プロメテウス

Prometheus

2012年、アメリカ (124分)

 監督:リドリー・スコット

 製作総指揮:マイケル・コスティガン、マーク・ハッファム

       マイケル・エレンバーグ、デイモン・リンデロフ

 製作:デヴィッド・ガイラー、ウォルター・ヒル、リドリー・スコット

 共同製作:メアリー・リチャーズ、テレサ・ケリー

 脚本:ジョン・スペイツ、デイモン・リンデロフ

 撮影監督:ダリウス・ウォルスキー, A.S.C.

 プロダクション・デザイナー: アーサー・マックス

 衣装デザイナー:ジャンティ・イェーツ

 編集:ピエトロ・スカリア

 音楽:マルク・ストライテンフェル

 追加音楽:ハリー・グレッグソン=ウィリアムズ

 出演:ノオミ・ラパス  マイケル・ファスベンダー

    シャーリーズ・ゼロン  イドリス・エルバ

    ローガン・マーシャル=グリーン  ガイ・ピアース

    ショーン・ハリス  レイフ・スポール

    エミュ・エリオット  ベネディクト・ウォン

    ケイト・ディッキー  イアン・ワイト

    パトリック・ウィルソン  ジャニーナ・ファシオ

* ストーリー

 2089年、世界各地の古代遺跡で共通のサインが発見される。科学者のエリザベス・ショウはそれを分析し、地球外知的生命体からの“招待状”と確信。巨大企業ウェイランド社が出資した宇宙船プロメテウス号に乗り、人類の起源を探るべく、はるか彼方の惑星を目指す。4年後、人工冬眠から目覚めたエリザベスの前についに目的の惑星が姿を現し、パートナーのホロウェイや冷徹な監督官ヴィッカーズ、アンドロイドのデヴィッドらと調査を開始するが・・・。

* コメント  *ネタバレ注意!

 最初に書いておきますが、作品鑑賞の大きな妨げになる場合もあるので、未見の方でネタバレを気にする人は、当欄を読まないようにご注意願います。スコット久々のSFとなった本作は、実は『エイリアン』の前日譚で、『エイリアン:コヴェナント』に続く前半部の物語でもありました。なので、作品の端々にファンへの目配せが効いており、それをサービス精神と取るか、うるさいと感じるかは評価の分かれる所です。

 こじつけだろうが後付けだろうが、とにもかくにも第1作へ繋がりそうなラストシーンには有無を言わせぬ迫力があり、快哉を叫びたくなる所。エンド・クレジットには、ウェイランド社のロゴも登場します(第1作では日系のライバル企業と合併してウェイランド・ユタニ社となっています)。一方、様々な場面が第1作と呼応しあっているのが、見ようによってはパロディに見えてしまう弱点もあり。デヴィッドの真意など謎も回収されないまま終っていて、幾らシリーズ物とはいえ、単独で成立しているかどうか微妙な所です。

 唯一の生存者となったエンジニアがなぜ宇宙船で脱出せず、長期冬眠していたのかも分かりませんし、第1作の舞台となった別の惑星に、なぜ彼らの宇宙船とスペースジョッキー(操縦席に座ったままの巨大なミイラ)があったのかも説明されません。冒頭のエピソードは、振り返って総合すると、エンジニアが人類の種を蒔く地球の場面という事になりそうですが、リアルタイムでは分かりにくいです。敢えてスコットが敬愛するスタンリー・キューブリックのような、謎めいた映画に仕上げようとしたのでしょうか。

 技術的には、スコット一流の緻密な美的センスが光る、すこぶるクオリティの高いものです。冒頭近く、長期冬眠中のクルー達を管理しているデヴィッドの場面からして、圧倒的な描写力。静謐にアレンジされたショパンの曲が流れ(これもクラシック音楽を多用したキューブリックへのオマージュ?)、自転車に乗ってバスケットボールをシュートするデヴィッド、彼が観ている映画『アラビアのロレンス』(監督は、飽きずに楽しめる映画である所、主人公がアンドロイドっぽい所をチョイスの理由に挙げています)、シンメトリックなセット美術とキャメラ構図など。

 構造としては第1作と同じパターン(宇宙空間で未知の生命体に襲撃され、一人を除いてクルーが全滅。背景に大企業の論理)で、「私は唯一の生存者〜」という同じセリフを意図的に踏襲していますが、中盤辺りまでほぼ何も分からないために、謎の力で興味を持続させる緊張感があるのは、さすがスコット作品。結局は生存闘争のお話ですから、人類、エンジニア、エイリアンの三つ巴の戦いは熾烈を極めます。探求が失望に変わり、後には悲劇だけが残る展開も、過去のスコット作品の衣鉢を受け継いでいます。

 中盤で話が急転し、恐るべきパニックの様相を同時進行のカットバックで見せる演出力は冴え渡っていて、こういう、同時多発的で複雑なシーン構成はスコットの面目躍如。混乱した状況をそのまま提示し、息も付かせぬスペクタクルで見せる描写力に舌を巻きます。一方、ショウとヴィッカーズがそれぞれ別に走り始め、ジャガーノートがどこに墜落してくるかという、どこか、運命が意志をもって転がってくるような描写はスピルバーグ映画を彷彿させる所。

 プロメテウス号の造形がやや男の子受けの漫画チックなデザインなので、もう少しシンプルな方がリアルではと感じますが、その後に登場するジャガーノートが正にH.R.ギーガー風のデザインで、その対比を明確にするための伏線だとしたら成功しています。このシリーズは地上的でリアルな物と、悪夢や潜在意識を幻想化したギーガー的なものとの衝突を描いていて、その側面に最も意識的なのが、スコットが監督した一連の作品ではないかと思います。

 細かい部分につっこみ所が多いのは、スコットが矢継ぎ早にアイデアを放射する人であるせいか、それとも撮影のスピードが速いせいか。例えば、転がるジャガーノートから逃げる2人がなぜ横方向へ逃げず、縦に走るのか。車両の出入りのためとはいえ、プロメテウス号にはあんな広い開口部しかないのか(無防備に開けてしまって大惨事)。そもそもこの船のクルーは謎の物体や未知の生物にすぐ触ろうとしますが、3D効果のためだけの演出ではないのか、とか。

 物語に無理があるのは、スペースジョッキーから発想したせいもあるでしょうか。シリーズを通じてこの謎には触れられなかったため、スコット自身が本作の着想をそこに求めたものですが、あの象のような顔や奇妙な座席は何かという、本作で明らかにされる真実について、スコットのアイデアに当初はスタッフ全員が反対したといいます。その気持ちは私も分かりますし、投稿レビューにも同意見が多いですが、謎なんて大抵はそういうものじゃないかという気もしますね。

* スタッフ

 製作はスコット自身の他、『エイリアン』シリーズのデヴィッド・ガイラーとウォルター・ヒルが再び担当。さらびスコット作品4作目のマイケル・コスティガン、『プライベート・ライアン』のマーク・ハッファム。後者は本作以降、続けてスコット作品をプロデュースしています。ポスト・プロダクションの監修を担当してきたテレサ・ケリーも、製作者としてクレジット。

 脚本のジョン・スペイツは、『パッセンジャーズ』がハリウッドのブラック・リスト(映画化したい作品リスト)第3位に選ばれて一躍注目を集めた、小説家出身の新進ライター。又、デイモン・リンデロフはJ・J・エイブラムスと話題のTVシリーズ『LOST』で組み、エミー賞、ゴールデン・グローブ賞に輝いた才人です。同監督の『スター・トレック』や、『カウボーイ&エイリアン』にも参加。

 撮影監督はポーランド出身で、同郷のゴア・ヴァービンスキー監督と『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズ等で組んでいるダリウス・ウォルスキー。ティム・バートン監督とのコラボ作もありますが、本作は恐らく、弟トニーの監督作にウォルスキーが参加していた繋がりかもしれません。SFとは意外ですが、東欧出身のイメージからは遠い、作風の幅広い人で、この後スコットとのコンビが続きます。本作は3Dで撮影され、監督はモニターも編集も3Dで行ったと語っています。

 プロダクション・デザインのアーサー・マックス、衣装のジャンティ・イェーツ、音楽のマルク・ストライテンフェルド、編集のピエトロ・スカリアと常連スタッフも集結。荒涼とした惑星はアイスランドでロケされていますが、スコットが愛するヨルダンのワディ・ラダの風景もCGでミックス。又、ウェイランド社のプレゼンのシーンに、『エイリアン』のジェリー・ゴールドスミスの曲を使用。追加音楽を作曲しているハリー・グレッグソン=ウィリアムズは、ストライテンフェルドと同様にハンス・ジマーの一派です。

 特殊効果はWETAとMPCの2社で全てまかない、CGは補助的にしか使わず、ラストで象徴的に登場するディーコンも、全体の動きや頭部の表情までほぼ操り人形で撮影しています。スコットは冒頭の滝の場面で、DNAの破壊描写にまでこだわり、CGアーティスト達に「戦争映画のようなものと考えて欲しい」「粒子の動きは、意志を持つムクドリの群れのようにして欲しい」と詳細な指示を出したというから驚きます。

* キャスト

 主演は、スウェーデン映画『ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女』で世界的に注目を集めたノオミ・ラパス。155センチの小柄な女優さんですが、身体を張った迫力のあるアクション演技は圧巻で、身長のハンディを感じさせません。芝居もセンシティヴでニュアンス豊か。凄惨な手術シーンの撮影後、一週間も悪夢にうなされたというナイーヴな面も持つ人です。 

 アンドロイドのデヴィッドを演じるのは、当時『ハンガー』『X-MEN:ファースト・ジェネレーション』等で評価を得ていたマイケル・ファスベンダー。ドイツ生まれ、アイルランド育ちで、共演者のセロンが「天才」と太鼓判を押す逸材。普通の俳優なら数日、時には数か月かかる事を、瞬時に実現してしまう凄い俳優だそうで、身体能力にも優れ、本作でもスタントの9割を自ら行っています。

 演技派のカメレオン女優として評価の高いシャーリーズ・セロンは、会社の回し者ヴィッカーズをクールな佇まいで好演。もしかしたらロボットかもという、『ブレードランナー』のレプリカントを想起させるキャラクターで、後半には大きなアクション・シーンもあって一筋縄では行きません。撮影中は、監督とファスベンダーと3人で昼食も忘れ、アシスタントに引き離されるまで8時間も役柄について語り合ったというから、仕事に対する熱意も尋常ではありません。

 『L.A.コンフィデンシャル』のガイ・ピアースは、老けメイクでウェイランド社の総裁を怪演。ただ、こういうメイクは最新技術をもってしても、結局はやはり特殊メイクにしか見えないのが残念です。メイクで言えば、恐ろしい風貌を施されたショーン・ハリスも強烈な印象を残しますが、火炎放射器で焼かれながら暴れ回る場面では、全体の9割で実際に炎をまとって演技をしたというから感服します。

 クルーでは、『プロヴァンスの贈り物』にも出ていたレイフ・スポール、『アメリカン・ギャングスター』『マイティ・ソー』のイドリス・エルバ、『アクロス・ザ・ユニバース』『クロッシング』のローガン・マーシャル=グリーン、『堕天使のパスポート』『オデッセイ』のベネディクト・ウォン、『Red Road』で英国の各賞に輝いたケイト・ディッキーが出演し、第1作を彷彿させる緊密なアンサンブルを構築。又、回想シーンではショウの父親役で『オペラ座の怪人』のパトリック・ウィルソンが出演、母親役で一瞬だけ映るのはお馴染みスコットの彼女ジャニーナ・ファシオです。

* アカデミー賞

◎ノミネート/視覚効果賞

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