それでも生きる子供たちへ (オムニバス)〜 ジョナサン

All the Invisible Children 〜 Jonathan

2005年、イタリア/フランス (16分)

 監督:リドリー・スコット&ジョーダン・スコット

《オムニバス全体》

 製作:マリア・グラジア・クチノッタ、キアラ・ティレージ

    ステファノ・ヴィネルッソ

 共同製作:ガエターノ・ダニエーレ、アンナ・リタ・デラッテ

      チェーザレ・ファレッティ・ディ・ヴィラ・ファレット

      アンドレア・ピエディモンテ

《『ジョナサン』のみ》

 製作総指揮:ジュールズ・デリー、カイ・ルー・シウン

 製作:スーキー・フォスター、フランセス・マクギヴァン

 脚本:ジョーダン・スコット

 撮影監督:ジェームズ・ウィテッカー

 プロダクション・デザイナー:ベン・スコット

 衣装デザイナー:グレッグ・フェイ

 音楽:ラミン・ジャワディ

 編集:ダイン・ウィリアムズ

 音楽製作:ハンス・ジマー

 出演:デヴィッド・シューリス  ケリー・マクドナルド

    ジョーダン・クラーク

* ストーリー

 無力感と心の傷に打ちひしがれる戦場キャメラマンのジョナサン。不思議な声に誘われ、家の前に広がる森に入っていった彼は、そこで子供時代に戻り、子供として戦争を経験する内、自分を取り戻す。

* コメント

 厳しい現実の中で生きる子供たちの姿を描いた、国際オムニバスの一話。国連の二つの機関、ユニセフとWFP国連食糧計画が制作に参加していて、製作会社が得る収益も全額が後者に寄付されます。監督にはユニークな人選がなされていますが、本作で際立っているのは、驚くほど繊細で多彩な映像美。こういうシビアな内容のオムニバスに映像美までは期待していなかったので、これは意外でした。演技経験のない子も多いスクリーン上の子供たちもみな生き生きとして、正に自分たちの生きる状況を体現しています。

 リドリー・スコット篇『ジョナサン』は、娘のジョーダンと共同監督。もっとも、リドリーは師匠の立場で参加し、主に撮影を進めたのはジョーダンのようです。脚本もジョーダンによるもの。さすがに父リドリーの単独作とは違い、最初のジョナサンと妻のやり取りなど、実力派俳優を起用しているにも関わらずどこかアマチュアっぽい拙さも感じられます。特に妻の性格描写は無きに等しく、そのせいで主人公の苦悩が浅く見えてしまうのも残念。

 しかし、森の中が戦場になる辺りはかなり本格的な戦争映画の趣で、スモークも焚いたりして迫力あり。その中にごく日常的な服装の子供達を置く事で、中東やアフリカで起っている紛争の無惨な現実をヴィヴィッドに感じさせるのは、意義のある演出です。「こんな状況にこの子達がいてはいけない」と、見ていて本能に訴えかけてくるものがあります。ただ16分というのは中途半端な尺で、あと10分プラスするか、思い切って10分間の短篇にすれば、構成に工夫も凝らせたのではないでしょうか。

 ちなみに、オムニバスの他の参加監督はメディ・カレフ、エミール・クストリッツァ、スパイク・リー、カティア・ルンド、ステファノ・ヴィネルッソ、ジョン・ウー。映画全体のコメントに関しては、別のコーナー“オムニバスの虜”で取り上げているので、そちらをご参照下さい。

* スタッフ

 ジョーダンは「子供時代への賛辞と共に、戦場キャメラマンに寄せる叙情詩にしたかった」と語り、冒頭にはワーズワースの詩を引用。彼女は20代前半から映像業界に携わり、99年、政府の資金援助で銃規制の必要性を訴えるプログラム、「プロジェクト・エグザイル」に関する一連の公共広告で監督を担当。その影響が絶大だったため、クリントン大統領が公に成果を賞賛しました。カットールロックのMV“フリーズ”がヨーロッパで大ブレイクした他、エルトン・ジョン、スパイス・ガールズ、ジョー・コッカーなどのMVも作っています。

 撮影監督のジェームズ・ウィテッカーは、ドキュメンタリーや大手ブランドのCM、サンタナやレディオヘッドのMVで高い評価を得たというスコット自身と似たプロフィールの人ですが、映画はウェイン・クレーマー作品など日本未公開作がほとんど。ただ、才人ジェイソン・ライトマン監督の『サンキュー・スモーキング』も撮影しており、今後の活躍が期待されます。平素のスコット作品と違い、メイン・スタッフにはよく知らない名前が並んでいますが、音楽のプロデュースをハンス・ジマーが担当。ラミン・ジャワディという作曲家も、ジマーの一派かもしれません。

* キャスト

 出演は、同年『キングダム・オブ・ヘブン』にも出ているデヴィッド・シューリスと、『トレイン・スポッティング』のケリー・マクドナルド。短篇としては豪華な配役ですが、演出は彼らの演技力を上手く生かしていると言えないのが惜しい所。ほとんどが子供達の場面なので、それも致し方のない所でしょうか(そういう意図のオムニバスですし)。

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