ダニー・エルフマン

Danny Elfman

 1953年、ロスアンジェルス生まれ。屈指の売れっ子作曲家ですが、映画音楽を担当したのはティム・バートン監督の『ピーウィーの大冒険』から。多芸多才で知られたLAのロックバンド、オインゴ・ボインゴのフロントマンで、全曲の作詞作曲からメイン・ヴォーカルまで担当。ホーン・セクションを率いた奇抜なアレンジの楽曲と、表現の幅が大きな彼の歌唱スタイルはまんま映画音楽といった趣で、特に初期のアルバムには強烈なインパクトがありました。

 バートンはバンドのファンだった事から彼を抜擢。以後、バートン作品の色彩を決定付けるような音楽を提供し続け、多くの作品でコンビを組んでいます。他にも、『スパイダーマン』のサム・ライミや『グッド・ウィル・ハンティング』のガス・ヴァン・サントなど、何度も組んでいる監督が数名。

 初期の頃はファンタジックで癖の強いスコアが多かったですが、後に叙情的で静かな音楽も得意にするようになりました。バートン作品でも、『ビッグ・アイズ』では環境音楽みたいな妙にお洒落なスコアを書き、言われなければ新世代のポップ・アーティストの作曲かと思ってしまうくらいです。

 03年に女優のブリジット・フォンダと結婚していますが、『シザーハンズ』の頃は脚本を執筆したキャロライン・トンプソンと暮らしていたそうです。オーケストレーションをずっと担当しているスティーヴ・バーテクも、元オインゴ・ボインゴのギタリスト。

*お薦めディスク

『ミュージック・フォー・ア・ダークエンド・シアター』

 Music for a Darkened Theater (1990年 MCAレコーズ)

 エルフマンが映画音楽の世界に飛び込んだ、80年代の仕事を総括するオムニバス。基本的にサントラ盤は、よほど優れた内容でない限りアルバム一枚聴き通すのはしんどいもので、こういうベスト盤はありがたいです。

 90年代に入ってエルフマンの音楽はより多彩な展開を見せるので、ここでは比較的オーソドックスな作品が多いですが、異様なテンションと才気に満ちあふれた『ピーウィーの大冒険』や『ビートルジュース』、『バットマン』と代表作を収録した上、『ディック・トレーシー』『ダークマン』『ミッドナイト・ラン』といったなかなか単独でサントラを買いにくい作品から、低予算映画やTVの仕事までフォローしていて、この時点でのほぼ全作を網羅した充実の内容です。

『ナイトメア・ビフォア・クリスマス』

 The Nightmare Before Christmas (1994年 ウォルト・ディズニー・レコーズ)

 エルフマンの最高傑作の一つ。ミュージカル映画である事が、ロック・バンド出身のポテンシャルを大きく引き出しており、主役以下、何人もの声を担当した彼のヴォーカルにも、オインゴ・ボインゴでの分裂症的な歌唱スタイルがよく生かされています。キャサリン・オハラやポール・ルーベンス(ピーウィー・ハーマン)など、バートン組俳優の歌唱も痛快。

 スコアもソング・ナンバーも驚きのクオリティですが、特に後者が絶品。どの曲も、複雑な和声と繰り返される転調、斬新で美しく、覚えにくいのに一度覚えたら耳から離れない、強い中毒性のあるメロディが秀逸です。正にクルト・ヴァイルの再来と言うべき名曲ばかりで、評価の高いスティーヴン・ソンドハイム(『スウィーニー・トッド』)などは、音楽性の高さと独創的な魅力において、エルフマンの足元にも及ばないと私は思います。

『ミュージック・フォー・ア・ダークエンド・シアターVol.2』

 Music for a Darkened Theater Volume 2 (1996年 MCAサウンドトラックス)

 オムニバス・アルバム第2弾。TVやCM、デモテープまで収録した充実の2枚組です。前作と違うのは、1作の映画に対して3、4曲の音楽を収録している事。

 美しくも悲しいメロディと少年コーラスが印象的な90年代の代表作『シザー・ハンズ』に始まり、バートンとの『バットマン・リターンズ』『ナイトメア・ビフォア・クリスマス』、初期作品を彷彿させるコラージュ風の『誘う女』、有名テーマ曲のリメイク『ミッション:インポッシブル』、叙情的な『黙秘』『ジャック・サマースビー』『ブラック・ビューティー/黒馬物語』と、作風も多彩。

『マーズ・アタック!』

 Mars Attacks! (1996年、アトランティック・レコーディング)

 こちらもティム・バートン作品。エルフマンは、バートンと仲違いをして前作『エド・ウッド』には参加しませんでしたが、本人達も言うように、また一緒に仕事ができて良かったです。彼が書いたメインテーマは、もうこれ以上ないというくらい映画にぴったりで、ブランクなど微塵も感じさせません。異様で斬新なオープニング・タイトルは、このテーマ曲と相まってゾクゾクするような高揚感を生んでいます。

 テルミン風の音を使ったB級SF的な音楽は、ハワード・ショアが作曲した『エド・ウッド』と共通する雰囲気ですが、これは当てつけか、それとも敬意の表明でしょうか。リサ・マリーがホワイトハウスに侵入する場面の、エスニックなリズムに多彩な音素材をミックスした不思議な曲も絶品。

『フラバー』

 Flubber (1997年 ウォルト・ディズニー・レコーズ)

 ジョン・ヒューズ製作、ロビン・ウィリアムズ主演のディズニー映画。博士が発明した空飛ぶゴムをめぐるコメディでリメイク物ですが、後半は見事にジョン・ヒューズ流の、あの手この手を駆使した抱腹絶倒の悪党撃退作戦になっています。

 音楽が最高。マンボやサンバなどラテン・ミュージックの要素を随所に盛り込んだにぎやかな音楽で、千変万化する曲想が実に楽しいです。エルフマンらしい独創的なインスピレーションも横溢し、テルミン風の音を使ったB級映画のテイストもあれば、可愛らしいピアノやゴージャスなビッグバンド・ジャズ、センチで甘酸っぱいメロディ、王道のハリウッド調アクション・スコアと、正におもちゃ箱をひっくり返したような音の万華鏡。

『メン・イン・ブラック』

 Men In Black (1997年、ソニー・ミュージック・サウンドトラック) *輸入盤

 バリー・ソネンフェルド監督の人気シリーズ1作目。何といっても、テーマ曲が素晴らしいです。特徴的なベースのリズムに乗って、弦がぞくぞくするようなリズムを刻み、支離滅裂な金管のロングトーンが飛び交うという、クールでエキサイティングな音楽。

 いかにもエルフマンらしいダークなテイストですが、コメディなので『バットマン』のような重々しい方向には傾きません。追跡アクションでもあるので、ダンス・ミュージック風のリズムを駆使したノリの良い音楽が多く、アルバム全体としても聴きやすいです。シンセの多彩な音色や奇抜な効果音など、斬新なサウンドにも遊び心を感じさせます。勿論、迫力満点の壮大なオーケストラ・スコアもあり。尚、挿入歌中心のサントラと2種類がありますが、スコアのみの方は日本盤が出ていないようです。

『チャーリーとチョコレート工場』

 Charlie anne the Chocolate Factory (2005年 ワーナー・サンセット・レコーズ)

 又もやティム・バートン監督作品で快進撃。何しろ歌モノとあって、『ナイトメア・ビフォア・クリスマス』に勝るとも劣らぬほど音楽がクローズ・アップされています。エルフマンは、原作者ロアルド・ダールの歌詞をほぼそのまま使用し、全てのソング・ナンバーを作曲しただけでなく、ヴォーカルとコーラスも一人で担当しています。

 正に彼の面目躍如たる活躍ぶりですが、マイクの歌なんて千変万化する曲想といい、B級映画風のメロディやサウンドといい、オインゴ・ボインゴの初期作品そのまんまです。又、ヴェルーカの歌ではクイーンのようなコーラスと甘いメロディがサイケデリック・ポップの様相を呈し、オーガスタスの歌ではボリウッド・ミュージカル風のエキゾチックなリズムを用いるなど、全ての歌を違うテイストで作曲。

 劇伴スコアでもチープなシンセ音でSFチックな雰囲気を出す一方、重厚でミステリアスな過去のバートン作品も継承しているし、繊細でファンタスティックなオーケストレーションも聴かれます。ジャングル・クルーズの場面も、不気味な男声コーラスを使った土俗的な雰囲気がエキサイティング。全編に遊び心とユーモアが横溢する傑作です。

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