エクソダス:神と王

Exodus:Gods and Kings

2014年、アメリカ (150分)

 監督:リドリー・スコット

 製作:ピーター・チャーニン、リドリー・スコット、マーク・ハッファム

    ジェノ・トッピング、マイケル・シェーファー

 共同製作:アダム・ソムナー、テレサ・ケリー

 脚本:アダム・クーパー、ビル・コラージュ

    ジェフリー・ケイン、スティーヴン・ザイリアン

 撮影監督:ダリウス・ウォルスキー, A.S.C.

 プロダクション・デザイナー: アーサー・マックス

 衣装デザイナー:ジャンティ・イェーツ

 編集:ビリー・リッチ

 音楽:アルベルト・イグレシアス

 出演:クリスチャン・ベール  ジョエル・エドガートン

    ジョン・タトゥーロ  シガーニー・ウィーヴァー

    ベン・メンデルーン  アーロン・ポール

    ベン・キングズレー  マリア・ヴァルヴェルデ

    タラ・フィッツジェラルド  ユエン・ブレムナー

    ヒアム・アッバス  ゴルシフテ・ファラハニ

    インディラ・ヴァルマ  ハッサン・マスード

    ケヴォルク・マリキャン  ジャニーナ・ファシオ

* ストーリー

 栄華を誇る古代エジプト王国では、長年ヘブライ人を奴隷として使役していた。王女に拾われ、国王セティの息子ラムセスと兄弟同然に育てられたモーゼは、国王の信頼も厚く、民からも慕われる存在。しかし国王が逝去し、王位に就いたラムセスは、モーゼの出自がヘブライ人と知るや彼を追放。過酷な放浪の末、一人の女性と巡り会い、結婚して平穏を手に入れたモーゼだが、彼は神の啓示を受け、虐げられたヘブライの民を解放すべくエジプトへと戻る。

* コメント

 旧約聖書にあるモーゼの出エジプト記を元にした歴史大作。『十戒』のリメイクではなく、新たに解釈したオリジナル作品です。私は正直な所、『ベン・ハー』も『十戒』もそれほどの映画とは思いませんが、スコットも「過去の監督は尊敬しているが、今までにこのテーマの最高傑作があるとは思わない」と発言しています。イスラムもユダヤ教もキリスト教もモーゼを最も重要な預言者と見做しており、ラムセスは誰よりも多く自分の像を建てた虚栄心の強いファラオ。キャラクターとしては、映画を作る上で興味の尽きない人物達だと言えるでしょう。

 とはいえ、映画は見事に視覚的なスペクタルとなっていて、見た事のないような景色が次から次に眼前に現れて、映画における新たな地平が広がる思いです。こんな世界を動いている映像として観られる時代が来たなんて、ちょっと信じられません。しかし幾らCGで何でも作れる時代とはいえ、CGを使うのは結局人間であって、並外れたイマジネーションと経験値、リアリズムへの飽くなき挑戦がなければ、こんな画はとても作れないはず。迫り来る水の壁を前に白馬が走り抜けるという、スコットらしい耽美的な映像などはその一端でしょう。

 一方、戦闘シーンは切れ味が鋭く、70歳の監督による演出とは思えないほどダイナミックでスピーディー。馬車が人の上を吹っ飛んでゆくような、大胆なアイデアも盛り込んでいます。紅海へ向かう軍隊が、崖の上を這う細い山道を疾走する場面など、まるで『インディ・ジョーンズ』のようにスリリングなアクション・シーンもあって、若い世代の観客にもアピールする仕上がりです。

 本作の作り手は、エジプトを襲った十の厄災を科学的な解釈で捉え直していて、宗教に関係なく普通の映画ファンが見て納得できる動機付けを行っているのが特色。紅海が二つに割れる有名なエピソードも、引き潮による津波という現実的な描写に帰着させています。スコット自身が言うように、映画の中で真に超自然的な出来事として描かれているのは、過ぎ越し祭の起源となった、エジプト中の長子が全滅するという悲惨な出来事のみです。

 モーゼもラムセスも人間的な弱さを持った人物として描かれるのはスコット作品らしく、そこから生まれる葛藤は、長尺の映画を牽引してゆくにふさわしい強度を備えます。楽観的なめでたしめでたしで終らず、これからどうなる?という問題提起を残すのも、現代の映画らしいセンス。結局の所、これはおとぎ話ではなく、現代の色々な問題に繋がっている話なのです。自分の長男も失ったラムセスがモーゼに言う、「お前達の神は、子供を殺す神なのか!」という切実な言葉は、現代においてもなおアクティヴに響きます。

 尚、本作にはエクステンデッド版がありませんが、編集のビリー・リッチは「監督と話し合って、本作にエクステンデッド版は必要ないと判断した。シーンの削除には全て理由がある。公開版がベストのヴァージョンという結論だ」と語っています。映像ソフトで見られる未公開シーンは、モーゼの息子が母に「父が神を信じていない」という所や、首席顧問を依頼されるシーン、ラムセスとトゥーヤのやり取りなどがめぼしい所。個人的に、後者2つはストーリーに必要な感じがしますし、シガーニー・ウィーヴァーが演じるトゥーヤの重要性が消失してしまったのは残念です。

* スタッフ

 製作はスコット自身の他、マイケル・シェーファー、マーク・ハッファム、テレサ・ケリーとスコット組。アダム・ソムナーはスピルバーグ作品の助監督、製作者として活躍し、しばらくスコット作品から離れていましたが、プロデューサーとして久しぶりに帰ってきました。

 脚本には4人ものライターがクレジット。中でも、『ナイロビの蜂』『007/ゴールデンアイ』のジェフリー・ケインと、『シンドラーのリスト』『ミッション:インポッシブル』の売れっ子スティーヴン・ザイリアンが参加しているのは注目です。ザイリアンは『ハンニバル』『アメリカン・ギャングスター』でもスコットと組んでいますが、主演のベールによると彼は現実主義者で、本作を革命の物語と捉えているとの事。この視点が、劇中の奇跡の描写にも繋がっているようです。

 撮影監督のダリウス・ウォルスキー。プロダクション・デザインのアーサー・マックス、衣装のジャンティ・イェーツと常連スタッフも続投。本作もスペインでロケがなされ、カナリア諸島で紅海のシーン、アルメリアでラムセスの宮殿、ヘブライの貧民街、エジプトの街並の巨大セットを建設し、カデシュの戦いもここで撮影。屋内セットは英国のパインウッド・スタジオで、いずれも巨大な建物の壁面や支柱など、かなりの部分が実際に作られ、CG処理は最小限に留められています。製作のホッファム曰く、「今の主流はCGと実写が半分半分、我々は8割を実写で撮った」との事。

 音楽は、スコットと初コラボのスペイン人作曲家アルベルト・イグレシアス。ペドロ・アルモドバル監督とコンビを組んでいる他、『チェ/28歳の革命』『チェ39歳/別れの手紙』などハリウッドでも活躍。『ナイロビの蜂』『君のためなら千回でも』『裏切りのサーカス』で3回もオスカーにノミネートされた才人です。ただ、本作はハンス・ジマー一派に似た雰囲気で、やや地味な印象。編集のビリー・リッチは、ピエトロ・スカリアの元で見習いをしていた若手編集マンで、独り立ちはガス・ヴァン・サント監督『プロミスト・ランド』。

* キャスト

 超大作だけあって、キャスティングは多彩。スコットも、「キャスティングは重要。少しでも疎かにしたら後で必ず後悔する。端役でも重要さは同じだ」と力を入れています。主演のクリスチャン・ベールは、スコット作品初参加。ハリウッド・スターのイメージが強いですが、実はイギリス人です。「今まではずっと、モーゼをコメディ化して見ていた。聖書を題材にすると、意図しない部分で笑いが起りがちだ」と語る彼は、「複雑で気乗りのしない英雄で、心に矛盾と葛藤を抱えた人物」としてモーゼを演じています。

 ラムセスを演じるのは、『スター・ウォーズ』新シリーズで注目を集めたオーストラリアの俳優、ジョエル・エドガートン。筋骨隆々の肉体や、メイクのせいで東洋的にも見える顔立ちが強いインパクトを残しますが、自分がこの役を演じられるかずっと不安だったとの事。知名度の低い若手を個性的な悪役で成功させた点では、『グラディエーター』のホアキン・フェニックスに続く好例と言えるでしょう。スコットも彼を、「運動能力に優れ、聡明。要求すればすぐに暴力的にもなれる。アイラインを引けば、外見は完全にエジプト人だ」と絶賛。

 シガーニー・ウィーヴァーは、出世作となった『エイリアン』の後、『1492コロンブス』、本作と定期的にスコット作品に出演。モーゼを排除しようとする、ラムセスの野心的な母トゥーヤを演じていますが、見せ場のシーンがカットされた事で存在感がなくなってしまいました。父の国王セティはコーエン兄弟、スパイク・リー両監督の映画に常連出演しているジョン・タトゥーロ。妻ネフェルタリは『ワールド・オブ・ライズ』『パイレーツ・オブ・カリビアン/最後の海賊』のゴルシフテ・ファラハニ。

 ヘブライ人の街ビトムの総督ヘゲップには、『ニュー・ワールド』『ダークナイト ライジング』のベン・メンデルソーン。厄災を科学的に説明する顧問官を、『トレイン・スポッティング』『ブラックホーク・ダウン』の怪優ユエン・ブレムナーがコミカルに演じています。ヘブライ人の長老ヌンには、『シンドラーのリスト』の名優ベン・キングズレー。ラムセスの子守でモーゼの姉でもあるミリアムには、『ブラス!』『ウェールズの山』のタラ・フィッツジェラルド。ラムセス直下の大宰相に、『キングダム・オブ・ヘブン』のハッサン・マスード。

 モーゼの妻となるツィポラには、監督の娘ジョーダンの監督作『汚れなき情事』にも出ていたスペインの女優マリア・ヴァルヴェルデ(世界的指揮者グスターヴォ・ドゥダメルと結婚した人)、行動を共にするヨシュアにTVシリーズ『ブレイキング・バッド』で人気を博した若手アーロン・ポール、実は親子かもしれない叔母のビティアに『ミュンヘン』『ブレードランナー2049』のヒアム・アッバス。

 巫女には『カーマ・スートラ/愛の教科書』、TVシリーズ『ゲーム・オブ・スローンズ』のインディラ・ヴァルマ。ツィポラの父エトロには、『ミッドナイト・エクスプレス』『インディ・ジョーンズ/最後の聖戦』のケヴォルク・マリキャン。ツィポラの叔母に、お馴染みスコットの彼女ジャニーナ・ファシオ。

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