ハンス・ジマー

(ハンス・ツィマー)

Hans Zimmer

 57年、ドイツのフランクフルト生まれ。超売れっ子作曲家にして、ドリームワークスの映画音楽部門統括責任者。英国でトレヴァー・ホーンのユニット、バグルズのメンバーとしてポップ・ミュージックの世界からキャリアをスタートさせたという、ユニークな経歴の持ち主です。82年、スタンリー・マイヤーズと『Moonlighting』を手掛けて映画の世界に入り、シンセサイザーとオーケストラを巧みにミックスさせた独特のサウンドで一大ブームを牽引。

 アニメ『ライオン・キング』でアカデミー賞受賞、ノミネートは『レインマン』『恋愛小説家』『シン・レッド・ライン』『天使の贈り物』『プリンス・オブ・エジプト』『グラディエーター』と何度にも渡ります。他に、『ドライビング・ミス・デイジー』『M:I2』『心の旅』『パシフィック・ハイツ』『グリーンカード』『ザ・ロック』『パール・ハーバー』『トイズ』『プリティ・リーグ』『ピース・メーカー』『トゥルー・ロマンス』『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズ、『ダヴィンチ・コード』シリーズなど、代表作も数え切れないほど。

*お薦めディスク

『バックドラフト』

 Backdraft (1991年 Milan)

 ロン・ハワード監督作品。TV番組『料理の鉄人』にテーマ曲が使われたので、日本では特に有名です。アイリッシュの音階を使ったメロディで、オーケストレーションにも高揚感もあって、日本人の感覚に合うのかもしれません。個人的にはこのテーマ曲よりも、最後の敬礼の場面で頂点を迎えるまで長々と続く、悲しくも美しいオーケストラ・スコアが傑作だと思います。

 80年代のジマーは、『レインマン』などシンセを使う新感覚のライトな作曲家というイメージでしたが、本作の重厚な音楽はオーケストラ・スコアの旗手として彼を強く印象付けました。特に、複雑な陰影に富んだクラシック風の和声法は他の作曲家にないもので、登場人物の悲痛な胸の内を表現していて素晴らしいです。全員敬礼の構図の中央でレベッカ・デモーネイが一人泣き崩れ、そこに消防士のテーマが高らかに鳴り響く所を頂点に持ってくる設計は、監督の演出も秀逸。

『ライオン・キング』

 The Lion King (1994年 ウォルト・ディズニー・レコーズ)

 ジマー初のアカデミー賞に輝いた、ディズニーのミュージカル・アニメ。ソング・ナンバーをエルトン・ジョンが手掛け(作詞はティム・ライス)、アレンジとスコアをジマーが担当。ただし歌に関しては“Circle of Life(サークル・オブ・ライフ)”“Be Prepared(準備をしておけ)”だけがジマーのプロデュース、アレンジで、後はジマー組のマーク・マンシーナが担当しています。

 物悲しくも勇壮な3拍子のテーマ曲の他、ヌーの暴走シーンでは迫力のアクション・スコアの中にクラシック風の複雑な和声を盛り込んでくる辺り、ゾクゾクさせられます。その後、シンバが瀕死の父を発見する箇所での、限りなく哀切で優しいメロディも落涙必至。アラン・シルヴェストリによる『フォレスト・ガンプ』を抑えてのオスカー受賞も納得です(シルヴェストリにもあげたかったけどな〜)。

 ソング・ナンバー2曲のアレンジも最高で、“Circle of Life”の壮大で感動的な盛り上がり、ラテンのリズムを使った“Be Prepared”のエキサイティングな高揚感もさすが。又、マンシーナがアレンジしたバラード“Can You Feel the Love Tonight(愛を感じて)”や、民族音楽風の“Hakuna Matata(ハクナ・マタタ)”も有名で、充実したアルバムとなっています(英語版と日本語版があるので注意)。

 ちなみにサントラ続編の『ライオン・キング2/SIMBA'S PRIDE』は、スコアは収録されていないものの、リボMが中心となったコーラス曲など、よりアフリカンな内容。ジマーが作曲やプロデュースに参加した曲は少なめですが、マンシーナが作曲したソング・ナンバー“He Lives in You(心の中の王)”は舞台版で人気のある名曲だし、“The Lion Sleeps Tonight(ライオンは寝ている)”もCMで使われて有名です。

 ジュリー・テイモアが演出したブロードウェイ・ミュージカル版のサントラも出ていて、映画版にはないナンバーも収録されていますが、この仕事で活躍したのはマーク・マンシーナの方。劇場での生演奏を想定しているので、広大なスケール感のある映画版のサウンドとは印象が異なります。尚、ティム・ライス、エルトン・ジョン、ジマーの布陣ではドリームワークスで『エル・ドラド』という映画も作られましたが、音楽的にはパッとしませんでした。

『グラディエーター』

 Gladiator (1994年 ハリウッド・レコーズ)

 こちらもオスカー・ノミネートの傑作。一度聴いたら忘れられない勇壮なテーマ曲や、リサ・ジェラルドのヴォーカルをフィーチャーした哀切なサブ・テーマ、ホルストやリヒャルト・シュトラウスを彷彿させる戦闘シーン、ワーグナーをパロディにしたローマ帝国の音楽など、多彩な引き出しとクオリティの高い音楽性で聴かせます。

 ジマー自身、ここまでインスピレーションに溢れたスコアを書く事はそうそうなく、良い脚本、良いフィルムには、作曲家も刺激されるんだなあと痛感。ジマーも、オーケストラの奏者たちが「これはどういう映画なのか」と興味を示して訊いてきたのは初めての事だった、と述懐しています。

『プリンス・オブ・エジプト』

 The Prince of Egypt (1998年 ドリームワークス・レコーズ)

 豪華ミュージシャン、俳優が参加した、ドリームワークス製作のミュージカル・アニメ。預言者モーセの物語です。ソング・ナンバーは、ブロードウェイ・ミュージカル『ゴッドスペル』のスティーヴン・シュワルツが作詞作曲し、ジマーがプロデュース。スコアの作曲は、全面的にジマーが引き受けています。

 ジマーはアレンジのみを担っていますが、シュワルツの曲作りと共に歌がドラマティックで素晴らしいです。ドリームワークスはこの後、『ライオン・キング』の二番煎じ的な企画で『エル・ドラド』というアニメを作り、再びエルトン・ジョンとジマーのタッグを実現させていますが、音楽的には『プリンス・オブ・エジプト』の方がずっと上だと思います。

 どのナンバーもエキゾチックで壮大、エモーショナルな曲ばかり。歌っている俳優陣、スティーヴ・マーティン、レイフ・ファインズ、マーティン・ショート、ミシェル・ファイファーらや、アラブの歌姫オフラ・ハザ達のパフォーマンスも聴き所です。ジマーのスコアも、実写映画でさえなかなか聴けないほど生き生きとしていて、アラブ風のテイストも取り入れてすこぶるキャッチーな仕上がり。

 ポップ・ファンにも話題性の高いサントラで、シュワルツがベイビーフェイスと共作した“When You Blieve”は、なんとホイットニー・ヒューストンとマライア・キャリーの豪華デュエット(異国情緒溢れる曲自体も素晴らしい!)。ボーイズ2メンのアカペラ曲は、売れっ子ダイアン・ウォーレンが作曲。

 そして、セイヴ・ザ・ミュージックのためのチャリティ作品“Humanity”は、本編の声優ダニー・グローヴァー、ヘレン・ミレン、パトリック・スチュワート、ヴァル・キルマーら俳優陣の他、ソウルやカントリー、R&Bまで30組のアーティストが参加。ブラコン風で憂いのある曲調も魅力的です。とにかく全編豪華なアルバム。

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