラモフォン)

 インターネット配信のみで購入できるライヴ録音シリーズ、DGコンサートの一枚。当シリーズは、コンサートのプログラムを丸々一枚収録しているのが特徴ですが、当盤に限ってはなぜか一曲のみの収録となっています。サロネンはシベリウスを得意にしているものの、交響曲の正規録音は5番とクレルヴォしかありません。しかし当盤の演奏は、同曲屈指と言っていいほど素晴らしいもの。フィンランド出身で、自身作曲家でもあるサロネンの面目躍如たる名演で、ぜひ全集録音をと願わずにはいられません。

 まずは、きめが細かく、滑らかなオケの響き。緻密に凝集されたサウンドで、隅々まで丹念に音楽を作り上げるサロネンのアプローチは、得てして北欧の自然を意識して荒々しい演奏になりがちな同曲ディスクの中でも異色とも言えるもの。アーティキュレーションに徹底してこだわり、細部に多彩なニュアンスを付与する事で作品から新鮮な表情を引き出したこの演奏は、この曲にもまだ新しい解釈が可能である事を教えてくれます。

 特に見事なのが強弱とアゴーギクの設計で、フィルハーモニア管と録音した5番もそうでしたが、サロネンが振ると、どの楽章も北欧神話を元にした交響詩のように聴こえるから不思議です。ちょっとした間の採り方やテンポの変動など、どこかドラマ性を誘発するような演出がなされているという事でしょうか。フィナーレでは、ぐっとテンポを落として、神秘的かつ壮麗な山場を築いています。

 

“卓越した構築力と音響センスに、早くも非凡な才を発揮する若獅子ドゥダメル”

グスターヴォ・ドゥダメル指揮 エーテボリ交響楽団

(録音:2010年  レーベル:ドイツ・グラモフォン)

 ドゥダメルにプロ・オケとして最初のポストを与えた、エーテボリ響との3枚組アルバムの1枚。他はブルックナーの9番、ニールセンの4&5番と、北欧とドイツのシンフォニーばかりが収録された本格的なセットでもあります。最初はややデッドな録音に感じられますが、余裕を持ってたっぷりと鳴らすドゥダメルの音作りのせいか、すぐに気にならなくなる所は非凡。演奏内容も素晴らしく、爆演系の若手という多少の偏見を持っていた私でも、彼の図抜けた才能は認めざるを得ないパフォーマンスです。

 第1楽章は冒頭からゆっくりしたテンポで、一音一音を入念に処理。様式の把握も抜かりがなく、卓越した構築力を感じさせます。フレージングが柔らかく丁寧で、スタッカートとレガートの使い方は的確そのもの。長期的な視野で息の長いフレーズを作る才能にも恵まれています。

 第2楽章では一部アッチェレランドで猛烈に音楽を煽る場面もありますが、全体としては落ち着いた、大人の演奏。内声が突出しないのは指揮者の耳の良さの証しで、金管のコラールも柔らかく、豊麗に響かせます。第3楽章も、腰の据わったテンポで快適な運動性を表出。旋律線も流麗です。北欧風かどうかは分かりませんが、少なくともラテン的ではありません。

 フィナーレも構成が大変に見事。第1主題に続く副次的な主題群にそれぞれ違った表情を付与しながらも、大局的には停滞する事なくスムーズに各部を連結するセンスはどうでしょう。ラストは第1の山場で盛り上げすぎず、コーダまで力を温存して、最後の和音をクレッシェンドでたっぷりと鳴らし切るという、まるで巨匠の名人芸のような表現に脱帽。オケも若手指揮者に全幅の信頼を寄せ、高い集中力で緊密なアンサンブルを繰り広げます。

“歌謡的なフレージングを軸に、あれこれと工夫を盛り込みながらも熱っぽく高揚”

アンドリス・ネルソンス指揮 ボストン交響楽団

(録音:2014年  レーベル:BSO CLASSICS)

 ワーグナーの《タンホイザー》序曲をカップリングした、楽団自主レーベルのライヴ盤。メジャー・レーベルによるこのオケの録音は、直接音がメインで小じんまりとした音像のものが多かったですが、当レーベルは残響をたっぷりと収録し、スケールの大きさや空間の広がりが感じられる好録音が多いです。このオケの特色である、潤いのある響きと暖かい音色がきちんと捉えられているのも魅力。

 第1楽章はゆったりとしたテンポで、リズムも目詰まりせず、歌うようなフレージングが特徴的。柔和で流麗、恰幅の良い造形ですが、ティンパニや金管のアクセントなどメリハリは効いており、雄渾な力感も充分。展開部でのスケール感もよく表されています。アゴーギクとデュナーミクの演出がやたらと細かいのは、ネルソンスらしい所。全体としては自然な呼吸でよく歌っています。

 第2楽章も起伏に富み、しなやかな粘性と歯切れの良いリズムを両立。山場の形成もドラマティックで、感情的な高揚を伴う熱っぽい棒さばきに惹き付けられます。設計が巧みな一方、情感も豊かだし、旋律の歌わせ方がうまいのもこの指揮者の美質です。

 第3楽章はリズムの精度が非常に高く、それだけでスピード感が増して聴こえるほど。第2主題も豊かな叙情性を示し、トゥッティの豊麗でゴージャスなトーンに、ボストン響の健在ぶりを窺わせます。第4楽章は、ロシア・北欧系の指揮者は異常に速いテンポを採ったりする事が多いですが、当盤は西欧風のオーソドックスな解釈。しかし共感を込めてたっぷりと旋律を歌い上げていて、最後の山場も熱い感興を伴って大きく高揚します。

“北欧的ムードを一掃し、あくまで交響曲の論理で構築したドイツ風シベリウス”

マリス・ヤンソンス指揮 バイエルン放送交響楽団

(録音:2015年  レーベル:BRクラシック)

 楽団自主レーベルによるライヴ・シリーズの一枚。同曲はヘルクレスザール、カップリングのカレリア組曲、《フィンランディア》はガスタイク・ホールでの収録です。ヤンソンスの同曲はオスロ・フィルとのセッション録音、コンセルトヘボウとのライヴ盤もあり。シベリウスを毛嫌いする人も多いという独墺系オケの録音は珍しく、バイエルン放送響の同曲ディスクも恐らくこれが唯一みたいです。

 第1楽章は、テンポや強弱こそ奇を衒った所はありませんが、低音の動きを補強しているようにも聴こえます(バランスを工夫しているだけで、スコアはいじっていないかも)。リズムを克明に処理し、旋律線の表情をくっきりと隈取っているせいか、語調に曖昧さがないのが特徴。それによって幻想曲風の性格は消失し、ブラームスのようなドイツ的様式感で再構築されたような印象も受けます。

 第2楽章は、冒頭のティンパニの一撃が鮮烈。低音の声部が全体をがっちりと支え、力強いリズムを軸に頑強な枠組みを構築するため、漂い流されるような幽玄の趣は吹き飛んで、論理の勝った純音楽としての交響曲像が示されます。旋律線は流麗に歌っていますし、情感も豊かなのですが、視点の置き換えでここまで印象が変わるとは新鮮。

 第3楽章は、遅めのテンポで細かい音符を正確に弾き分けてゆくスタイル。フレージングもすこぶる明瞭で、きちんと「解釈」された印象を与えます。ディティールを「雰囲気を出すための効果」と捉えず、音楽理論上の「モティーフ」として扱う姿勢が、既にしてドイツ的です。第2主題は、チェロの対旋律に濃厚なニュアンスを付与しているのが独特。

 第4楽章もしっかりと歌い込んだ、押し出しの強い表現。造形はオーソドックスなのですが、どの音、どのフレーズも、頑強なまでに「今、これをやってます」と主張しながら演奏されるので、どうしてもブラームスの交響曲みたいに聴こえる瞬間が多々あります。オケの響きは充実しているし、最後の盛り上げ方も壮麗そのものですが、私のようなシベリウス・ファンには、どこかよそ行きの取っ付きにくさも感じる、少々マッチョな演奏。

“かなり振幅の大きな表現ながら、全体の印象は流麗で穏やか”

パーヴォ・ヤルヴィ指揮 パリ管弦楽団

(録音:2015年  レーベル:RCA)

 ライヴによる全集録音から。サル・プレイエルで収録した曲も混ざっていますが、当曲に関しては新しいフィルハーモニー・ド・パリで録音。パーヴォは過去にシンシナティ響とこの曲を録音しており、当盤は再録音に当たります。録音で聴く限り、柔らかく豊麗な残響が魅力的な良いホールのようで、艶っぽく明るいオケの音色も良く出ています。

 第1楽章は主部のリズミカルな主題と、応答するホルンの対比を大きく取り、その後のフルートの二重奏や弦のユニゾンもぐっと速度を落としています。弦のカンタービレは自在なアゴーギクでロマンティックに歌い込むスタイル。冒頭こそ速めながら、テンポの落差はかなり大きいです。展開部は刺々しくならず、流麗な筆遣いで恰幅良く造形。巧みなアゴーギクを駆使して、コーダまで雄弁に描写します。

 第2楽章もかなり振幅の大きな表現で、神経質に響いてもおかしくないですが、柔和なタッチで落ち着き払って演奏されるので、極端さは感じません。しかし速めのテンポで軽快にフレーズを掴むような局面では、ドイツ・カンマー・フィルとのベートーヴェンに続く地平も透けて見えます。弦や木管の旋律線にわずかな粘性があり、艶やかな音色で耽美的に歌われるのは魅力的。

 第3楽章は中庸のテンポで、合奏を丹念に構築。ティンパニのトレモロに急激なクレッシェンドを施す箇所もありますが、録音のせいか全体的に穏やかなタッチに聴こえます。第4楽章は速めのテンポで開始しながら、弱音部で極限まで速度が落ちるなど、やはり落差の大きい表現。ティンパニの強調など、旧盤の解釈が改められている箇所もあります。旋律線にたっぷりと表情を付ける事が重視され、ソステヌートのフレージングも目立つ印象。コーダの高揚感はさすがです。

“旧盤の解釈を残しつつも、自然さと柔らかさ、表現の深度を増した名演”

サイモン・ラトル指揮 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

(録音:2015年  レーベル:ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団)

 楽団自主レーベルによる、全集ライヴ録音から。管弦楽曲などのカップリングは一切ありませんが、ブルーレイ・オーディオの高音質ディスクと、ハイレゾ音源ダウンロードのコード、全曲の映像ソフトも付属する豪華パッケージです。ラトルはバーミンガム響と80年代に一度、全集録音を敢行。

 第1楽章は、旧盤と比べるとメリハリが自然に落ち着いた印象ですが、合奏の一体感が強く、ダイナミクスやアーティキュレーションを詳細に描き込んでゆくスタイルはより徹底しています。曲線のしなやかさと響きの柔軟性が増しているのはオケの美点でしょうか。特に、各フレーズが優美に描写され、有機的に連結されてゆく様は圧巻で、これは大編成の室内楽みたいなベルリン・フィルでなければ難しいかもしれません。ニュアンスの多彩さも特筆もの。

 第2楽章も流れが良く、バラバラで無機的になりがちな各フレーズを見事に構築した名演。長らく聴いてきた作品ですが、この楽章をこれほど上手くまとめた演奏は希有かもしれません。聴いていて実に勉強になるというか、啓発されるような思いです。このコンビのメジャー録音によくあった細部の粗さがなく、隅々まで神経を通わせ、すこぶる丹念に磨き上げているのも素晴らしいです。フォルティッシモが柔らかく、刺々しさがないのも好印象。

 第3楽章はアタックが弱く、ティンパニのアクセントも極限まで抑えているのが意外。おかげで上品に聴こえますが、北欧の自然の荒々しさみたいなイメージとは無縁です。第4楽章は速めのテンポで軽快。音量を抑えて、優しいタッチを前に出しているのが独特です。第2主題以降はテンポを落としてリリカルに謡ますが、解釈の原点は旧盤にも既にあり。ただ、オケがグレードアップしただけでなく、表現自体が格段に洗練されているのは魅力と言えるでしょう。

“遅めのテンポで存分に旋律を歌わせた、ブルックナーの流れを汲むシベリウス解釈”

佐渡裕指揮 トーンキュンストラー管弦楽団

(録音:2016年  レーベル:エイベックス・クラシックス)

 楽団自主レーベルによるライヴ・シリーズの一枚。ムジークフェラインザールでの収録ですが、カップリングの《フィンランディア》はグラフェネックでセッション録音されています。佐渡裕のシベリウス録音は珍しく、これが初かもしれません(実演でも聴いた事がないです)。

 第1楽章は、遅めのテンポでゆったりとした佇まい。どの音も末端まで養分が行き渡り、ふっくらと恰幅の良い造形で聴かせます。旋律の扱いも優美で、ディティールを丹念に描写する感じ。スコア解釈としてはオーソドックスですが、ここまで柔和でしなやかなシベリウス演奏も珍しいかもしれません。展開部も粘性が強くてスケールが雄大。どこか、ブルックナーを思わせる雰囲気もあります。

 第2楽章も、超スロー・テンポで悠々たる主題提示。その後の展開も、豊麗なソノリティ、息の長いフレージング、たっぷりとした間合い、壮大なスケールなど、やはりブルックナーの流れで捉えたような表現と感じられます。テンポの速い箇所でアンサンブルがやや不明瞭になる瞬間もありますが、叙情的な箇所での色彩や和声感の豊かさ、カンタービレのしなやかさは見事。

 第3楽章は、落ち着いたテンポで繊細なタッチ。力感や荒々しさも充分表出しています。第4楽章も遅めのテンポを貫き、旋律美と雄大さを全面に押し出したスタイル。暖かみのある柔らかい響きや豊かな色彩感も維持しつつ、最後までスケール大きく鳴り響かせていて壮観です。

 2/23 追加!

“細部を濃密に描き込みながら、大きなうねりと非常な勢いに溢れる超名演”

クラウス・マケラ指揮 オスロ・フィルハーモニー管弦楽団

(録音:2021年  レーベル:デッカ)

 マケラのデビュー盤となる、《タピオラ》と3つの交響曲断片を含む全集セットから。今やデッカの看板を掲げていても、共通の録音スタッフがいるわけではなく、プロデューサーやエンジニアには北欧の氏名表記が並ぶ。恐らく現地雇用のスタッフなのだろう。

 NHKでコンセルトヘボウ管とのコンサートの一部が放送され、その時からひと目見ただけで才能に溢れた指揮者だと感じたが、その後やはり、スター級の扱いでデッカが契約した。当全集は、音だけで聴いていても聴き手に訴えかけてくるものの多い、素晴らしい名演。近年の若い指揮者は上品にまとめる人が多いが、彼の指揮は思い切りが良く意欲的で、音楽の呼吸が深い。

 第1楽章は遅めのテンポで、なめらかな筆致。ディティールを掘り下げ、濃密に描き込む一方、楽章全体のグランドデザインをひと筆書きのように構成するスケールの大きさもある。粘性の強い、ねっとりしたカンタービレも独特。展開部では、若手らしい直情的な烈しさと、若手らしからぬ底力と凄みが露わになる。

 第2楽章もスロー・テンポで、各部のテンポ設定と緩急や起伏の作り方がまったく見事。自然な佇まいなのに、細部の新鮮な発見やパッションの激しさも随所にある。この楽章は一種の幻想曲で、強弱とテンポが即興的かつ頻繁に交替したり、説得力のある演奏が難しい音楽だと思うのだが、マケラの造型は完璧に近く、ほとほと感心。

 第3楽章は、意外に落ち着いたテンポながら、細かい音符を克明に処理してとにかく解像度が高い。色彩感が豊かで、のびやかな歌心も溢れる。第4楽章は真情のこもった歌と気宇の大きさ、細部の緻密さ、随所に顔を出す激しさが組合わさった、正に「北欧」という演奏。マケラの演奏は、むしろ全部がそうである。ライヴのような白熱もあり、コーダも息が長く壮麗。

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