イーストウィックの魔女たち

The Witches of Eastwick

1987年、アメリカ (119分)

 監督:ジョージ・ミラー

 製作総指揮:ロブ・コーエン、ドン・デヴリン

 製作:ニール・カントン、ピーター・グーバー、ジョン・ピータース

 脚本:マイケル・クリストファー

(原作:ジョン・アップダイク)

 撮影監督:ヴィルモス・ジグモンド, A.S.C.

 プロダクション・デザイナー:ポリー・プラット

 衣装デザイナー:アギー・ゲラード・ロジャース

 編集:リチャード・フランシス・ブルース

 音楽:ジョン・ウィリアムズ

 ロケーション・マネージャー:サム・マーサー

 特殊メイク効果デザイン、クリエイト:ロブ・ボッティン

 出演:ジャック・ニコルソン  スーザン・サランドン

    シェール  ミシェル・ファイファー

    ヴェロニカ・カートライト  リチャード・ジェンキンス

    カレル・ストライケン  ラス・メイナード

* ストーリー

 アメリカ東部の田舎町イーストウィックに暮らす、3人のセクシーな魔女たち。ある日、この街に1人のダンディな悪魔が現れて‥‥。

* コメント

 『トワイライト・ゾーン』に続いて撮ったハリウッド映画。やはり製作にも脚本にもミラーは参加していないし、原作物だし、さらに製作陣と対立があったと伝えられます。しかし、良くも悪くもウェルメイドなハリウッド映画とはテイストの異なる奇妙な映画に仕上がり、様々な人形を使ったシュールなテイストもあり、クラシック音楽を効果的に使って個性も貫き、勝ち戦ではなかったにしろ、完敗でもない印象です。

 ミラーらしいパワフルな演出力は随所に発揮され、極端にアクロバティックなカー・アクションは、『マッドマックス』のテイスト。屋敷内でのアクション・シーンには、『オーメン』のパロディもあります。その道では他の追随を許さないロブ・ボッティンの特殊効果も迫力満点ですが、作品のテイストには合っていない感じもあり、ミラーが自由に演出できていたら、演技中心の舞台劇のような映画になったのではないかという気もします。

 特にミラーらしさが発揮されていると感じるのは、クラシック音楽の使い方。クレジットにはプッチーニの歌劇《トゥーランドット》のアリアしか記載されていませんが、実際にはモーツァルトの《アイネ・クライネ・ナハトムジーク》など、幾つかの曲があちこちに挿入されています。中でも絶大な効果を挙げているのが、ドヴォルザークのチェロ協奏曲。ジェーンの欲望の高まりを、彼女が弾くチェロとデイルのピアノで表現した場面は本作のハイライトです。

 脚本は、文学性と卑俗さがミックスされたダイアローグが秀逸。又、感情の抑揚がデフォルメされていて、急激に感情が昂る場面を随所に配置しています。前半には超自然的な出来事はほとんど起こらず、ただ、タイトルの印象と婉曲な語り口から、何となく普通じゃない背景を観客が類推するのにすぎません。ブラック・ユーモアはミラーの得意とする所だし、豪華俳優陣も好演しています。

 テーマの解釈に関しては様々な視点があるだろうし、賛否両論を呼びそうな内容ですが、ストレートに観れば、女性の性的解放を逆手に取った風刺映画に思えます。それでもこの映画が複雑なのは、あらゆる陣営を皮肉っている事で、自由な生き方に目覚める主人公3人にも、保守的な町の人々にも、男性の欲望を体現したようなダリルにも、本作は一切肩入れしません。あらゆる登場人物を茶化すという点においては、夏目漱石ばりに徹底しているのがこの映画。

* スタッフ

 製作は、強引な製作手法で悪名高いピーター・グーバー、ジョン・ピータースのコンビに、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』シリーズのニール・キャントン。人気作家ジョン・アップダイクの原作を脚本化したのは、戯曲『The Shadow Box』でトニー賞、ピューリッツァー賞を受賞したマイケル・クリストファー。彼は俳優としても活躍し、舞台等で様々な賞を受賞しています。

 撮影監督は、新人や若手監督の作品にお目付役として起用される事が多い、ヴィルモス・ジグモンド(スピルバーグにも付きました)。スタジオはいつもこの方法で保険をかけますが、成功した試しがありません。ジグモンドの撮影に悪い所はありませんが、個性の点ではどうでしょう。これがジョン・シールの撮影であったら、仕上がりは全く違ったのではないでしょうか。編集のリチャード・フランシス・ブルースは、『マッドマックス/サンダードーム』に続くコラボ。『ロレンツォのオイル/命の詩』でも組んでいます。

 ジョン・ウィリアムズの音楽は、スピルバーグとルーカス以外の映画では技巧が突出して過剰に感じられる事が多く、この映画ではそれが悪い方向に出ています。あらゆる場面が映画の情感と一致せず、常に音楽が浮いて聴こえるのは問題。才能に疑いはありませんが、使いこなすのが難しい作曲家だと思います。ちなみに、クレジットには出演者カレル・ストライケンの曲もありますが、彼がピアノを弾く場面があるので、それが彼の曲かもしれません。

* キャスト

 主役の3人にはスーザン・サランドン、シェール、ミシェル・ファイファーと豪華3女優を起用。もっとも、主演作品はまだ少なかった頃で、今ほどキャスティングは難しくなかったのかもしれません。むしろ、編集長夫人役で凄まじい怪演を見せる、『エイリアン』のヴェロニカ・カートライトに注目したい所(無理に注目しなくても、トラウマとして残ってしまいそうですが)。

 ジャック・ニコルソンも強烈。初登場の居眠りシーンにはいびきに動物の鳴き声までミックスして、最初から普通の人間ではない事がほのめかされていますが、その後の芝居も、演出側のデフォルメは必要ないくらいの怪演です。長ゼリフも多いですが、流れるように美しいイントネーションにスキルの高さ、文学的センスを発揮。

 妻の狂態から凶行に及ぶ編集長クライドを演じるのは、『シルバラード』『ハンナとその姉妹』『あなたに降る夢』など膨大な出演作を誇るリチャード・ジェンキンス。『アダムス・ファミリー』『ツイン・ピークス』で知られる長身のオランダ人俳優、カレル・ストライケンが執事を演じています。

* アカデミー賞

◎ノミネート/作曲賞、音響賞

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