グラディエーター/英雄を呼ぶ声

Gladiator

2024年、アメリカ (148分)

 監督:リドリー・スコット

 製作総指揮:ウォルター・パークス、ローリー・マクドナルド

       レイモンド・カーク、アイダン・エリオット

 製作:ダグラス・ウィック、リドリー・スコット

    ルーシー・フィッシャー、マイケル・プルス

    デヴィッド・フランゾーニ

 共同製作:テレサ・ケリー、ニッキー・ペニー

      ウィンストン・アゾパルディ

 脚本:デヴィッド・スカルパ

(原案:デヴィッド・スカルパ、ピーター・クレイグ)

 撮影監督:ジョン・マシソン, B.S.C.

 プロダクション・デザイナー:アーサー・マックス

 衣装デザイナー:ジャンティ・イェーツ、デイヴ・ロスマン(軍服)

 編集:クレア・シンプソン、サム・レスティヴォ

 音楽:ハリー・グレッグソン=ウィリアムズ

 ユニット・プロダクション・マネージャー:レイモンド・カーク、ダレン・チェスニー

 第1助監督:ベン・バート

 第2助監督:ダン・ジョン

 映像効果製作:ニッキー・ペニー

 出演:ポール・メスカル  デンゼル・ワシントン

    ペドロ・パスカル  コニー・ニールセン

    ジョセフ・クイン  フレッド・ヘッキンジャー

    リオール・ラズ  デレク・ジャコビ

    ピーター・メンサ  マット・ルーカス

    アレクサンダー・カリム

* ストーリー

 将軍アカシウス率いるローマ帝国軍の侵攻により、妻も故郷も失ったルシアス。奴隷商人マクリヌスの目に留まったルシアスは、剣闘士としてローマに連れて来られる。しかし彼はコロセウムで闘いながら、ローマへの復讐を胸に誓っていた。

* コメント  *ネタバレ注意!

 オスカーを受賞した名作の、24年ぶりの続編。設定は前作から繋がっているが、ストーリーのパターンが前作とほぼ同じで、続編というよりリメイクに見えてしまうのは残念。とはいえ、この設定で続編を考えたらこうならざるをえないのかもしれないし、悲劇的で哀切な前作とは違い、希望のあるラストで対比を効かせてはいる。

 前作の登場人物はほとんどが死んでしまっているので、再度登場するキャラクターは、回想シーンを除けばルッシラと元老院議員グラックスのみ。とはいえ製作陣や撮影のジョン・マシソン、美術のアーサー・マックス、衣装のジャンティ・イェーツなど、メイン・スタッフの多くが前作と共通しているのは凄い(みんな相当な高齢だろうが)。

 ストーリー展開がほぼ同じといっても、色々とグレードアップやひねりはある。残忍な皇帝コモドゥスの座は、精神の不安定な若い双子の皇帝ゲタとカラカラに引き継がれた。彼らにはもはやリーダーとしてのヴィジョンもポリシーもなく、人望や統率力もない。コモドゥスよりさらに人間性が劣るがゆえ、悪役としては結果的に上位変換になるという皮肉な図式である。こうしてまた、劣化リーダーへの権力の交代によって悲劇が起こるという、スコット作品共通のテーマも継承される。

 また闘技場で戦う動物たちは、凶暴なサル軍団に始まって次はサイ、さらには水を溜めて船を浮かべ、サメの群を放つ。ほとんど苦肉の策にも見えるアイデアだが、闘技場に水を入れて海戦を再現したのは史実だそうである。一方サルはインタビュー映像でそうと分かったが、外見も動きも怪物じみていて、ついに歴史物に架空のモンスターを出したかと勘違いしてしまった。

 ローマ軍の大将アカシウスがルッシラやハンノと意外な関わり方をしてきたり、奴隷商人マクリヌスが暗躍を始めたりと作劇の工夫はあるが、前作と比較するとどうしてもクオリティが落ちる感は否めない。脚本家が変わってダイアローグに文学的奥行きが無くなった事と、主人公の内面において哀しみよりも怒りの方が強い事は、映画全体の情感に影響を及ぼしているように思う。

 妻と母親の両方を、同じように弓矢の一撃で奪われるルシアスの宿命感は悲痛すぎるが、作り手も主演俳優も案外そこにはあまり頓着しない。皇帝たちの行動原理に強固な目的意識や精神的背景が無い分、人間ドラマの複雑さも影を潜めた。

 また、スコット作品では見た事もないような壮大な風景が現出するのに驚かされるのが常だが、第1作のローマ帝国を既に見ているせいか、本作はどうも新鮮な驚きに欠ける。むしろ、メイキング映像でセットの全貌を見る方がずっと驚きである。まるで巨大なテーマパークを新しく建設したようなもので、今でもこんな大規模な映画製作が行われている事に感動すら覚える(スコット曰く、それでもデジタルより安いそうだ)。

 とはいえ、もちろん1作目のスケールをさらに拡大したプロダクション・デザインは、スコット作品でなければ見られないものである。特に冒頭のヌミディアの海戦と、闘技場における海戦再現ショーの迫力は想像力と技術力の勝利と言えるだろう。 

 作曲家も交代した。前作の音楽を書いたハンス・ジマーは、「女性にも最後まで観て欲しいから、感情豊かな音楽にした」と語っていたが、本作では残念ながらエモーショナルな叙情性が後退し、勇壮で印象的だった前作のテーマ曲に代わるものも聴かれない(前作の音楽は一部使われている)。

* スタッフ

 製作はスコット自身と右腕テレサ・ケリー、『ナポレオン』のレイモンド・カーク、アイダン・エリオット、マイケル・プルス、第1作の脚本・製作を担ったデヴィッド・フランゾーニ、ダグラス・ウィック、ドリームワークスの社長として前作をプロデュースしたウォルター・パークスとローリー・マクドナルド夫妻ら。

 脚本は、『ゲティ家の身代金』『ナポレオン』でスコットと組んだデヴィッド・スカルパ。彼はAmazonでスコットが製作したSFシリーズ『高い城の男』にも製作総指揮、数本のエピソード執筆で参加している。

 メイン・スタッフは皆スコット組で、前作の顔ぶれも集結。撮影監督のジョン・マシソン、プロダクション・デザイナーのアーサー・マックス、衣装のジャンティ・イェーツ、他のスコット組からは編集のクレア・シンプソンとサム・レスティヴォ、音楽のハリー・グレッグソン=ウィリアムズ。

 製作スタイルは相変わらずで、緻密にストーリーボードを描いて事前に準備し、多数のキャメラでどんどん撮ってゆく。スコット曰く、「『ナポレオン』は48日、本作は50日で撮影した。普通はその2倍かかる」。そもそもプロデューサーとして旺盛に活動しているから、自身の監督作も発表のペースが速い。「次から次へと製作するスタイルが自分に向いていると分かった。1本撮り終えて、次が数年後というのは長過ぎる」。

 本作もスコットお気に入りのモロッコやマルタで撮影されていて、巨大セットを建設している様は壮観。特に冒頭のヌミディアの海戦とコロセウムの海戦再現ショーは、なんと砂漠で撮影してCGで水を足している。完成映像を見てもそうは思えないほどだが、全てをCGで描く昨今の映像とは違って迫真力が桁違い。

 編集のシンプソンによれば、本作のポスト・プロダクションは通常と違い、編集、映像効果、音響、音楽の各部門が同時進行で作業したという。各部門がお互いに連携しあう必要はあったが、それによるメリットもあり、仮の音楽ではなく、本編の曲を最初から使う事ができたのも贅沢な環境だった。

 スコット曰く、「凡庸な映像は編集で良く見せる事ができるが、良い映像は編集ミスで台無しになる」。これだけ多くのキャメラを使うと編集作業は膨大で、編集のレスティヴォによると「クレア(・シンプソン)と2人で、全ての撮影素材を見た。現場では9から10台のキャメラを使っている。それらを1日で全て見るには、画面上で複数の映像を並べて確認するんだ」と語る。

* キャスト

 前作からの続投はルッシラを演じたコニー・ニールセンと、グラックスを演じたデレク・ジャコビのみ。主人公ルシアスは、『aftersun/アフターサン』のポール・メスカル。ずっと観ているとそれなりに主人公と感じられもするが、ラッセル・クロウに匹敵するスター性と存在感はさすがに望めない。

 マクリヌス役はデンゼル・ワシントンで、恐らく唯一のスター級キャスト。アカシウスは『ファンタスティック4/ファースト・ステップ』『スター・ウォーズ/マンダロリアン・アンド・グローグー』のペドロ・パスカル。ゲタは同じく『ファンタスティック4/ファースト・ステップ』や『クワイエット・プレイス:DAY1』のジョセフ・クイン、カラカラは『地獄のサマーキャンプ』、『フィアー・ストリート』シリーズのフレッド・ヘッキンジャー。

* アカデミー賞

◎受賞/衣装デザイン賞

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