ロビン・フッド

Robin Hood

2010年、アメリカ (140分、ディレクターズ・カット版156分)

 監督:リドリー・スコット

 製作総指揮:チャールズ・J・D・シュリッセル、マイケル・コスティガン

       ジム・ウィテイカー、ライアン・カヴァナー

 共同製作総指揮:マイケル・エレンバーグ

 製作:ブライアン・グレイザー、リドリー・スコット、ラッセル・クロウ

 共同製作:ニコラス・コルダ、キース・ロジャー

 脚本:ブライアン・ヘルゲランド

 (原案:ブライアン・ヘルゲランド、イーサン・リーフ&サイラス・ヴォリス)

 撮影監督:ジョン・マシソン, B.S.C.

 プロダクション・デザイナー:アーサー・マックス

 衣装デザイナー:ジャンティ・イェーツ

 編集:ピエトロ・スカリア

 音楽:マルク・ストライテンフェルト

 セカンド・ユニット監督、撮影監督:アレクサンダー・ウィット

 セット・デコレイター:ソーニャ・クラウス

 ポスト・プロダクション監修:テレサ・ケリー

 追加編集:ビリー・リッチ

 出演:ラッセル・クロウ  ケイト・ブランシェット

    ウィリアム・ハート  マックス・フォン・シドー

    マーク・ストロング  オスカー・アイザック

    ダグラス・ホッジ  マシュー・マクファディン

    マーク・アディ  アイリーン・アトキンス

    ダニー・ヒューストン  レア・セドゥ

    ケヴィン・デュランド  スコット・グライムズ

    アラン・ドイル  サイモン・マクバーニー

    ヴェリボール・トピッチ  ジャニーナ・ファシオ

* ストーリー

 12世紀末。イングランドの獅子心王リチャード1世率いる十字軍遠征隊のロビン・ロングストライドは、弓の名手だった。しかし、フランス軍との戦闘でリチャードが落命。騎士ロクスリーが王冠を持ち帰る使命を帯びるが、仲間と部隊を離れたロビンはロクスリーが闇討ちされる現場に遭遇する。瀕死のロクスリーからノッティンガム領主の父ウォルターに剣を届けて欲しいと頼まれたロビンは、彼になりすましてイングランドへ帰還。王冠をリチャード王の母に返し、ノッティンガムへ向かう。

 そこで、義父ウォルターと共に夫の帰りを待つ未亡人マリアンと出会ったロビンは、跡継ぎ不在による領地の没収を恐れるウォルターに、そのままロクスリーとして留まってほしいと頼まれる。一方、新王ジョンは、密かにフランスと通じる腹心ゴドフリーの奸計により、民衆の反発を招いて内戦の危機を迎える。

* コメント

 スコットお得意のスペクタクル史劇。ロビン・フッドの伝説に新解釈を施し、リチャード王の時代(『キングダム・オブ・ヘブン』を引き継ぐ時代です)に設定を移して、政争や民主主義の問題も絡めています。タイトルは『ロビン・フッド』ですが、物語は民衆のヒーローとなった主人公がロビン・フッドと名乗ってシャーウッドの森に入るまでの前日譚。その点は主演二人のキャスティング(特に年齢)と共に賛否両論あるようですが、一本の活劇映画として観れば、迫真のリアリズムと雄大なスケールでドラマを描ききるパワフルな手腕に脱帽です。

 私は、ロビン・フッド物と言えばケヴィン・コスナーが演じた映画しか知らないので、あくまで12世紀イングランドの歴史活劇として観ました。脚本は実に盛りだくさんで、まず、瀕死のロクスリーに頼まれて剣を親元に届けるという前半の大筋があり、リチャード王の逝去とジョン王の戴冠、新王の横暴に対する民衆の不満の爆発と、攻めて来るフランス軍、さらにマリアンとのロマンスも平行して描かれます。

 これだけでも結構な分量のシナリオですが、味付けとして、お供の仲間達やタック修道士との軽妙なやり取り、フランス王のスパイであるゴドフリー(架空の人物)の暗躍、マリアンと悪代官の攻防、村を襲う少年盗賊達など、様々な要素が投入されて、とにかく雑然とした雰囲気。良く言えば、視点を切り替えて飽きさせないので、その雑多さが映画に荒々しいエネルギーを与えてもいます。ストーリー展開のテンポも速く、緊張感を維持したままぐいぐいと見せてしまう演出は見事です。

 劇中に登場するキャラクターは、悪役ゴドフリーを除けば多くが実在の人物ですが、肝心のロビン・フッドは架空の人物と言われています。しかしスコットは「彼は実在したと思う」という解釈でドラマを構築。彼は『グラディエーター』の時も『エクソダス:神と王』の時も、過去にそのジャンルの傑作があるとは思えないと発言していますが、本作でも、ロビン・フッド物の優れた作品はほとんどなく、あまり好きなジャンルではなかったと語っています。「だからこそ、どういう映画を撮りたいかがはっきりしている」といい、そういう視点が映画作りに明確な方向性とモチベーションを与えています。

 絵画的でダイナミックな画作りは健在で、思わず息を飲むような場面も頻出。海岸や山の稜線、船団の配置など、通常スクリーン上ではコントロール出来ないものまで映像設計に含めてしまう描写力は、とにもかくにも尋常ではありません。キャメラが海上すれすれを浮遊する船団のショットも、ドローンがまだ無かったと思しき時代にどうやって撮ったのかという映像です。薄暗い照明を好むスコットですが、本作は極端なロー・キーで撮影されていて、『ゴッドファーザー』に匹敵するくらいほぼ何も映っていない場面も多々あり。これは、ブルーレイなど高画質のメディアで見ないと、階調の豊かさや陰影に富む詩情の美しさが伝わらないかもしれません。

 圧倒的なのがディティールのリアリズム。綿密な歴史考証で再現された衣装や美術、武器や船体は勿論の事、例えばマリアンが馬で畑を耕すシーンで、実際に掘り起こされて畝が形作られる様子のただならぬリアリティ、或いは、この映画には獣を火に炙って食べるシーンがよく出てきますが、森から戻ってきた男達がぶら下げている獣の生々しさ。そこには、彼らは平素こうやって獲物をとり、こうして生きているという、有無を言わせぬリアルな感触があります。だからこそ、規模の大きな戦の場面も真に迫る。全体は細部の集積であるという、愚直なまでに丹念な描写の磨き上げ方は、芸術家として誠実な態度と言えるでしょう。

 最後の合戦は、『プライベート・ライアン』の高度なパロディとなっていて、明らさまに同じショットを踏襲している箇所もあります。海岸を埋め尽くす船団、浅瀬に降り立った兵士達に浴びせられる雨のような矢、水底の兵士達を容赦なく矢が貫く水中ショット、真っ赤に染まる海面。意図的に『プライベート・ライアン』とショットを対比させる事で、現代に通じる問題意識を感じさせるのも興味深い所。何しろ、海から攻めてくるのはフランス軍で、陸から迎え撃つ側がイングランド軍ですから、そこに皮肉を読み取る人がいてもおかしくありません。

 政治的な結末は極めて苦いもので、それはしかし現実とリンクしてもいます。人徳も才覚も無い者が王座を継ぐというのは、スコット史劇が何度も描いてきた図式。ラストは、さあロビン・フッド伝説の始まり始まり、という感じの冴えた語り口ですが、むしろエンディング・タイトルのアニメーションが映画的です。スコット・フリーのロゴがそのまま劇中の世界へ動きだしたような内容で、かなり残酷な描写も含みますが、タッチが実にアーティスティック。勇ましい音楽にも高揚感と切迫感があり、こちらをオープニング・タイトルにした方が良かったのではないでしょうか。

* スタッフ

 製作陣はシュリッセル、コスティガン、エレンバーグとスコット組が顔を揃える他、イマジン・エンターティメントのブライアン・グレイザーが『アメリカン・ギャングスター』に続いて参加。スコット自身と主演のクロウも製作に名を連ねます。クロウは「演じる役にこだわりはないが、ロビン・フッドだけは別だ」というほどこのキャラクターに思い入れがあり、脚本を全面書き直しさせている他、監督はぜひリドリー・スコットでとグレイザーに要望。ケイト・ブランシェットの出演交渉も彼が行いました。

 原案に手を入れ、最終稿も執筆しているブライアン・ヘルゲランドは、『L.A.コンフィデンシャル』の脚本家。前述の通り、多様な要素をドラマに盛り込みながら、全編を直線的な推進力でぐいと貫く作劇は、鮮やかな手際です。劇場版では消化不良が指摘されたドラマ部分も、ディレクターズ・カット版で説明不足が緩和されたのではないかと思います。

 撮影監督のジョン・マシソン、プロダクション・デザインのアーサー・マックス、衣装のジャンティ・イェーツ、編集のピエトロ・スカリア、音楽のマルク・ストライテンフェルトと常連スタッフ集結。撮影は大部分が英国サリー州で行われ、シェパートン・スタジオにセットも建てた他、ロビン・フッド伝説発祥の地でもあるバーンズデイルも一部ロケに使用。主演のクロウは『グラディエーター』と全く同じ場所に立ち、自分のキャリアがブレイクしたスタート地点で感慨に耽ったそうです。海岸の戦闘場面は、ウェールズとウェスト・ペンブルックシャーで撮影。

 セット・デコレイターのソーニャ・クラウスも常連。曰く、「リドリーはアイデアに溢れた人で、会うとお決まりの会話が始まる。『これは考え付かなかっただろ』『考えてたわ』『嘘だね』。彼には出来るだけ多くの物を見せて意見を求める。セットに関係あるものなら、動物だって見せる。選択肢は多い方がいいし、新たな試みも必要よ」。衣装のイェーツは、ほぼ同時代の設定だった『キンギダム・オブ・ヘブン』の衣装を取り寄せた上、新たな衣装はイタリア、フランス等で生地を買い集め、一から作っています。

* キャスト

 主演のラッセル・クロウは、これがスコットと5度目のコラボ。何をやっても『グラディエーター』と比較されたといい、彼もスコットも、本作で似た世界に戻ってゆく事は意識していたそうです。外見に関しても、スコットが「『グラディエーター』と同じ髪型にしろ。ひげもだ」と指示したので、クロウが「観客が怒るよ」と言うと、「自分の映画をパクって何が悪い」と返したとの事。

 ロビン・フッドのイメージや年齢の事で彼の起用はとやかく言われる事も多いですが、彼は身体能力が非常に高いし、弓矢も一発で中心に当てられる腕前になるほど訓練したそうです。声がものすごく低く、セリフに重みと説得力が出るのも、リーダー的な役柄に向いていると思います。

 ケイト・ブランシェットはクロウと同様オーストラリア出身で、二人はこれが初共演。彼女は「同郷の俳優が一つの映画に二人も出るのは素晴らしい事」と言いますが、クロウは『プロヴァンスの贈り物』でもオーストラリア人のアビー・コーニッシュと共演しています。

 監督は当初、断られると思って彼女の起用は考えなかったそうですが、製作も兼任しているクロウが彼女を説得。ニコール・キッドマン、ジェフリー・ラッシュなどオーストラリアの俳優達が記念切手になった際にイベントがあり、壇上で「そろそろ僕達二人は共演すべきだと思わない?」と観客に呼びかけたのです。彼女は、誇り高くもユーモアに溢れたマリアンのキャラクターを、抑えの効いた緻密な演技で表現していて見事。

 ゴドフリーを演じたのは、『ワールド・オブ・ライズ』でヨルダン情報局の長官を演じたマーク・ストロング。スキンヘッドに顔の傷という、視覚的にも強烈なインパクトで登場し、架空の人物にも関わらず圧倒的な存在感を示します。『ワールド・オブ・ライズ』からは続投が多く、劇作家/演出家のサイモン・マクバーニーがタンクレッド神父、オスカー・アイザックが新王ジョンを演じています。アイザック曰く、「ロックスター的な快楽主義者の一面と、誇大妄想に苛まれる政治家の顔をミックスした。リドリーに話したら笑われたけどね」

 リチャード王時代からの摂政マーシャルを演じるのは、名優ウィリアム・ハート。さらにベルイマン映画で有名なスウェーデンの名優マックス・フォン・シドーが、マリアンの義父ウォルターを演じています。又、『プライドと偏見』のマシュー・マクファディンがノッティンガムの悪代官、『フル・モンティ』などコメディ映画で人気のマーク・アディがタック修道士、後に人気女優となるレア・セドゥが新王妃イザベラを演じるなど脇役も豪華。小さな役では『キングダム・オブ・ヘブン』『悪の法則』のヴェリボール・トピッチがベルヴェデーレ、お馴染みスコットの彼女ジャニーナ・ファシオが侍女で出ています。

 ロビンと行動を共にする仲間達に関しては、スコットから「長期間一緒に行動する俳優はチーム同然だ。人気や名声は起用の条件じゃない。監督の指示通りに動ける俳優を」という指示が出て、クロウが実生活でも仲の良い俳優仲間を集めました。リトル・ジョンを演じたケヴィン・デュランドと、ウィルを演じたスコット・グライムズはTVシリーズで人気の俳優、リュートを弾いて歌うアラン・ア・デイルを演じたのは俳優ではなく、フォーク・シンガーのアラン・ドイル。彼はこれが映画初出演で、劇中歌の作曲もしています。

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