アラン・メンケン

Alan Menken

 1949年、ニューヨーク生まれ。ミュージカル・シアター・ワークショップでポップス、CM、舞台の音楽を手掛け、作詞家のハワード・アッシュマンと出会ったのをきかっけに、カート・ヴォガネットの名作『ローズウォーターさん、あなたに神さまのお恵みを』を舞台化。翌82年、オフ・ブロードウェイで上演したロック・ミュージカル、『リトル・ショップ・オブ・ホラーズ』が大ヒットし、ディズニーが実写化した映画版に提供した新曲がアカデミー賞にノミネートされる。

 80年代を通じて低迷期にあったディズニー・アニメ、その復活の功労者がこのメンケンです。28作目となる『リトル・マーメイド』に抜擢された彼らは、製作の初期段階から参加。ブロードウェイ・ミュージカルの手法を持ち込んだ本作はアカデミー作曲賞と歌曲賞の2冠に輝き、作品もサントラも大ヒット。続いて『美女と野獣』『アラジン』も大当たりさせ、不動の地位を築きます。

 とにかくソング・ライティングのセンスが抜群。様々な音楽ジャンルを吸収・昇華し、オールド・ファッションなスタイルを取り入れながら、コンテンポラリーなセンスで今の観客にもアピールする趣味の良さは、当代随一と言えるかもしれません。しかも聴き手の胸にぐいぐいと迫るエモーショナルなメロディには素晴らしい魅力があり、多くの登場人物が入り乱れる複雑なシーンを作り上げる音楽的才覚も見事です。

 ただ、クラシック畑の人ではないので、スコアのアレンジ、オーケストレーションには参加していません。アクション場面のスリリングなスコアなどどうやって作曲しているのかとも思いますが、作曲、プロデュースはメンケンとなっているので、ピアノ譜までは書いているのでしょう。尚、ソング・ナンバーに関してはアレンジ、プロデュースにも参加しています。

 来日した際などによく分かりますが、とても陽気でテンションの高い人。TVの取材でも、ピアノを弾きながら歌ったりサービス精神が旺盛です。他の作品に、アニメ映画では『ポカホンタス』『ヘラクレス』『ソーセージ・パーティー』、実写では『ライフ with マイキー』『シャギー・ドッグ』『NOEL ノエル』『クリスマスキャロル』『魔法にかけられて』『白雪姫と鏡の女王』など。映画の挿入歌や舞台音楽も下記サントラの他、多数あり。

*お薦めディスク

『リトル・マーメイド』

 The Little Mermaid (1989年 ウォルト・ディズニー・レコーズ)

 アンデルセンの童話『人魚姫』を原作にした、ディズニー・アニメ久々の大ヒット作。ディズニーがこのテーマ(童話)で映画を作るのは、実に『眠れる森の美女』以来30年ぶりとの事でした。製作の初期段階から参加したメンケンは、まずはファンタジックなバラード“Part of Your World(パート・オブ・ユア・ワールド)”を作曲。さらにシナリオが練り上げられ、カリプソ風の“Under the Sea(アンダー・ザ・シー)”を作り上げました。

 スコアに関しては、フォークソングを想起させるオープニングなど、随所にイギリス音楽の雰囲気があるのが特色。後半のアクション・スコアはやや型通りというか、本職の人にはもっと斬新な音楽を付ける人もいるので、どうしても平凡に聴こえてしまうきらいはあります。ただ、本作はスコアもオスカーに輝いているので、私が文句を付けるには及びません。

 “Part of Your World”は正に名曲で、ミュージカルのレチタティーヴォ風の前半から語りかけるように雄弁。サビのメロディはスケールが大きく、胸を揺さぶるエモーショナルなメロディが素晴らしいです。一方、海の生物達が歌う“Under the Sea”はカリプソのリズムを使ったリズミカルなナンバーで、アカデミー歌曲賞を受賞。個人的には“Part of Your World”が受賞するべきだったと思いますが、ディズニー映画にこの曲調を取り入れた革新性が評価されたのかもしれません。

 海底の魔女アースラが歌う、キャバレー・ソング風の“Poor Unfortunate Souls(哀れな人々)”、フランス風の洒脱な味付けがされたワルツ“Les Poissons(レ・ポワソン)”、再びカリビアンのリズムを使ったミディアム・ナンバー“Kiss the Girl(キス・ザ・ガール)”(歌曲賞ノミネート)など、多彩なジャンルを駆使しつつ統一感を持たせた音楽構成はメンケンの得意技。アカデミー作曲賞も受賞。

『美女と野獣』

 Beauty and the Beast (1991年 ウォルト・ディズニー・レコーズ)

 アカデミー作曲賞、主題歌が歌曲賞を受賞。“Bell(ベルのひとりごと)”“Be Our Guest”も歌曲賞にノミネートされました。ブロードウェイ・ミュージカルにもなり、実写映画も作られましたが、確かに『リトル・マーメイド』と比較しても、史上屈指の名曲が連続する奇跡のミュージカルです。作詞は引き続きハワード・アッシュマンが手掛けましたが、完成した映画を観る事なく、若干40歳で急逝してしまいました。

 まずは、サン=サーンスの《動物の謝肉祭》を想起させる神秘的な音楽にナレーションが被さるプロローグが、メルヘン・ムード満点。ヒロインが登場する“Bell(朝の風景)”はミュージカルの醍醐味と言える様々な登場人物が歌う複雑な会話ソングで、魅力的なフレーズやメロディを駆使して、それらを巧みにコラージュしたメンケンの手腕は卓抜です。

 又、マッチョなナルシスト、ガストンの歌“Gaston(強いぞ、ガストン)”は、手下達によるフランス風のワルツで魅力溢れる美しい旋律。サブ・キャラの歌にも関わらず、コンサートでも歌えるクオリティの楽曲です。群衆ソング“The Mob Song(夜襲の歌)”も、ミュージカルらしい劇的な盛り上がりがダイナミック。

 お城でベルを迎えてルミエール達が歌う“Be Our Guest(ひとりぼっちの晩餐会)”は、往年のハリウッド・ミュージカルを彷彿させる華やかなパーティ・ソング。舞台版では花火まで使って盛り上がる中盤のクライマックスで、古風なジャンルをモダンなセンスで甦らせるメンケンらしい、優美なメロディが素晴らしいです。華麗なだけでなく、ほのかにセンチな影がある所が琴線に触れる秘訣。

 その意味では、ベルが野獣への気持ちを自覚する“Something There(愛の芽生え)”は、メンケンのメロディ・メーカーぶりに唸らされる好例。決して派手ではない、さりげない調子の優しいナンバーですが、半音階で移ろう微妙なコード進行が、そっと胸に沁み入ります。勿論、主題歌はミュージカル史に残る名曲ですが、個人的には本編のヴァージョンより、セリーヌ・ディオンとピーボ・ブライソンによるエンド・クレジット版の方が好みです(壮大なアレンジと、コードのリハーモナイズが素敵!)。

 尚、ベルを歌うペイジ・オハラはブロードウェイ仕込みで、野獣を歌うロビー・ベンソンも若手実力派俳優。さらに、燭台とポットをジェリー・オーバック、アンジェラ・ランズベリー、コグズワースをウディ・アレン作品常連のデヴィッド・オグデン・スティアーズという、ベテラン俳優達が歌っています。オーケストラは、弦楽器セクションの大半がなんとニューヨーク・フィルハーモニックのメンバーとのこと。

『アラジン』

 Aladdin (1992年 ウォルト・ディズニー・レコーズ)

 又もやアカデミー作曲賞と、主題歌が歌曲賞を受賞。アラジンとジャスミンが魔法のじゅうたんに乗って空を飛びながら歌う主題歌“A Hole New World(ホール・ニュー・ワールド)”は、シーンも曲も最高にロマンティックで大ヒット。エンディングのヴァージョンは、レジーナ・ベルとピーボ・ブライソンが歌いました。再びタッグを組んだ作詞のハワード・アッシュマンは91年春に亡くなり、『ジーザス・クライスト・スーパースター』『ライオン・キング』のティム・ライスが残りの作詞を担当。

 中東のエキゾチックな音階とゴージャスなミュージカル・ナンバーの、なんと相性の良い事。オープニングの“Arabian Nights(アラビアン・ナイト)”から、濃厚な異国情緒と緊迫感溢れる引きの強いメロディに圧倒されます。アラジンが歌う“One Jump Ahead”は軽快なマイナー・コードのビッグバンド・ジャズとアラビア風のフレーズ、センチなメロディが渾然一体となった、メンケン一流の複雑で、楽しくて、胸を打たれる、驚異的に素晴らしいナンバー。

 同じくオールド・スタイルのビッグバンド・ジャズが楽しい“Friend Like Me(フレンド・ライク・ミー)”(アカデミー歌曲賞ノミネート)はジーニー役のロビン・ウィリアムズの多芸多才な歌と共に大きな聴き所。古風なダンス・チューンなのに、現代人が素直に「良い曲」と感じられるのが凄い所で、作曲をやる人間(私もです)なら「なんでこんな曲が書けるんだ!」とジェラシーで地団駄を踏む事でしょう。

 同じ手法では、ケレン味たっぷりのスペクタクル・チューン“Prince Ali(アリ王子のお通り)”も、一度聴いたら忘れられないメロディが観客を魅了する、古くて新しい驚くべき名曲。主題歌“A Hole New World(ホール・ニュー・ワールド)”も、心に染みる優美で切ないメロディが素晴らしいです。本編のヴァージョンでは、ミュージカル『ミス・サイゴン』のヒロインでブレイクした、リー・サロンガがジャスミン役を歌っています。

『ニュージーズ』

 Newsies (1992年 ウォルト・ディズニー・レコーズ) *海外盤

 新聞売りの少年達のストライキを描いた実写ディズニー映画。ミュージカルにする必要がある内容かどうかはともかく、当時のメンケン人気にあやかる算段もあったのでしょう。映画自体はあまり印象に残らない出来映えですが、ブルース調を中心に活気のある音楽が展開します。

 中では、主人公の青年が歌う心に沁みるバラード、“Santa Fe”が名曲。夜中の街で、一人歌うシチュエーションも素敵です。“Seize the Day”も、ゴスペル風のアレンジが楽しい曲。メンケンらしい陽気なナンバーやワルツの曲もあり、映画よりもサントラだけ聴く方が良いかもしれません。スコアはが作曲した素材を元に、サントラ録音の裏方で活躍しているJ.A.C・レッドフォードが担当。

『Weird Romance』

 Weird Romance (1993年、コロンビア) *海外盤

 92年にオフ・ブロードウェイ、ニューヨークのWPA劇場で制作されたミュージカルで、それぞれ1幕物の『The Girl Who Was Plugged In』と『Her Pilgrim Soul』を組み合わせたオムニバスの形になっています。

 低予算のせいかキーボード2台にパーカッション、ドラム、ベースというバンド編成のアレンジでゴージャス感はありませんが、メンケンらしいメロディ・センスを随所に発揮。曲調も実に多彩で、楽器編成は寂しいものの、オールドスタイルの曲もあります。バラード系のナンバーに限らず、センチメンタルな美しい旋律が続出するのも魅力。音楽的には、『リトル・ショップ・オブ・ホラーズ』よりずっと充実した内容と言えます。

『ノートルダムの鐘』

  The Bells of Notre Dame (1996年 ウォルト・ディズニー・レコーズ)

 『アラジン』後のディズニー・アニメは、ペンタトニックの音階でアメリカ先住民の物語を綴った『ポカホンタス』、ゴスペル調の音楽で神話の世界を描いた『ヘラクレス』と、音楽面でも映画自体も変化を出そうとしすぎて低迷が続いた印象でした。しかし、ヴィクトル・ユーゴーの原作で14世紀パリを舞台にした本作は、映画の内容はともかく、音楽に関しては魅力が復活(アカデミー作曲賞ノミネート)。リリカルなバラードが多いですが、合唱を使った重厚なアレンジや、ほの暗く沈んだ色調も魅力です。

 まずはア・カペラの合唱に続き、壮大なオーケストラがダークな序曲を開始する1曲目の“The Bells of Notre Dame(ノートルダムの鐘)”が秀逸。さらに語り部の人形使いクロバンが、3拍子の軽快なリズムに乗せて哀愁を帯びた雄弁なメロディを歌い始めると、一瞬にして物語の世界に引き込まれます。間奏の民族音楽風アレンジも見事。

 『アマデウス』のトム・ハルス演じるカジモドが歌う“Out There(僕の願い)”は、甘く切ないバラード。こういう求心力の強いキャッチーなメロディは、正にメンケンの才覚です。“Topsy Turvy(トプシー・ターヴィー)”は民俗舞曲のイントロに始まり、往年のミュージカルのような軽快なビッグバンド・ジャズが歌われる楽しい曲。間奏ではジプシー風の舞曲も入ってきて、最後は『美女と野獣』の“Be Our Guest”を彷彿させる大盛り上がりです。

 エメラルダ(セリフはデミ・ムーア、歌は別人)が歌う“God Help the Outcasts(ゴッドヘルプ)”は、3拍子のロマンティックなバラード。“Heaven's Light/Hellfire(天使が僕に/罪の炎)”もメンケンらしいドラマティックなメロディ・センスが光る、美しいバラードです。“A Guy Like You(ガイ・ライク・ユー)”はコミカルな曲調ながら、スタンダード・ナンバー風の上品なアレンジにフランス風のアコーディオン、優美で哀調も含んだメロディが魅力的。

 主題歌は、オール・フォー・ワンが歌う“Someday(サムデイ)”。アレンジこそポップスですが、6/8拍子のメロディがメンケンらしい、実にロマンティックな名バラードです。さらに本編でエスメラルダが歌った“ゴッド・ヘルプ”を、ベット・ミドラーが歌うポップス・ヴァージョンも収録し、これがまた素晴らしい聴きもの。

『アラン・メンケン・コレクション/ファンタジー・ワールド』 デビー・シャピロ・グラヴィテ

 The Alan Menken Album / Debbie Shapiro Gravitte

 (1996年 ヴァーレーズ・サラバンド)

 当盤はサントラではなく、メンケンの名曲をミュージカル界の歌姫が唄い上げたヴォーカル・アルバム。初期の無名作品や結局上演されなかった作品、製作が中止された作品からも楽曲が採られ、ファンにとっては貴重なアルバムに仕上がっています。

 メンケン自身がコメントを寄せているように、彼自身が企画を承諾しただけでなく、お蔵入りになったデモテープやフロッピーディスクまで探し出して、製作に協力しています。彼の、「時には、とても素晴らしいことが不意に訪れたりする。このアルバムは正しくそんな思いを私に味わせてくれた」という言葉は、単なるリップ・サービスではないでしょう。

 『ドリームガールズ』の作詞家トム・イーエンと組んだ『キックス・ザ・ショーガル・ミュージカル』は、『リトル・ショップ・オブ・ホラーズ』の次に手がけた作品。資金繰りがうまく行かず、正式上演はされていませんが、オールド・ファッションなビッグバンド・ジャズをモダンに仕上げた“I Want To Be A Rockette”と切ないバラード“You Are the Only One”を収録。この2曲だけでも後のディズニー・アニメ群に匹敵する名曲なので、何らかの形で復活させて欲しいです。

 ハワード・アッシュマンと組んだベイブ・ルースの物語『ベイブ』、完成しなかったディズニー・ミュージカル映画『リトル・プリンセス』からも1曲ずつ収録。当盤の歌手がデモ・テープでかつて歌ったという、アッシュマンと共作した単独の歌曲“Daughter og God”も入っています。出世作の『リトル・ショップ・オブ・ホラーズ』からは3曲。まだメンケンの個性は爆発していない作品なので、ここに3曲あればサントラを買わなくてもいいかも。比較的出来のいいバラード“Suddenly Seymour”も入っています。

 有名な作品では『リトル・マーメイド』から2曲、『美女と野獣』『アラジン』『ノートルダムの鐘』からそれぞれ1曲が収録され、シンプルながら美しいアレンジと、確かな歌唱力で歌われています。実写ディズニー映画『ニュージーズ』からは、主人公の青年が歌うバラード“Santa Fe”と、ゴスペル風の“Seize the Day”を選曲。

『ホーム・オン・ザ・レンジ/にぎやか農場を救え!』(日本未公開)

  Home on the Range (2004年 ウォルト・ディズニー・レコーズ) *海外盤

 日本未公開のディズニー・アニメ。という事はきっと興行的に失敗したのでしょうが、音楽的にはクオリティが高いです。無名だったグレン・スレイターを作詞家に迎えた最初の作品でもあり、後に『塔の上のラプンツェル』『A Bronx Tale』、ブロードウェイ版の『リトル・マーメイド』『シスター・アクト〜天使にラブソングを〜』等でも組んでいる他、彼はアンドリュー・ロイド・ウェバー作曲の『オペラ座の怪人』の続編、『ラヴ・ネバー・ダイズ』にも起用される売れっ子になりました。

 農場が舞台とあってカントリー調の曲が多いですが、メンケンのメロディ・センスは全面に発揮されています。特にボニー・レイットの“Will the Sun Ever Shine Again”、ティム・マクグロウの“Whatever the Trail May Lead”など、バラード・ナンバーの美しい旋律、しみじみとした情感は秀逸。他にザ・ベウ・シスターズ、k.d.ラングが参加。

 俳優のランディ・クエイドが歌うナンバーはいかにもミュージカルらしいですが、歌の上手さに驚かされます。スコアも数曲収録し、最後にはなんと、メンケン自身がヴォーカルを取った“Anytime You Need a Friend”の別ヴァージョンも登場。

『クリスマスキャロル』

 A Christmas Carol (2004年、ジェイ・プロダクションズ) *海外盤

 93年に製作したステージ・ミュージカルが、NBCテレビで実写映像化。そのサントラが当盤です。予算が安いのかハンガリーで録音されており、ブダペスト・フィルム・オーケストラなる団体が演奏しています。作詞はリン・アーレンズ、オーケストレーションをディズニー・アニメでも組んでいるマイケル・スタロービンが手掛けています。

 さすがにメジャー作品のインパクトはないですが、妖しげなメロディで大きく盛り上がる“Link by Link”“Dancing on Your Grave”や、ゴージャスなハリウッド・レビュー風の“Mister Fezziwig's Annual Chiristmas Ball”“Christmas Together”、リリカルで優しいメロディが耳を惹くバラード“Lights of Long Ago”“God Bless Us Evreyone”など、卓越したソング・ライティング・センスが随所に発揮されています。

『シスター・アクト〜天使にラブ・ソングを〜』

 Sister Act (2009年、ステージ・エンターティメント) *海外盤

 映画『天使にラブソングを…』を、主演女優ウーピー・ゴールドバーグが舞台化。音楽が大きな要素を占め、続編も含めサントラも大ヒットした作品ですが、版権の関係か、売れっ子マーク・シャイマンがプロデュースした映画版の楽曲は一切使われず、現代ミュージカル界の寵児たるメンケンにお鉢が回ってきたようです。作詞は他でもメンケンと組んでいるグレン・スレイター。

 全体に元気一杯に歌い上げるパワフル・ポップが多く、映画版のソウル、ゴスペル色が後退しているのは残念。ヒット作のイメージを払拭して、ポップにリフレッシュしようという事でしょうか。その分、メンケンらしい美しいメロディが随所に挟み込まれます。後半などはクラシカルでゴージャスな雰囲気になってきたりして、言われなければディズニー・アニメかと思ってしまうほど。映画の印象に捉われなければ、素晴らしい音楽と言えます。

『塔の上のラプンツェル』

 Tangled (2011年 ウォルト・ディズニー・レコーズ)

 メンケン久々の、ディズニー・ミュージカル・アニメでのヒット作。『ホーム・オン・ザ・レンジ/にぎやか農場を救え!』でも組んだグレン・スレイターを作詞家に起用しています。ラプンツェルの声、歌はポップ・アイドル出身の女優マンディ・ムーア。邪悪な育て親ゴーテルは2度のエミー賞に輝くベテランの舞台女優ドナ・マーフィー、相手役のフリンにはTVで人気だったザッカリー・リーヴァイを起用しています。

 毎回、音楽にテーマ性を持たせているこのシリーズですが、今回は70年代フォークロックという事でメンケンのセンスとも相性が良く、吉と出た印象。シンプルなメロディに癖のないムーアの歌唱が爽快ですが、そんな中、メンケンらしい抜群のメロディ・センスが展開するデュエット・バラード“I See the Light(輝く未来)”が文句なしの名曲(アカデミー歌曲賞ノミネート)。スリリングなアクションや民族舞曲も盛り込んだスコアも器用に仕上げています。

『ローズウォーターさん、あなたに神さまのお恵みを』

 Kurt Vonegut's God Bless You Mr.Rosewater (2017年、ゴーストライト・レコーズ) *海外盤

 作家カート・ヴォガネットの作品で、作詞家ハワード・アッシュマンとメンケンの初タッグでもある81年作品をリバイバル。音楽に新しく手が加えられているのかもしれませんが、秀逸なメロディ・センスが横溢する魅力的な作品です。曲調は多彩ですが、メンケンらしいモダンなポップ・センスが全体を思い切りキャッチーにしているのはさすが。スケールの大きな盛り上がりもあって、聴き応えのある音楽です。

 8/28 追加!

『美女と野獣』(実写版)

 Beauty and the Beast (2017年 ウォルト・ディズニー・レコーズ)

 ビル・コンドン監督による実写版映画のサントラ。アニメーション版に加えて3曲の新曲が追加されましたが、実際には既存の曲も加筆、発展されていたりして、聴いた印象ではさらに曲が増えたように感じます。追加ナンバーの作詞は、メンケンとも旧知の仲のティム・ライス。

 何と言っても追加ナンバーが素晴らしく、メンケンの才気が健在なのが嬉しいですが、中でも野獣が自らの心境を歌う“Everymore(ひそかな夢)”は、メンケン節全開のひたすら切ないバラードで秀逸。歌手の山崎育三郎は「この曲を歌うといつも泣いてしまう」と語っていましたが、実際にテレビ番組でこの曲を歌った際、アップの画で頬をひと筋の涙が伝っていて、観ているこちらも思わず胸を打たれました。

 サントラはエマ・ワトソンやルーク・エヴァンス、ダン・スティーヴンス、ケヴィン・クライン、イアン・マッケラン、エマ・トンプソン、スタンリー・トゥッチ、ユアン・マクレガーと、意外なスターが豪華競演しています。個人的な好みで言えば、下手ではないですが、大きく歌い崩すスタイルの人もいて微妙。どんなに巧い人であっても、メロディを正確に伝える事はまず必要と私は思います。

 主題感のポップス・ヴァージョンは、アリアナ・グランデとジョン・レジェンドに刷新。歌は文句なしですが、アレンジとプロデュースは、今の耳で聴いてもセリーヌ・ディオンのヴァージョンの方がずっといいです。ジョシュ・グローバンが歌っている“Everymore”のポップス版も聴きもの。

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