マッドマックス/サンダードーム

Mad Max Beyond Thunderdome

1985年、オーストラリア (107分)

 監督:ジョージ・ミラー、ジョージ・オギルヴィー

 製作:ジョージ・ミラー

 共同製作:ダグ・ミッチェル、テリー・ヘイズ

      スティーヴ・アメズドロス、マーカス・ダーシー

 脚本:テリー・ヘイズ、ジョージ・ミラー

 撮影監督:ディーン・セムラー, A.C.S.

 プロダクション・デザイナー:グラハム“グレイス”ウォーカー

 衣装デザイナー:ノーマ・モリソー

 編集:リチャード・フランシス=ブルース

 音楽:モーリス・ジャール

 ファイナンシャル・コントローラー:キャサリン・バーバー

 スクリプト監修:ダフネ・パリス

 ポスト・プロダクション監修:マーカス・ダーシー

 ユニット・ランナー:P・J・ヴォーテン

 ヴィジュアル・デザイン・コンサルタント、

      ストーリーボード・アーティスト:エド・ヴェロウ

 出演:メル・ギブソン  ティナ・ターナー

    アングリー・アンダーソン  フランク・スリング

    ヘレン・バディ  アンジェロ・ロシット

    ブルース・スペンス  テッド・ホッジマン

    ロバート・グラブ  ロッド・ツァニック

* ストーリー

 砂漠をさまようマックスが辿り着いたバータータウン。その町で野蛮な女支配者によりサンダードームでの戦いを強いられたマックスは、砂漠へと追放される。行き倒れた彼は子供たちの村に連れてゆかれ、伝説のウォーカー機長と人違いされて慕われる。

* コメント

 マッドマックス・ファンの間では黒歴史扱いされる第3作。元は別の企画から発案されている事や、製作のバイロン・ケネディを失い、悲しみのどん底にあったミラーがアクション場面だけを監督し、ドラマ部分をジョージ・オギルヴィーに任せた事、ハリウッド資本が入ってティナ・ターナーがキャスティングに組み込まれた事など、ファンが純度の低さを感じる要素が多いのは確かです。

 しかし、ミラーだって芸術家ですから類似品を量産する訳にはいかないでしょうし、彼は本作でもメインのプロデューサーを務め、脚本も執筆しています。設定や物語は第2作のその後に沿いながら、最初から最後まで常軌を逸するほど奇を衒った、ケレン味たっぷりの演出で、当初からシリーズを終らせるつもりで、最後に突拍子もない花火を打ち上げようという意図さえ垣間見えます。

 共同監督のオギルヴィーは、ミラー製作の他の映画でも監督や製作を担当している仲間で、準備段階から参加して一緒に映画を作り上げています。ミラーは元々そういう共同作業が好きな人で、『ハッピー・フィート』シリーズでも共同監督のスタイルを採択しています。

 オープニングの空襲シーンから、完全に世界観が出来上がっているのがまず驚き。子供がオート・ジャイロを自分で運転して帰る所が凄いです。シリーズで初めて、前2作の背景だった核戦争後の世界が実際のヴィジュアルとして提示され、それが4作目に繋がっているのも瞠目すべき点。能面を思わせるマスクや、暴走族をデフォルメした異様なキャラクター達も、画面上を堂々と闊歩しています。

 本作は『マッドマックス』ではないという人が多いですが、これが『マッドマックス』でなくて何なのでしょう。ミラー以外の、一体誰がこんなぶっとんだ世界を創造し得たでしょうか。問題があるとすればアクションの分量ではなく、マックスの物語が第1作からかけ離れてしまった事ですが、それは第2作から始まっていて、その意味でこのシリーズは、回を重ねるごとに虚構性とファンタジーの度合いを上げています。エンディングのシドニーの描写はその極致。

 本作はどうも、前年公開の『インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説』の影響が濃厚で、設定や映像、ライティングなど、意図的に踏襲している感じもあります。マックスが敵を追いかけて奥に走って行き、慌てて戻ってきたかと思うと敵の大群が押し寄せるという描写は、『インディ・ジョーンズ』にそのままあるもの。これはどう観ても確信犯でしょう。

 説明を省いた無駄のない語り口はミラーならではの個性で、とち狂ったようなサーカス風の音楽に乗って、ドームを下からなめてゆく映像などは仰天もの。サンダードームの死闘は、ダンディな司会者やキュートなリング・ガールなど、プロレスのパロディに古代ローマ闘技のテイストを加えていて、これも相当にぶっとんでいます。

 ブラック・ユーモアは随所で効果を発揮し、ブラスターの弱点として伏線が張られた笛をマックスがなかなか吹けない辺りは、まるでドタバタ・コメディ。こういう、実はあまり強くないマックスのおかしさは、トム・ハーディ演じる新生マックスにも引き継がれています。生死を分ける運命のルーレットをリング・ガールが可憐な笑顔で促す描写や、子供達のスライドショーでお色気写真を機長夫人と説明する箇所も、完全にコメディ。

 第2幕はさらにシュールな描写が連続し、頭がクラクラしてきます。巨大な仮面を被せられたマックスが、馬に乗せられて砂漠をさまよう所や、砂漠の巨大アリ地獄に馬が吸い込まれてゆく所など、観た事もないような斬新な映像が続出。マックスが砂漠の集落で目を覚まし、子供達とひたすらコール&レスポンスを繰り返す辺りは、もうほとんど前衛演劇です。

 さらに、サバンナが伝説を物語るアングラ劇のような描写、険しい山道を駆け上がる子供達、砂漠を駆け下りてくる子供達、どれも「なんじゃこりゃ?」というシュールな映像ばかり。飛行機にずらりと並んでマックスに呼びかける子供達の映像は、観ているだけで頭の中の何かが弾け飛びます。一方バータータウンの場面では盲目のサックス吹き、マスター・ブラスター、ザ・コレクターと、第4作へ発展継承されるキャラクターが続出するのに注目。奴隷たちのルックスも、第4作のウォー・ボーイズに繋がります。

 又、本作に妙な緊迫感を与えている要因がモーリス・ジャールの音楽。バーター・タウンでの珍妙なサックス・ロックや不気味なメロディ、砂漠の子供達に付けた時代錯誤なファンタジー音楽など、ここにこんな曲は付けないだろうという、異様なオブセッションに満ちた音楽があちこちに流れます。少なくとも、ハリウッドのテイストとは全然違う曲調だし、ジャールの他の作品ともあまり似ていません。

 後半にはマッドマックス・ファンが異常にこだわるカー・アクションもあり、途轍もなく危険なスタントが連続。これを「短い」「物足りない」という訳ですが、これでも第1作よりは規模が拡大しているし、他のアクション映画に較べればずっと過激で、映画のアクション・シーンとしては十分すぎる分量と内容ではないでしょうか。

* スタッフ

 共同監督のジョージ・オギルヴィーはオーストラリア・バレエ団・歌劇団のために働いていたフリーの演出家で、評判になった『セールスマンの死』にはメル・ギブソンも出演。TVシリーズ『退却』第1話の監督依頼を受けた際に、ミラーと出会っています。彼らは舞台の工房理論を持ち込み、同じメンバーのTVシリーズ『ボディライン』や本作の準備段階にも、スタッフ、キャストが頭を付き合わせて作品を練り上げて行く手法が用いられています。

 共同製作、共同脚本のテリー・ヘイズは、前作でミラーと共に脚本を執筆。イギリス生まれ、アメリカでジャーナリストとして活躍した人で、『マッドマックス』のノベライズを担当したのがきっかけでシリーズに関わっています。

 撮影は前作に続きディーン・セムラー。前作の美術監督グラハム“グレイス”ウォーカーがプロダクション・デザインを担当し、衣装のノーマ・モリソーも続投しています。尚、ヴィジュアル・デザイン・コンサルタント、ストーリーボード・アーティストとして、スピルバーグ作品等で活躍するエド・ヴェロウが参加していますが、本作に『インディ・ジョーンズ』っぽい雰囲気があるのは、そのせいかもしれません。彼は『トワイライト・ゾーン』第4話で、モンスターのデザインも手掛けています。

 編集のリチャード・フランシス・ブルースは、この後『イーストウィックの魔女たち』『ロレンツォのオイル/命の詩』でもミラーとコラボ。音楽のモーリス・ジャールは、名門ロイヤル・フィルを起用して前述のごとく異様な音楽を作曲。デヴィッド・リーン監督の『アラビアのロレンス』『ドクトル・ジバゴ』『インドへの道』でアカデミー賞を受賞しているベテランですが、本作での起用は謎です。「砂漠」つながりでしょうか。

* キャスト

 この時期のメル・ギブソンもまだ大スターとは言い難く、同郷のピーター・ウィアー監督『誓い』『危険な年』、ニュージーランドのロジャー・ドナルドソン監督『戦艦バウンティ』が主な出演作で、ハリウッド映画にはまだ出ていませんでした。前作よりお喋りになったと不評のマックス像ですが、私はさほど違和感は感じません。

 歌手ティナ・ターナーの起用も、「アメリカ資本の弊害」「スターであるがゆえに倒されない」と不評ですが、映画にお約束やルーティンを求める事自体がナンセンスです。激しいアクションの最中にあっても、派手で華やかな彼女の風貌は存在感があるし、演技も決して悪くありません。弱肉強食の力社会で、バータータウンを統括しているのが女王というのは、なかなか斬新なアイデアではないでしょうか。

 コレクターを演じるフランク・スリングは、メルボルン出身ながら『ベン・ハー』『エル・シド』『キング・オブ・キングス』などハリウッド大作に出演したベテラン。ロンドンの舞台でローレンス・オリビエやヴィヴィアン・リーと共演している所がカーク・ダグラスの目に留まったのがきっかけらしいですが、出て来る名前がみんな大物すぎます。母国に帰って舞台や映画に出演を続け、ミラーの短篇『イブニング・ドレスを着た悪魔』でナレーションを担当。

 砂漠の少女サバンナを演じるのは、映画デビューのヘレン・バディ。両親はドイツ人とハンガリー人で、メルボルンの国立演劇学院で多くの舞台に立ったとの事。屈強な戦士アイアンバーを演じるのは、海外でも人気のロック・バンド、ローズ・タトゥーの歌手アングリー・アンダーソン。竜のタトゥーや頭上の能面は、東洋趣味のある彼自身のアイデアとの事です。前作でジャイロ・キャプテンを演じたブルース・スペンスが、本作でも小型オート・ジャイロの操縦士を演じています(あくまで別のキャラ)。

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