アラン・シルヴェストリ

Alan Silvestri

 1950年、ニューヨーク生まれ。名門バークリー音楽院を卒業後、ギター・プレイヤーとしてバンドで活動。友人が担当する筈だった『ドーベルマン・ギャング』(72年)を手伝った事で業界入りし、TVシリーズ『スタスキー&ハッチ』『白バイ野郎/ジョン&パンチ』を手掛けた縁で、ロバート・ゼメキス監督の『ロマンシング・ストーン/秘宝の谷』に3分間のアクション・スコアを提供。ゼメキスとのコラボの端緒となる。

 有名な話ですが、20歳で『ドーベルマン・ギャング』の音楽を依頼された時は、映画音楽の書き方なんて何も知らず、慌ててアール・ヘイガンの《映画音楽の作曲法》を読んだといいます。そこに書いてある事を片っ端から試し、自分のアイデアも盛り込んで仕上げました。

 業界きっての売れっ子ですが、彼の特徴は作風の広さと、インパクトの強いメロディや楽想を作るセンス。オーケストラの重厚な音楽を作曲できる人はたくさんいますが、その中で「良い曲」を作れる人はほんのひと握りです。オーケストレーションは他人に任せていますが、指揮とアルバム・プロデュースは自身で担当。

 とにかく引き出しの多い人で、『アビス』の印象を決定付けた神秘的な合唱の和音や、『フォレスト・ガンプ』の清冽なメロディ、『プレデター』の緊迫感溢れるミリタリー調、『ロジャー・ラビット』のジャズ、『プラスティック・ナイトメア』の凍り付くように冷たい美しさ、『ベオウルフ』のぞくぞくするような土俗的リズム、『ザ・メキシカン』の飄々とした口笛のワルツ、『花嫁のパパ』の華麗でロマンティックなスコアなど、枚挙に暇がありません。

 初期作品はシンセサイザーのスコアが多い印象。出世作となった『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の頃も、正直「シルヴェストリ、誰だそれ?」という感じでしたが、派手にオーケストラを鳴らしながらモダンな和声を駆使した音楽は、新時代の幕開けのようでとても新鮮でした。ハリウッドらしい薄手なサウンドは当時の流行で、90年代以降は暗く重厚なサウンドも聴かれます。

*お薦めディスク

『ロジャー・ラビット』

 Who fromed Roger Rabbit (1988年 タッチストーン・レコーズ)

 ロバート・ゼメキス監督とのコンビ作。シルヴェストリには珍しくロンドン交響楽団を起用しているのと、ジャズの要素を取り入れたユニークなスコアが出色です。

 元スピルバーグ夫人のエイミー・アーヴィングが歌うナイトクラブ調のナンバーもあれば、ホンキー・トンク・ピアノが連弾で“ハンガリー狂詩曲”を弾き、ディキシーランド・ジャズも飛び出すという、作曲家の懐の深さを聴かせるこのアルバム。ソロ・アーティストにもサックスのトム・スコット、トランペットのジェリー・ヘイ、ドラムのハーヴェイ・メイソンなど、豪華ゲストを起用。

『プラスティック・ナイトメア/仮面の情事』

 Shattered (1991年 Milan)

 あまり知られていないヴォルフガング・ペーターゼン監督のサスペンス映画ですが、ひんやりとクールで、磨き抜かれた美しさを放つテーマ曲が魅力的。ヒッチコック映画のバーナード・ハーマンを意識しているのかもしれません。シルヴェストリには珍しく、オーケストレーションを自身で担当していますが、結果はこちらの方が優れているように感じます。メロディとしては、全編を通じてこの1曲のみなのが残念。

『花嫁のパパ』

 Father of the Bride (1991年、ヴァーレーズ・サラバンド)

 コメディも得意なシルヴェストリの、特に成功している作品。ワーグナーやメンデルスゾーンの結婚行進曲を組み合わせて華麗にアレンジしたオープニングから、一気にロマンティックな世界観に引き込まれます。叙情的で切ないテーマ曲は、そのまま『フォレスト・ガンプ』の世界にも繋がってゆくもの。

 恋愛コメディ映画には珍しく、ほぼスコアだけのアルバムですが、有名なパッヘルベルの《カノン》と、ジェローム・カーン作曲の“The Way Look Tonight(今宵の君は)”が挿入曲として収録されています。続編と、そのサントラもあり。

『フォレスト・ガンプ/一期一会』

 Forrest Gump (1994年 エピック・サウンドトラックス)

 こちらもゼメキス作品。アカデミー賞にノミネートされましたが、同様に素晴らしかった『ライオン・キング』とかち合ってしまい、ハンス・ジマーに賞を持っていかれたのは残念でした(ジマーにはその後もチャンスがありましたが、シルヴェストリはここが勝負だったと思います)。

 敢えて単純な和音と旋律で、明朗純真なメロディをゆったりと奏でるメイン・テーマの他、ピアノが素直で優しい旋律を弾ませるサブ・テーマ、ほの暗いクラリネットの調べがストリングスのエモーショナルな歌に発展するテーマなど、どれもがTV番組などのBGMに使用された有名なメロディ。情感が溢れ出すようなリリカルなスコアは、シルヴェストリ作品の中でも特に魅力的なものです。尚、スコアのみのアルバムと、挿入歌で構成したサントラの2種が出ているので注意。

『キャスト・アウェイ』

 Cast Away (2001年、ヴァーレーズ・サラバンド)

 こちらもゼメキス作品ですが、実質的にはゼメキスとシルヴェストリのコラボを集めたベスト盤。『ロマンシング・ストーン』のエンド・クレジットから始まり、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』3部作それぞれの組曲、『永遠に美しく…』『コンタクト』『ホワット・ライズ・ビニーズ』『キャスト・アウェイ』のエンド・クレジットに、『フォレスト・ガンプ』の組曲と、すこぶる充実した内容です。

 タイトル作の『キャスト・アウェイ』は、主人公が無人島に漂着してから全く音楽のない演出が話題となりましたが、それゆえサントラ盤にできるほど音楽が付いていません。でもこの、上昇音型をぽつりぽつりと繰り返す、行ったきり返ってこない音を繋ぎ止めてゆくような音楽は、一度聴いただけで深く心に残ります。取り返しの付かない時間の流れを、痛切に描いた映画本編も素敵でした。

『ポーラー・エクスプレス』

 The Polar Express (2004年 リプライズ・レコーズ)

 パフォーマンス・キャプチャーを取り入れた、ゼメキス初のアニメ作品。シルヴェストリには珍しく、歌が数曲入っているのが聴き所です。ジョン・ウィリアムズの『フック』もそうですが、ハリウッドの売れっ子作曲家は歌の作曲も非常にうまく、たまにでもいいからミュージカルに挑戦して欲しいと思わないでもありません。

 クリスマス・ソングのスタンダードも入っている他、エアロスミスのスティーヴン・タイラー初のソロ曲や、デヴィッド・フォスターの秘蔵っ子ジョシュ・グローバンのナンバーもシルヴェストリ作曲で、それも聴き所。スコアの方は、機関車のイメージを模倣してみたり、壮大なスケールでクライマックスを描写したり、原作の絵本が好きな人にはエンタメ色が鼻につくかもしれませんが、映画の劇伴としては魅力的です。

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