ジョン・コリリアーノ

John Corigliano

 映画音楽の作曲家ではなく、英語でいう“シリアス・ミュージック”、ジャンルで言えばクラシック音楽の、コンテンポラリーな職業作曲家。クラシック・ファンなら交響曲や協奏曲作品で名前を聞いた事があるだろうし、ニューヨークのメトロポリタン歌劇場による数十年振りの新作委嘱となった歌劇《ヴェルサイユの幽霊》は、90年代初頭のプレミアがNHKで放映され、レーザーディスクも発売もされた。

 現代アメリカの作曲家だけあって、映画には興味がある様子。作品は非常に少ないが、依頼されれば内容によって引き受けるというスタンスなのかも。特に初めての作品『アルタード・ステーツ』は、映画音楽専門の作曲家には到底書けないような、クオリティの高いスコア。

 演奏会用の純粋な管弦楽作品は真面目すぎて遊び心がないので、舞台や映画の音楽が圧倒的に面白い。映像や日本語訳の歌詞カードは無いが、歌劇《ヴェルサイユの幽霊(The Ghost of Versailles)》はジェイムズ・コンロン指揮、ロスアンジェルス・オペラの優れた演奏でCD化されているので是非。バリバリの現代音楽からモーツァルト、民族音楽、電子音楽など、多彩なジャンルのごった煮が実に楽しい。

*お薦めディスク

『アルタード・ステーツ』

 Altered States (1981年 RCA) *輸入盤

 変態監督ケン・ラッセルの映画サントラ。音楽に造詣の深いラッセルだけあって、作曲家のチョイスはいつもユニークだが、コリリアーノとは発想が凄い。特殊な液体で満たした装置に入った科学者が、人智を越えた超越体験をするというトリップ・ムービーで、めくるめく幻惑的映像を展開したイメージ映像はラッセル節全開。それを大仰で前衛的なオーケストラが盛り上げるからたまらない。

 特に最初の幻覚シーンの音楽は、ジャングルの鳥が鳴き交わすような管楽器のリフレインから始まって、複雑に入り乱れるポリフォニーの中、原始的な太鼓のリズムでカオスに達するという、圧倒的な音楽。歌劇《ヴェルサイユの幽霊》でも、現代音楽にモーツァルトやロッシーニの断片をコラージュするなど、折衷的な作風を聴かせた人だけあって、ぶっとんだ音楽はお手の物。

『レヴォリューション』

 Revolution (1985年 ヴァーレーズ・サラバンド) *輸入盤

 ヒュー・ハドソン監督、コリリアーノの映画音楽第2作。フルートの名手、ジェームズ・ゴールウェイのソロをフィーチャーし、英国の録音用オーケストラ、ナショナル・フィルハーモニー管弦楽団が演奏した贅沢なサントラ。

 冒頭から前衛テイスト炸裂で、圧倒的。思わずたじろぐ迫力があるが、その後の静けさに清冽な笛の高音が響き渡るなど、対比の妙もダイナミック。フルートの旋律は美しく和声的で、こういう折衷的な作風の作曲家は、確かに映画音楽にも向いているかも。妙に陽気な、親しみやすい舞曲まである。

 さらに、この舞曲がフェイド・アウトしていって、叙情的なロングトーンの音楽が代わりに浮かび上がってくるという、コンサートでの実演は不可能なミックス・トラックもあり。まあそれはともかく、シリアス・ミュージックのアルバムとして鑑賞できるクオリティが、コリリアーノ作品の売りと言えるだろう。

『レッド・バイオリン』

 The Red Violin (1998年 ソニー・クラシカル)

 一台のヴァイオリンが辿る数奇な運命を描いた、フランソワ・ジラール監督作。グレン・グールドのドキュメンタリーなど、クラシック音楽に造詣が深い監督だけあって、名手ジョシュア・ベルのソロ、エサ=ペッカ・サロネンが指揮する英国の名門フィルハーモニア管弦楽団と、演奏も豪華キャスティング。

 イタリアのクレモナ、ウィーン、オックスフォード、上海、モントリオールと、国も時代も移り変わってゆく壮大な映画だが、音楽は一貫して叙情的で沈鬱なトーン。派手さはなく、コリリアーノ作品の中でも正統派だが、美しく緊張感のあるテーマ曲や、熟練のオーケストレーションは絶妙。圧巻はコンサート向けに編曲された18分の大作《シャコンヌ》で、コリリアーノらしい前衛的な手法や躍動的なリズム、ダイナミックな起伏も聴けて素晴らしい。

 3/10 追加!

『復讐捜査線』(未使用スコア)

 Music from the Edge (2009年 Perseverance Records) *輸入盤

 リジェクト・スコア。マーティン・キャンベル監督、メル・ギブソン主演で、オリジナル・タイトルは“Edge of Darkness”となっていて、このアルバムのタイトルとは少し違うが、複数のソースにそう書いてあるので間違いないのだろう。同じ映画で間違いなければ、完成版の音楽はハワード・ショアのものを採用。

 こちらはレナード・スラットキンが指揮し、ロンドン・メトロポリタン・オーケストラが演奏した本格的なアルバムで、やはりシリアス・ミュージックとして聴ける仕様である。

 曲はコリリアーノらしい、トーン・クラスターっぽい前衛的手法もあるが、『アルタード・ステーツ』『レボリューション』ほどの面白さや聴き応えがないのはちょっと残念。それでも、コンサート用の管弦楽曲はあまり面白くなかったりするので、多少なりともこういうハッタリのあるコリリアーノ作品は、聴けるだけで貴重である。

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