マッチスティック・メン

Matchstick Men

2003年、アメリカ (116分)

 監督:リドリー・スコット

 製作総指揮:ロバート・ゼメキス

 製作:ジャック・ラプケ、リドリー・スコット

    スティーヴ・スターキー、ショーン・ベイリー

    テッド・グリフィン

 共同製作:チャールズ・J・D・シュリッセル

      ジャニーナ・ファシオ

 脚本:ニコラス・グリフィン、テッド・グリフィン

 (原作:エリック・ガルシア)

 撮影監督:ジョン・マシソン, B.S.C.

 プロダクション・デザイナー:トム・フォーデン

 衣装デザイナー:マイケル・カプラン

 編集:ドディ・ドーン

 音楽:ハンス・ジマー

 ポスト・プロダクション監修:テレサ・ケリー

 音楽監修:ドディ・ドーン

 音楽監修、音楽編集:マルク・ストライテンフェルト

 出演:ニコラス・ケイジ  サム・ロックウェル

    アリソン・ローマン  ブルース・アルトマン

    ブルース・マックギル  シーラ・ケリー

* ストーリー

 詐欺師のロイは極度の潔癖症。そんな彼も、詐欺を実行している時だけは潔癖症を忘れ芸術的な手腕を発揮するのだった。ある日、ロイの前に14歳の少女アンジェラが現われる。彼女は離婚した妻との間に生まれたロイの娘だった。突然娘と暮らす事になり困惑するロイだったが、アンジェラは彼が詐欺師だと知り、弟子にしてくれと言い出すのだった。

* コメント

 スコット久々のコメディ系作品。まあ仕掛けのある映画だと分かって観る人には、大体予想の付く展開です。どんでん返しというものはその性質上、一回きりしか通用しないものなので、私はあまり重視しません。それよりも、繰り返しの鑑賞に耐えうる作品かどうかが大事ですが、本作に漠然と漂う居心地の悪さが私だけのものではないとしたら、それは本作がコメディなのか否かという態度を、作り手が保留にしたまま完成されている点にあるのではないでしょうか。

 ジャンプ・カットや早回しを多用して軽妙なタッチを押し出した本作は、確かにコメディ・タッチで撮られてはいますが、ストーリーやダイアローグには特に笑える所がありません。スコット自身も、脚本にあった以上にコメディの要素を強調していると語っています。つまり、本来コミカルではないものをコメディに見せようとする演出が、違和感を生んでいるのではないでしょうか。思えば、過去のスコット作品で唯一うまく行っていないと思える『レジェンド/光と闇の伝説』も、コミカルな演出に空回り感がありました(『プロヴァンスの贈り物』は脚本が良いせいか、まだ成功しているようです)。

 メイキング・ドキュメンタリーをご覧になられた方はお分かりのように、本作は音楽を付ける過程でかなり揉めています。脚本と製作を兼任したテッド・グリフィンが指摘するように、ハンス・ジマーはニーノ・ロータの音楽、それもフェリーニ映画のそれを真似ていて、私にはこれが、ほとんどパロディに聴こえます。それもジマー流のモダンにソフィスティケイトされた音色で構築されているため、ロータの古風なサウンドとは質感が違っており、ストーリーに内在する情感とのズレに加えて、二重の違和感が醸成されます。

 グリフィンや製作のベイリーは、「暗くて悲しい話がイギリス人にはコメディに感じられるのかねえ」と苦笑する一方、スコットもジマーも本作をコメディと解釈し、スコットなどは「そうじゃなかったら契約していなかった」とまで主張。つまり、メイン・スタッフの間でも見解が一致していなかった事が分かります。脚本家やプロデューサーと監督の間に、物語の感情的側面に関する根本的な認識の不一致がある訳で、これは映画製作において致命的な溝ではないかと思うのです。完成作に私が感じる違和感は、やはり気のせいではないように思います。

 さらに「コメディ」という方向で認識が一致しているはずの監督と作曲家の間でも、具体的な仕上がりについてイメージが共有されなかったようです。メイキング映像の中でスコットはジマーに、「ずっと言いたかったんだが、コメディ音楽は時代遅れだと思う。今は中途半端な状態で、音楽が邪魔になっている」とはっきり意見しています。グリフィンもロータ風の音楽に違和感を指摘、曲自体はみんな気に入っていたにも関わらず書き直しとなりますが、何とジマーは又も同じテイストの音楽を提出し、曰く「結局シーンごとに全く違う曲を付け、僕の曲を全て使う事で解決した」

 役者はみな良い芝居をしているし、脚本も良く、スタッフ・ワークも一流で、監督の演出力も見事なのに、一つボタンを掛け違えるだけでこうも焦点がズレてしまうなんて、映画とは難しいものです。ジャンプ・カットだけなら軽快なテンポを出すためのテクニックとして観られますが、音楽は情感を決定付けます。極度の潔癖性という主人公のキャラクターも大袈裟にクローズアップされすぎて、そこに何か重要な意味があるのではと勘ぐって観てしまいます。味付け程度に収めておくべきだったのではないでしょうか。美的センスを生かした背景描写や、詐欺の場面など緊迫したシークエンスにスコットの本領が発揮されている事は言うまでもありません。

* スタッフ

 製作総指揮に『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のロバート・ゼメキス監督がクレジットされており、製作チームにはジャック・ラプケ、スティーヴ・スターキーと、ゼメキス率いるイメージムーヴァーズ・プロのパートナーが並びます。スコット自身も製作に参加、脚本のテッド・グリフィン、マット・デイモンやベン・アフレックと製作会社を共同経営するショーン・ベイリー、『ワールド・オブ・ライズ』『ロビン・フッド』でもスコットと組んでいるチャールズ・J・D・シュリッセル、スコットの彼女でチョイ役出演を続けていたジャニーナ・ファシオも、製作者としてクレジット。

 脚本は『オーシャンズ11』を手掛け、本作で初めてプロデューサーに進出したテッド・グリフィンと、これがデビュー作となるニコラス・グリフィンの兄弟。撮影監督は『グラディエーター』以降スコットとの仕事が続くジョン・マシソン。プロダクション・デザイナーは、ガス・ヴァン・サントのリメイク作品『サイコ』や『ザ・セル』で注目されたトム・フォーデン。衣装デザイナーは、『ブレードランナー』でスコットと組んだマイケル・カプラン。

 編集は本作以降、三度に渡ってスコットと仕事をしているドディ・ドーン。彼女は次のスコット作品から作曲を担当しているマルク・ストライテンフェルトと共に、音楽監修も務めています。作曲のハンス・ジマーも、本作がスコットとの6度目のコラボでした。スコットも「ハンスにはタブーがなくていい。何でも話し合える。彼も私の映画に対して遠慮なく批判するし、私もお前の音楽はイヤだと言い返す。そういう関係が成長を促すんだ」と語っていますが、本作が影響したのかどうか、以降ジマーは起用されていません。

* キャスト

 主人公ロイを演じるニコラス・ケイジ以下、キャストはみなスコット作品初出演。風貌のせいか役柄のせいか、日本ではあまり高い評価を受けていない感じの役者ですが、欧米では「何でも演じられる優れた俳優」と定評があります。本作はトリッキーな性質上、彼の細やかな芝居に何か裏の意図を勘ぐってしまいますが、演技自体は純粋に素晴らしいものです。はめを外した表現もしていません。

 ロイのパートナー役はサム・ロックウェル。『グリーン・マイル』で演じたトラブルメーカーの囚人や『コンフェッション』で絶賛された人です。スコットによれば、「ずっとレーダーに引っかかっていた役者。『G.I.ジェーン』に出てもらう予定だったが、リハーサル中に降板してしまった。今回はハマリ役だよ」。ロイの娘を演じるアリソン・ローマンは『ホワイト・オランダー』で注目された新人でしたが、この後ティム・バートンの『ビッグ・フィッシュ』など、出演作が相次ぎました。演技力もさる事ながら可憐な童顔が印象的で、本作ではなんと24歳の彼女が14歳の役を演じています。

 クライン博士役は『心の旅』『ザ・ペーパー』のブルース・アルトマン、詐欺の被害者チャックに『アニマル・ハウス』『エリザベスタウン』『シンデレラマン』等の性格俳優ブルース・マックギル、キャシー役は『シングルス』『ブルー・イグアナの夜』のシーラ・ケリーと手堅い配役。共同製作者にもクレジットされているスコットの彼女、ジャニーナ・ファシオは銀行の出納役で又もやカメオ出演しています。

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