オスカーを受賞した名作の、24年ぶりの続編。設定は前作から繋がっているが、ストーリーのパターンが前作とほぼ同じで、続編というよりリメイクに見えてしまうのは残念。とはいえ、この設定で続編を考えたらこうならざるをえないのかもしれないし、悲劇的で哀切な前作とは違い、希望のあるラストで対比を効かせてはいる。 前作の登場人物はほとんどが死んでしまっているので、再度登場するキャラクターは、回想シーンを除けばルッシラと元老院議員グラックスのみ。とはいえ製作陣や撮影のジョン・マシソン、美術のアーサー・マックス、衣装のジャンティ・イェーツなど、メイン・スタッフの多くが前作と共通しているのは凄い(みんな相当な高齢だろうが)。 ストーリー展開がほぼ同じといっても、色々とグレードアップやひねりはある。残忍な皇帝コモドゥスの座は、精神の不安定な若い双子の皇帝ゲタとカラカラに引き継がれた。彼らにはもはやリーダーとしてのヴィジョンもポリシーもなく、人望や統率力もない。コモドゥスよりさらに人間性が劣るがゆえ、悪役としては結果的に上位変換になるという皮肉な図式である。こうしてまた、劣化リーダーへの権力の交代によって悲劇が起こるという、スコット作品共通のテーマも継承される。 また闘技場で戦う動物たちは、凶暴なサル軍団に始まって次はサイ、さらには水を溜めて船を浮かべ、サメの群を放つ。ほとんど苦肉の策にも見えるアイデアだが、闘技場に水を入れて海戦を再現したのは史実だそうである。一方サルはインタビュー映像でそうと分かったが、外見も動きも怪物じみていて、ついに歴史物に架空のモンスターを出したかと勘違いしてしまった。 ローマ軍の大将アカシウスがルッシラやハンノと意外な関わり方をしてきたり、奴隷商人マクリヌスが暗躍を始めたりと作劇の工夫はあるが、前作と比較するとどうしてもクオリティが落ちる感は否めない。脚本家が変わってダイアローグに文学的奥行きが無くなった事と、主人公の内面において哀しみよりも怒りの方が強い事は、映画全体の情感に影響を及ぼしているように思う。 妻と母親の両方を、同じように弓矢の一撃で奪われるルシアスの宿命感は悲痛すぎるが、作り手も主演俳優も案外そこにはあまり頓着しない。皇帝たちの行動原理に強固な目的意識や精神的背景が無い分、人間ドラマの複雑さも影を潜めた。 また、スコット作品では見た事もないような壮大な風景が現出するのに驚かされるのが常だが、第1作のローマ帝国を既に見ているせいか、本作はどうも新鮮な驚きに欠ける。むしろ、メイキング映像でセットの全貌を見る方がずっと驚きである。まるで巨大なテーマパークを新しく建設したようなもので、今でもこんな大規模な映画製作が行われている事に感動すら覚える(スコット曰く、それでもデジタルより安いそうだ)。 とはいえ、もちろん1作目のスケールをさらに拡大したプロダクション・デザインは、スコット作品でなければ見られないものである。特に冒頭のヌミディアの海戦と、闘技場における海戦再現ショーの迫力は想像力と技術力の勝利と言えるだろう。 作曲家も交代した。前作の音楽を書いたハンス・ジマーは、「女性にも最後まで観て欲しいから、感情豊かな音楽にした」と語っていたが、本作では残念ながらエモーショナルな叙情性が後退し、勇壮で印象的だった前作のテーマ曲に代わるものも聴かれない(前作の音楽は一部使われている)。 |