ジョン・ウィリアムズ

John Williams

 1932年、ニューヨーク州生まれ。UCLAとジュリアード音楽院で学び、50年代後半からピアニストとして数々のレコーディングに参加。ヘンリー・マンシーニ作曲の有名な「ピーター・ガンのテーマ」を弾いているのも彼。60年代から映画やテレビのサントラを手掛け、『哀愁の花びら』でアカデミー賞に初ノミネート。以降ほぼ毎年のように候補となり、『屋根の上のバイオリン弾き』『ジョーズ』『スター・ウォーズ』『E.T.』『シンドラーのリスト』で5度受賞。

 ハリウッドを代表する映画音楽の巨匠ですが、ミュージシャン上がりの人です。スピルバーグ、ルーカスの作品で一躍名を売っただけに新世代の印象も強いですが、実はオーケストラを使った豪華な劇伴を現代に復活させた功労者。その音楽を耳にしたスピルバーグが、実際に会うまでウィリアムズを年寄りだと思い込んでいたのは、有名な話です。

 しかし私は、ルーカスによる『スター・ウォーズ』を除けば、スピルバーグ以外の監督と組んだ作品はどうもピンと来ません。『ホーム・アローン』にしても『ハリー・ポッター』にしても、空虚な楽想や過剰なオーケストレーションが耳に付き、いつも技巧が先走って音楽が浮いている印象を受けます。実は、使いこなすのが難しい作曲家ではないでしょうか。

*お薦めディスク

『レイダース/失われたアーク』

 Raiders Of The Lost Ark (1981年、ポリドール)

 『ジョーズ』も『未知との遭遇』も『スター・ウォーズ』も、それぞれに素晴らしい点はありますが、ウィリアムズの真価が最初に発揮された作品は、この『レイダース』ではないかと思います。『スター・ウォーズ』と同様ロンドン交響楽団を起用していて、重厚な音色とホールの残響音がサウンド・イメージにひと役買っています。

 “レイダース・マーチ”はあまりに有名ですし、愛のテーマもロマンティックですが、ウィリアムズの本領はドラマティックな劇伴。エジプトで井戸を発見する場面や、アークを開けるクライマックスの場面は、映画本編でもほとんど音楽が主役と言えるくらい斬新なスコアでした。また、チェイスやアクションのシーンの活力とイマジネーションに溢れた音楽作り、ヘビの大群の場面など現代音楽の手法を駆使した前衛的なオーケストレーションも素晴らしいです。

『E.T.』

 E.T.:The Extra-Terrestrial (1982年、MCA)

 こちらもテーマ曲が大ヒットしたので、そこばかり有名になってしまったきらいはありますが、実はサブ・テーマを含め、美しい旋律がたくさんちりばめられたサントラです。『未知との遭遇』のクライマックスも美しい音楽でしたが、サントラ盤全体でお薦めできるほどではなく、『未知との遭遇』の路線を継承しつつ、よりクオリティの高い作品に仕上げた当盤こそ傑作といえます。

 映画のラスト、少年の顔のクローズ・アップに交響曲のようなティンパニの連打が重なる辺りは、ウィリアムズの音楽が「オペラのようだ」と称されるゆえんですが、続くエンド・クレジットをピアノ・ソロから開始するのも、詩情豊かなアイデア。転調を繰り返しながら飛翔してゆくファンタジックな音楽展開は、ウィリアムズならではです。同じ傾向なら、彼には珍しいソング・ナンバーも入った『フック』もいいですが、肝心の劇伴がイマイチかも。

『インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説』

 Indiana Jones and the Temple of Doom (1984年、ポリドール)

 こちらは前作『レイダース』と違って、カリフォルニアでの録音。スタジオの残響はドライで、臨時編成のオーケストラのサウンドも一気に派手になった印象です。しかし曲はインスピレーションに富み、サブ・テーマのエキゾチックなマーチや、中国の五音階を使ったショート・ラウンドのテーマなど、アジア系の味付けも豊富。

 このサントラで断トツに凄いのは、いけにえの儀式の音楽。アルバム用にエディットされてはいますが、重たく怪しげな鐘の音と詠唱風のコーラス、不気味な打楽器の効果、テンポと緊張度を上げてゆくリズムなど、音楽性の高さと霊感が傑出しています。アクション・シーンの音楽も、ダイナミックで多彩。

『シンドラーのリスト』

 Schindler's List (1993年、MCA)

 小澤征爾が音楽監督を務めた名門オーケストラ、ボストン交響楽団のメンバーと世界的ヴァイオリニストのイツァーク・パールマンを配した、豪華サントラ盤。世界中で絶賛された音楽も素晴らしく、ウィリアムズには珍しい情感の濃いメロディながら、彼らしい跳躍音程を多用したテーマ曲は、観客の涙を絞り取りました。ほの暗い色調とユダヤ音楽風の音階、緊張感の強いムードを維持し、独特の凄味を帯びた音楽が全編に聴かれます。

『プライベート・ライアン』

 Saving Private Ryan (1998年、ドリームワークス)

 冒頭30分の戦闘シーンに全く音楽を付けない事で話題を呼んだ映画ですが、エンド・クレジットで初めて流れる“戦没者への賛歌”は名曲。ほのかな哀感と胸の内に高まる熱い共感が印象的な、オーケストラと合唱によるリリカルな曲で、録音の際、音楽家達の目に涙が浮かんだとも言われています。悠々たる起伏を描く、叙情的なテーマ曲も傑作。『シンドラーのリスト』に続き、ボストン交響楽団のメンバーが演奏している他、合唱にも彼らと行動を共にするタングルウッド音楽祭合唱団を起用。

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