ミラーの製作・脚本、クリス・ヌーナン監督で大ヒットした『ベイブ』の続編。前作は『マッドマックス/サンダードーム』で豚を扱った事が発想に繋がったもので、高い寓意性も評価されましたが、ミラー自身が監督した本作はアクションとファンタジーの要素が強く、また違ったテイストとなりました。細かくサブタイトルを挿入する構成と、3匹のねずみ達による歌&タイトルコールは継承。 導入部はほとんどなく、すぐに本題に入り、発端となるトラブルが起きるのはミラー流。実に無駄がありません。実写とアニメの違いだけで、『ハッピーフィート』の原型は全てここにありますが、本作の人間世界はグロテスクにデフォルメされ、全く現実味のないテイスト。ファミリー向けの可愛い動物映画を期待していると、ダークな世界観に面食らうかもしれません。現実世界の毒をアーティスティックに昇華してポップに見せる手法は、ティム・バートンとも共通します。 なので、歩行器を付けた犬がトラックに噛み付いて暴走し、その勢いで路上に放り出されるとか(臨死体験までします)、橋の上から吊るされた犬の頭が水に浸かるなど、動物愛護協会がすっ飛んできそうなブラックな描写も随所に見られます。人間の世界も動物の世界も悪意と諦観に満ち溢れ、ホゲット夫人がなぜ警察から目の敵にされるのかもよく分からないし、ベイブ自身もドタバタ・コメディ並みにトラブルと災難を引き寄せます。 その意味では『マッドマックス』の世界と地続きで、クライマックスで『マッドマックス/サンダードーム』ばりの宙吊りバトルが繰り広げられるのも当然なのでしょう。運河をめぐる犬のチェイスシーンは疾走感に溢れ、地上スレスレのキャメラ・ポジション(動物目線)とスピーディなカッティングは、やはり『マッドマックス』さながらです。 本物の動物にアクションさせている以上、当然ながら短いカットの積み重ねになる訳ですが、ライティングといい構図といいアクションといい、一つ一つのカットの強度が尋常ではなく、実に斬新でスリリングなモンタージュ。スローモーションや回想場面のカットバック、俯瞰ショットまでも挿入しています。ただ、主人公が不屈の精神で目的を遂げる点は、背景の明暗を問わずミラー作品に共通するもの。 ホテルから見る大都会の景色は、コミカルに凝縮されたニューヨークの摩天楼に見えますが、よく見るとハリウッドの看板あり、自由の女神あり、モスクワのクレムリンあり、シドニーのオペラハウスあり、パリのエッフェル塔ありと、あくまで象徴としての都会のコラージュになっています。一方、ホテルの周辺は運河に沿ってメルヘンチックな建物がひしめきあい、テーマパークの街角みたいなイメージ。 映画の中でクラシック音楽をよく使うミラー監督ですが、本作でもサン=サーンスの交響曲を全編に使うというマニアックな選曲センス。他にロッシーニの歌劇《セビリアの理髪師》、プッチーニの歌劇《蝶々夫人》のアリアも挿入しています。動物達が保健所のスタッフに捕獲されてゆくシーンは、アイルランド民謡風のノスタルジックな音楽をゆったりと流し、不思議なユーモアとペーソスを漂わせるのもミラーらしい演出。 |