マッドマックス・ファンの間では黒歴史扱いされる第3作。元は別の企画から発案されている事や、製作のバイロン・ケネディを失い、悲しみのどん底にあったミラーがアクション場面だけを監督し、ドラマ部分をジョージ・オギルヴィーに任せた事、ハリウッド資本が入ってティナ・ターナーがキャスティングに組み込まれた事など、ファンが純度の低さを感じる要素が多いのは確かです。 しかし、ミラーだって芸術家ですから類似品を量産する訳にはいかないでしょうし、彼は本作でもメインのプロデューサーを務め、脚本も執筆しています。設定や物語は第2作のその後に沿いながら、最初から最後まで常軌を逸するほど奇を衒った、ケレン味たっぷりの演出で、当初からシリーズを終らせるつもりで、最後に突拍子もない花火を打ち上げようという意図さえ垣間見えます。 共同監督のオギルヴィーは、ミラー製作の他の映画でも監督や製作を担当している仲間で、準備段階から参加して一緒に映画を作り上げています。ミラーは元々そういう共同作業が好きな人で、『ハッピー・フィート』シリーズでも共同監督のスタイルを採択しています。 オープニングの空襲シーンから、完全に世界観が出来上がっているのがまず驚き。子供がオート・ジャイロを自分で運転して帰る所が凄いです。シリーズで初めて、前2作の背景だった核戦争後の世界が実際のヴィジュアルとして提示され、それが4作目に繋がっているのも瞠目すべき点。能面を思わせるマスクや、暴走族をデフォルメした異様なキャラクター達も、画面上を堂々と闊歩しています。 本作は『マッドマックス』ではないという人が多いですが、これが『マッドマックス』でなくて何なのでしょう。ミラー以外の、一体誰がこんなぶっとんだ世界を創造し得たでしょうか。問題があるとすればアクションの分量ではなく、マックスの物語が第1作からかけ離れてしまった事ですが、それは第2作から始まっていて、その意味でこのシリーズは、回を重ねるごとに虚構性とファンタジーの度合いを上げています。エンディングのシドニーの描写はその極致。 本作はどうも、前年公開の『インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説』の影響が濃厚で、設定や映像、ライティングなど、意図的に踏襲している感じもあります。マックスが敵を追いかけて奥に走って行き、慌てて戻ってきたかと思うと敵の大群が押し寄せるという描写は、『インディ・ジョーンズ』にそのままあるもの。これはどう観ても確信犯でしょう。 説明を省いた無駄のない語り口はミラーならではの個性で、とち狂ったようなサーカス風の音楽に乗って、ドームを下からなめてゆく映像などは仰天もの。サンダードームの死闘は、ダンディな司会者やキュートなリング・ガールなど、プロレスのパロディに古代ローマ闘技のテイストを加えていて、これも相当にぶっとんでいます。 ブラック・ユーモアは随所で効果を発揮し、ブラスターの弱点として伏線が張られた笛をマックスがなかなか吹けない辺りは、まるでドタバタ・コメディ。こういう、実はあまり強くないマックスのおかしさは、トム・ハーディ演じる新生マックスにも引き継がれています。生死を分ける運命のルーレットをリング・ガールが可憐な笑顔で促す描写や、子供達のスライドショーでお色気写真を機長夫人と説明する箇所も、完全にコメディ。 第2幕はさらにシュールな描写が連続し、頭がクラクラしてきます。巨大な仮面を被せられたマックスが、馬に乗せられて砂漠をさまよう所や、砂漠の巨大アリ地獄に馬が吸い込まれてゆく所など、観た事もないような斬新な映像が続出。マックスが砂漠の集落で目を覚まし、子供達とひたすらコール&レスポンスを繰り返す辺りは、もうほとんど前衛演劇です。 さらに、サバンナが伝説を物語るアングラ劇のような描写、険しい山道を駆け上がる子供達、砂漠を駆け下りてくる子供達、どれも「なんじゃこりゃ?」というシュールな映像ばかり。飛行機にずらりと並んでマックスに呼びかける子供達の映像は、観ているだけで頭の中の何かが弾け飛びます。一方バータータウンの場面では盲目のサックス吹き、マスター・ブラスター、ザ・コレクターと、第4作へ発展継承されるキャラクターが続出するのに注目。奴隷たちのルックスも、第4作のウォー・ボーイズに繋がります。 又、本作に妙な緊迫感を与えている要因がモーリス・ジャールの音楽。バーター・タウンでの珍妙なサックス・ロックや不気味なメロディ、砂漠の子供達に付けた時代錯誤なファンタジー音楽など、ここにこんな曲は付けないだろうという、異様なオブセッションに満ちた音楽があちこちに流れます。少なくとも、ハリウッドのテイストとは全然違う曲調だし、ジャールの他の作品ともあまり似ていません。 後半にはマッドマックス・ファンが異常にこだわるカー・アクションもあり、途轍もなく危険なスタントが連続。これを「短い」「物足りない」という訳ですが、これでも第1作よりは規模が拡大しているし、他のアクション映画に較べればずっと過激で、映画のアクション・シーンとしては十分すぎる分量と内容ではないでしょうか。 |