ランディ・ニューマン

Randy Newman

 1943年、ロスアンジェルス生まれ。アメリカを代表するシンガー・ソングライター、ピアノ詩人として、アメリカを愛し、辛辣に告発するという、愛憎半ばする心情を母国に寄せてきた人。ダミ声の歌は決して上手ではないですが、心に沁みるメロディと詩は高く評価され、多くの歌手にカバーされています。

 映画音楽においても、正にアメリカの魂を描くような作品を多く手掛け、ピクサー・スタジオのアニメーション作品で人気を得ているのも、ある意味ではアメリカ的と言えます。下記に紹介したような、哀切で詩情豊かなメロディが溢れる作品は絶美。どれも単なる映画音楽ではなく、インスト・アルバムとして聴けるクオリティです。これらのスコアがオスカーを受賞していないのは、アカデミー会員の眼識不足という他ありません。

 彼のメロディには際立った特徴があり、単に透明で美しいだけでなく、古き良き時代のビッグバンド・ジャズやアメリカ民謡、そのルーツであるアイルランド民謡の旋法やコードを使ったりする上、和音自体も複雑に陰らせたり、ストレートに進行しない癖(毒と言い換えてもいいかもしれません)があったり。それは、アーティストとして歌詞でアメリカの病巣を鋭くえぐってきた眼差しを、そのまま音楽に置き換えたようにも聴こえて興味深いです。

 アニメに関わりだしてからは、感情よりもアクションに重きをおいたスコアになり、良くも悪くもハリウッド的な音楽という感じ。初期の頃のリリカルな透明感も後退しますが、ニューマンが他の作曲家と違うのは、目まぐるしく変化するアクション・スコアの中にも、ラグタイムや民謡、ブルース、ジャズなどのフレーズが常に散りばめられている所です。多くの作品で彼自身もオーケストレーションを共同で手掛け、指揮も自身で行っています。

 ちなみに『トイ・ストーリー2』国内盤のライナーには、「私は映画音楽家ではない。シンガー・ソングライターなのだ。もう二度とアニメーション映画のサウンドトラックは作らないよ。これが最後だ。キャラクターの動きが速すぎて、それに音楽を合わせるのが大変なんだ。でもそのおかげでこの家があって、今の私の生活がある」というニューマンの言葉がありますが、その後も精力的にアニメーションのサントラを量産しています。

*お薦めディスク

『ナチュラル』

 The Natural (1984年 ワーナー・ブラザーズ・レコーズ)

 監督のバリー・レヴィンソンとニューマンの出世作。珍しくシンセサイザーの音があちこちから聴こえるのが特色ですが、全体のオーケストレーション(ジョン・ハイエス)はニューマン節。ファンタジックでスケールの大きな音楽は、映画の名場面を彷彿させます。テーマ曲をはじめ、ノスタルジックな民謡風のメロディが素晴らしく、聴いていて胸が締め付けられる瞬間もあります。ハリウッドの作曲家らしくコープランドのような響きが聴こえてくるかと思えば、ビッグバンド・ジャズ風の曲も数曲あり。(アカデミー作曲賞ノミネート)

『わが心のボルチモア』

 Avalon (1990年 リプライズ・レコーズ)

 こちらもバリー・レヴィンソン監督の大作。東欧移民の3世代に渡る歴史で、アメリカン・ドリームと郷愁を描く物語はニューマンにうってつけです。哀愁を帯びたスローな3拍子のメロディは、悲しい子守唄のように全編を通して流れますが、アメリカ民謡のようでもあるサブ・テーマがまたノスタルジックで、胸に沁み入ります。

 マーチング・バンドの行進曲やラグタイムなど、ドラマを彩る様々な音楽も多彩な内容で飽きさせません。ニューマンらしい微妙な影が差す、ピアノとフルートの穏やかな旋律もユニーク(“ウェディング”)。詩的で哀切なピアノのワルツもあります。何度も聴きたくなる、素晴らしいアルバム。(アカデミー作曲賞ノミネート)

『レナードの朝』

 Awakenings (1991年 リプライズ・レコーズ)

 ロバート・デ・ニーロ、ロビン・ウィリアムズ主演の感動作。リリカルで透明感のあるサウンドに、詩情溢れる美しいメロディが次々と現れる、泣きたいほど痛切な音楽。ゆっくりした3拍子のテーマ曲はメジャー・コードとマイナー・コードの間を不安定に揺れ、病状が行ったり来たりする映画の内容を暗示しています。続く暗いメロディは、沈鬱ながら静謐な美しさが印象的。オーケストラの音が美しく録音されていて、弦やフルートの潤いに満ちた音色に魅せられます。

 ハイライトは、ピアノ曲“デクスター・ゴードンのチューン”。レナードとポーラの悲しいダンスシーンに流れる曲ですが、物静かな中に切なさが胸を締め付ける、ニューマンらしい名曲です。私は何度も耳コピして弾こうとしましたが、和音が複雑すぎて挫折しました。映画ではジャズ・サックスのデクスター・ゴードンが入院患者に扮してピアノに向かっていますが、サントラではニューマンが弾いています。インスト・アルバムとして、繰り返し聴くべきサントラ。

『ザ・ペーパー』

 The Paper (1994年 リプライズ・レコーズ) *輸入盤

 『バックマン家の人々』でも組んだロン・ハワード監督作。テーマ曲が美しく、しみじみとした温かさの中に胸を刺すような切なさを含んだメロディなのですが、伴奏型のコードが途中で民謡風に、アメリカンな感じで動くのがニューマンならではです。現代のビジネス街が舞台とあってモダンな和音を駆使し、リズミカルな曲調も目立つ印象。そこへ、ニューマンらしいマイナー・コードのワルツも聴こえてきます。自身が歌う主題歌も収録。

『マーヴェリック』

 Maverick (1994年 リプライズ・レコーズ)

 メル・ギブソン、ジョディ・フォスター主演の西部劇アクション。意外なジャンルですが、アメリカンな題材という事では確かにニューマンの守備範囲です。テーマ曲は、これも珍しくマイナー調のブルース。しかしサブ・テーマは優しく暖かいアメリカ民謡風で、ここでもニューマン節全開です。ただ、サスペンスフルなアクション・スコアやダイナミックな曲も多く、後のピクサー・アニメでの活躍をも予見させます。自身が歌う主題歌も収録。

『カラー・オブ・ハート』

 Pleasantville (1999年 ヴォルケーノ・レコーズ)

 ゲイリー・ロス初の監督作で、アカデミー音楽賞ノミネート。TV番組のオープニング風のテーマ曲は、古き良き時代のノスタルジーを湛えたメロディ、サブ・テーマは憂いの影が彩るひっそりとした叙情的な旋律。いずれも一度聴いたら耳から離れない、ニューマンらしい音楽です。アカデミー作曲賞ノミネート。

 彼には珍しくコーラスも使っていますが、相変わらず快活なアメリカ民謡風のクラリネットや、雄大な弦楽群のメロディ、甘美なワルツ、気だるい木管のアルペジオと、独自の詩情溢れる音楽世界を構築。ラストがテーマ曲ではなく、ラテン系のダンス・ミュージックで終るのも、サントラとしては面白い構成です。

『トイ・ストーリー2』

 Toy Story2 (1999年 ウォルト・ディズニー・レコーズ)

 ピクサー・スタジオのヒット・アニメ続編。ニューマンは以前にティム・バートン製作のストップモーション・アニメ、『ジャイアント・ピーチ』のソングナンバーとスコアも手掛けていますが、『トイ・ストーリー』は彼がアニメの分野で大活躍するきっかけになった出世作とも言えます。ブルース調の音階を随所に使ったり、主題歌をライル・ラヴェットとデュエットしたり、そちらも悪くない出来映えですが、全体のクオリティは続編となる当盤に軍配が上がります。

 ブルージーなセンスは後退した代わり、ニューマンお得意のアメリカ民謡風のフレーズがあちこちに挿入され、ジャズ風のランニング・ベースも効果的。メロディ・メーカーとしての魅力も、前作より出ている感じがします。アクション・スコアも多彩で、オーケストレーションがより洗練されて緻密に聴こえるのも好印象。派手なイントロは、人気お笑い番組「M1グランプリ」の出囃子に使われていて日本では有名です。

 第1作の主題歌は別ヴァージョンで収録され、ニューマン自身は歌っていません。素晴らしいのは“When She Loved Me”という本作用の主題歌。サラ・マクラクランが歌う、清冽な叙情が美しいバラードで、民謡風の郷愁や陰影の濃いコード進行も絶品。これ1曲だけでも聴く価値はあります。ソングナンバーではもう1曲、オールド・カントリー調の“Woody's Roundup”も入っていて楽しいです。

『モンスターズ・インク』

 Monsters,Inc. (2002年 ウォルト・ディズニー・レコーズ)

 ピクサー・スタジオのヒット・アニメ。主人公2人の声を担当したビリー・クリスタルとジョン・グッドマンによる主題歌は、いかにもニューマンらしい曲調の中にほのかな哀愁を感じさせる名曲。過去になんと12作品でアカデミー賞にノミネートされながら、ずっと受賞には縁がなかったニューマンですが、この曲で遂に主題歌賞に輝きました(作曲賞にもノミネート。その後『トイ・ストーリー3』でも主題歌賞受賞)。

 同じくそのノスタルジックなメロディを、洗練されたムードのビッグ・バンドで軽妙に奏でるオープニング・タイトルも秀逸。後は器用なアクション・スコアが続きますが、ニューマンらしく様々なアメリカ音楽の要素が断片的に盛り込まれていて、才気を感じさせます。そっと琴線に触れてくる3拍子の美しい旋律は、80年代のニューマン作品を彷彿させる名曲。ニューマン自身のヴァージョンによる主題歌も入っています(日本盤ボーナストラックは、ホンジャマカ・石塚英彦と爆笑問題・田中裕二のデュエット)。

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