実話を元にした、スコットお得意の裏社会物。産地ベトナムから直接麻薬を買い付け、質の良い商品を安価で供給して市場を独占した麻薬王フランク・ルーカス。麻薬の元締めにターゲットを絞り、本格捜査を行うリッチー・ロバーツ。二人の活動を交互に描き、ルーカス逮捕のカタルシスを劇的に演出した後、第3幕でルーカスの協力を得て警官の汚職が一掃されてゆく経緯が描かれます。 注目したいポイントが2点。まず、ルーカスが自身では全く麻薬に手を出さず、あくまでビジネスとして麻薬を扱っている所。供給者が画期的なシステムを導入して成功を収める一方で、その商品が社会を崩壊させてゆく図式は、麻薬に限らず資本主義社会で往々にしてみられるものです。つまりルーカスの成功物語は、現代社会の病巣を明晰に照射していて、その風刺と見る事もできます。 もう1点、面白いと思うのは、ルーカスもロバーツも彼らが招く同業者への不利益によって、仲間内で疎まれている所。やっている事は真逆であるにも関わらず、二人の行動や立場には多くの共通点があって、それゆえか、ついに二人が顔を合わせるシーンに何ともドラマティックなスパークが炸裂します。こういうのを、化学反応というのかもしれません。現実にそうであったように、二人がお互いの人格を認め、その後の人生を奇妙な友情で取り結んでゆく伏線が、この二重らせん構造のシナリオに潜んでいると思うのです。 ルーカスが善き家庭人である事実は、仕事とのギャップを思うと恐ろしくもあり、倫理観に関して常識というものはどこにも存在しないのではという気にさせられます。これは、家庭が崩壊しているロバーツの私生活と明瞭に対比され、そこへ俯瞰の視点から注がれるスコットの透徹した眼差しが、人間性のダイナミズムをまざまざと描き出します。ただ、本作にはそのバランスが崩れる瞬間もあります。それはルーカスの母が彼を責め立てる所で、ここは感情面でもモラルの面でも、スコット作品としては珍しいスタンスを見せる場面と言えるでしょう。 映画は実録タッチで淡々と描かれ、美しくもざらついたドキュメンタリックな映像が、全てを生々しく描き出します。それが映画的な語り口に還元されるのは、短いカットをスピーディーに切り替える編集と、時代を演出するソウル系ミュージックが作り出すリズムゆえでしょうか。ずっとヨーロッパの撮影監督を起用してきたスコットが、ここでアメリカ人のハリス・サヴィデスと組んでいるのも、作品のスタイルを意識した結果と思われます。テンポの速い展開が、長丁場を一気に見せてしまう緊張感と勢いを生んでいるのも、スコット作品らしい所。 ものすごくカット数の多い映画なので、ロケ撮影は絶望的に時間が足りなかったそうですが、「あれこれ考えず、とにかく撮るのがコツだ」というスコット流の早撮りスタイルで、なんと176カ所377シーンをスケジュール内に撮ってしまいました。これはロケ数の最高記録だそうです。ちなみにタイトル、ギャングスターの「スター」は、映画スターなどの「スター」とは意味も綴りも別。「ギャングステル」と日本語表記した方が誤解を招かないのでは、という意見もあります。 |