ハロルド・フォルターマイヤー

(ハロルド・フォルターメイヤー)

Harold Faltermeyer

 ドイツ、ミュンヘンを基盤とするスタジオ・ミュージシャン集団、「ムニーク・マシーン」の一員として世界的名声を確立。同胞のジョルジオ・モロダーと共にドナ・サマーのアルバムを次々プロデュースし、“Hot Stuff”などヒット曲を連発。モロダー自身の作品やスリー・ディグリーズなども手掛ける。

 その後モロダーはロスアンジェルスへ拠点を移すが、彼はミュンヘンに残って活動を続け、84年にローラ・ブラニガンのアルバム『セルフ・コントロール』がヒット。同年、映画『疑惑』の成功で映画音楽の世界に入り、渡米してモロダーと合流。キース・フォーシー、チープ・トリック、グレン・フライ、ブロンディ、バーブラ・ストライザンド、ペット・ショップ・ボーイズ、E.G.デイリー、ジェニファー・ラッシュなど数々のアーティストを手掛ける。

 映画音楽のファンには『ビバリーヒルズ・コップ』や『トップガン』など、80年代にポップ・ソング満載のサントラで台頭してきた人という印象が強いでしょう。挿入歌メインのオムニバスが多いので、全面プロデュース・アルバムとしてご紹介できるディスクが少ないのが難点。早くからシンセを取り入れたエレクトロ・ポップ派ですが、一度耳にしたら忘れられないようなユニークな曲も多く、あくまで魅力はコンポーザーとしての個性にあると思います。

 むやみにサンプリング等の遊びに走らないのでオーソドックスなサウンドに聴こえますが、そのおかげで今の耳にもさほど風化して聴こえないのはメリット。プロデューサーなので、歌モノが得意なのは大きな強みです。他に、『フレッチ/殺人方程式』『ファイアー&アイス/白銀の恋人たち』『オーバー・ザ・トップ』『バトルランナー』『危険な天使』『デッド・フォール』など。

*お薦めディスク

『疑惑』

 Thief of Hearts (1984年/2017年 ヴァーレーズ・サラバンド)  *輸入盤

 ジェリー・ブラッカイマー製作、スティーヴン・バウアー主演のラブ・サスペンス。メリッサ・マンチェスター、E.G.デイリーなど歌モノとスコアが半々くらいですが、プロデュースは全てフォルターマイヤーで統一されています。デイリーやキース・フォーシー、ジョルジオ・モロダーも曲作りに参加。

 フォルターマイヤーが当時プロデュースしていた典型的なタイプの曲ばかりで、オムニバスっぽい雰囲気ですが、曲調に変化がなく、やや一本調子の感じもあり。2017年のCD化に際して、テーマ曲を含む3曲のヴァージョン違いを収録しています。

『サマー・シュプール』

 Fire, Ice & Dynamaite (1990年 BMGビクター)

 ロジャー・ムーア主演、オリンピック・スキーヤー出身という異色の経歴を持つドイツ人ウィリー・ボグナーが監督に乗り出したアクション映画サントラ。 劇伴スコアは入っておらず、全てポップ・ソングですが、ディープ・パープルによる主題歌をのぞく12曲全てをフォルターマイヤーが編曲・プロデュース。うち9曲ではソング・ライティングも手掛けていて、全面的に彼のサントラといっていいでしょう。

 参加アーティストはボニー・テイラー、ジェフリー・ラッシュ、マリエッタ、ドミノ、ロジャー・チャップマン、クリス・トンプソンなど、やや地味なラインナップですが、原盤がフォルターマイヤーの地元ミュンヘンのアリオラ・レーベルから出ている所を見ても、手の内に入った印象です。マイナー・コードの執拗なリフレインあり、メジャー・コードの元気な曲やスケールの大きな展開もありと、彼らしい作風が随所に散りばめられているのも魅力。

『カフス!』

 KUFFS (1992年、ミラン)  *輸入盤

 ディノ・デ・ラウレンティス製作、クリスチャン・スレーター主演の青春アクションで、全面的にフォルターマイヤーの作曲、演奏、プロデュース。彼のアルバムは、どの時代のを聴いてもサウンドにあまり変遷がないのが面白い所(さすがに80年代はドラムなど違いますけど)。進歩がないと言えばそれまでですが、最初から高い完成度に達しているとも言えます。

 冒頭のテーマ曲は、『ビバリーヒルズ・コップ』のテーマ“アクセルF”のセルフ・パロディみたいな雰囲気で、思わず苦笑。続く2曲目まで似た感じだったりします。途中からやっと、ぼんやりとパッドを鳴らすコードだけのスコア、エレピでポロポロと奏でるリリカルなメロディ、ギター・ロックの歌モノ、グノーの“アヴェ・マリア”のアレンジなど、変化が出てきます。

『A portrait of Harold Faltermeyer his greatest Hits』

 (2002年 ZYX Music)  *輸入盤

 ドイツのレーベルから発売された、2枚組のベスト盤。1枚目が映画音楽、2枚目がポップ・ソングで、インストより歌モノが中心です。有名な『ビバリーヒルズ・コップ』や『トップガン』のテーマ曲の他、ドナ・サマーの“Hot Stuff”“All systems go”などヒット・ソングも収録。ゆかりの深いキース・フォーシーやチープ・トリック、ローラ・ブラニガンの曲も入って、これ1枚で彼の音楽のユニークな魅力を満喫できる、充実した内容です。

『コップ・アウト 刑事(デカ)した奴ら』

 Cop Out (2010年 ウォータータワー・ミュージック)  *輸入盤

 ブルース・ウィリス主演の刑事物。『ビバリーヒルズ・コップ』のイメージから依頼されたのでしょうか。演奏、作曲、プロデュースを全面担当。アルバムの製作総指揮は、映画を監督したケヴィン・スミスとなっています。

 冒頭のテーマ曲は、彼のソロ・アルバム『ハロルドF』の1曲目と共通する雰囲気で個性的。マイナー・コードのダーク・ポップで、『ビバリーヒルズ・コップ』のテーマ曲“アクセルF”と同じスタイルです。どよ〜んとしたパッド系の雰囲気スコアやミステリアスなマジカル・ポップもありますが、あくまでヒップなリズムのダンサブルなインストが中心。フォルターマイヤーの作風が好きな人にはジャストミートの内容です。

 歌モノは、フォルターマイヤー派閥のパティ・ラベルが歌う“Soul Brothers”1曲だけ。斬新なおっさんコーラス/ラップがなんだか笑えますが、全体的にはファンキーでクールな名曲です。曲はキース・フォーシーとの共作。どちらかというと、フォーシーの方が妙なセンスを持っているのかもしれません。

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