ベイブ/都会へ行く

Babe Pig In The City

1998年、アメリカ (96分)

 監督:ジョージ・ミラー

 製作総指揮:バーバラ・ギブス

 製作:ダグ・ミッチェル、ジョージ・ミラー、ビル・ミラー

 共同製作:コリン・ギブソン、P・J・ヴォーテン

      キャサリン・バーバー、ガイ・ノリス

 脚本:ジョージ・ミラー、ジュディ・モリス、マーク・ランプウェル

 撮影監督:アンドリュー・レスニー, A.C.S.

 プロダクション・デザイナー:ロジャー・フォード

 衣装デザイナー:ノーマ・モリソー

 編集:ジェイ・フリードキン、マーガレット・シクセル

 音楽:ナイジェル・ウェストレイク

 追加ユニット監督:ダフネ・パリス

 第1助監督:P・J・ヴォーテン

 第1助監督(スケジューリング):フィリップ・ハーンショー

 美術監督:コリン・ギブソン

 ストーリーボード・アーティスト:マーク・セクストン

 スタント・コーディネーター:ガイ・ノリス

 ポスト・プロダクション監修:マーカス・ダーシー

 第1フィルム・アシスタント:クリスティアン・ガザル

 音響監修/ミックス・コーディネーター:ウェイン・パシュリー

 ファイナンシャル・コントローラー:キャサリン・バーバー

 ケネディ・ミラー・オフィス製作補:マーティン・ウッド

 出演:マグダ・ズバンスキー  メアリー・ステイン

    ジェームズ・クロムウェル  ミッキー・ルーニー

    ポール・リヴィングストン  リチャード・カーター

 声の出演:E・G・デイリー  ダニー・マン

      グレン・ヘッドリー  スティーヴン・ライト

      ジェームズ・コスモ  ネイサン・クレス

      アダム・ゴールドバーグ  マイルス・ジェフリー

      ヒューゴ・ウィーヴィング  ルッシ・テイラー

      ミリアム・マーゴリーズ  エディ・バース

      ビル・カピッツィ  ロスコー・リー・ブラウン

* ストーリー

 牧羊犬コンテストで優勝したベイブは人気者となり、番組の出演依頼が絶えなかったが、ホゲット叔父さんは全然取り合わない。そんなある日、叔父さんはベイブのせいで大怪我。働けなくなった叔父さんの借金を返済するため、ベイブはエズメ叔母さんと共に都会へと旅立つ。

* コメント

 ミラーの製作・脚本、クリス・ヌーナン監督で大ヒットした『ベイブ』の続編。前作は『マッドマックス/サンダードーム』で豚を扱った事が発想に繋がったもので、高い寓意性も評価されましたが、ミラー自身が監督した本作はアクションとファンタジーの要素が強く、また違ったテイストとなりました。細かくサブタイトルを挿入する構成と、3匹のねずみ達による歌&タイトルコールは継承。

 導入部はほとんどなく、すぐに本題に入り、発端となるトラブルが起きるのはミラー流。実に無駄がありません。実写とアニメの違いだけで、『ハッピーフィート』の原型は全てここにありますが、本作の人間世界はグロテスクにデフォルメされ、全く現実味のないテイスト。ファミリー向けの可愛い動物映画を期待していると、ダークな世界観に面食らうかもしれません。現実世界の毒をアーティスティックに昇華してポップに見せる手法は、ティム・バートンとも共通します。

 なので、歩行器を付けた犬がトラックに噛み付いて暴走し、その勢いで路上に放り出されるとか(臨死体験までします)、橋の上から吊るされた犬の頭が水に浸かるなど、動物愛護協会がすっ飛んできそうなブラックな描写も随所に見られます。人間の世界も動物の世界も悪意と諦観に満ち溢れ、ホゲット夫人がなぜ警察から目の敵にされるのかもよく分からないし、ベイブ自身もドタバタ・コメディ並みにトラブルと災難を引き寄せます。

 その意味では『マッドマックス』の世界と地続きで、クライマックスで『マッドマックス/サンダードーム』ばりの宙吊りバトルが繰り広げられるのも当然なのでしょう。運河をめぐる犬のチェイスシーンは疾走感に溢れ、地上スレスレのキャメラ・ポジション(動物目線)とスピーディなカッティングは、やはり『マッドマックス』さながらです。

 本物の動物にアクションさせている以上、当然ながら短いカットの積み重ねになる訳ですが、ライティングといい構図といいアクションといい、一つ一つのカットの強度が尋常ではなく、実に斬新でスリリングなモンタージュ。スローモーションや回想場面のカットバック、俯瞰ショットまでも挿入しています。ただ、主人公が不屈の精神で目的を遂げる点は、背景の明暗を問わずミラー作品に共通するもの。

 ホテルから見る大都会の景色は、コミカルに凝縮されたニューヨークの摩天楼に見えますが、よく見るとハリウッドの看板あり、自由の女神あり、モスクワのクレムリンあり、シドニーのオペラハウスあり、パリのエッフェル塔ありと、あくまで象徴としての都会のコラージュになっています。一方、ホテルの周辺は運河に沿ってメルヘンチックな建物がひしめきあい、テーマパークの街角みたいなイメージ。

 映画の中でクラシック音楽をよく使うミラー監督ですが、本作でもサン=サーンスの交響曲を全編に使うというマニアックな選曲センス。他にロッシーニの歌劇《セビリアの理髪師》、プッチーニの歌劇《蝶々夫人》のアリアも挿入しています。動物達が保健所のスタッフに捕獲されてゆくシーンは、アイルランド民謡風のノスタルジックな音楽をゆったりと流し、不思議なユーモアとペーソスを漂わせるのもミラーらしい演出。

* スタッフ

 製作はダグ・ミッチェル、ビル・ミラーと自社の布陣を敷き、美術のコリン・ギブソン、助監督のP・J・ヴォーテン、スタントのガイ・ノリス、経理のキャサリン・バーバーの4人を共同製作者にクレジットするという、ミラー作品ならではのボーダーレスな製作体制。

 脚本を共同執筆しているマーク・ランプレルは84年からミラーと仕事を始め、TVのドキュメンタリーやミニ・シリーズを製作している人。『マッドマックス/サンダードーム』のドキュメンタリーも彼の製作です。同じく脚本のジュディ・モリスは、オーストラリアの映画、TV、舞台で数々の賞を受賞している女優で、ケネディ・ミラー・プロのTV作品や映画で脚本家・監督として活躍。『ハッピーフィート』ではミラーと共同監督を務めています。

 撮影監督はやはりシドニー生まれで、『ベイブ』の撮影も担当したアンドリュー・レスニー。ミラーとは『マッドマックス2』のドキュメンタリーや『ハッピーフィート』の追加フィルム・ユニットでも仕事をしていますが、後に『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズをはじめ、ピーター・ジャクソン監督との仕事でブレイクしました。本作では、キャメラのオペレーターも自身で担当しています。

 プロダクション・デザインは、前作『ベイブ』でアカデミー賞に輝いたロジャー・フォード。イギリス生まれですが母国のBBC、オーストラリアのABCでも多くの賞を取っていて、ケネディ・ミラー・プロにも『君といた丘』『ニコール・キッドマンの恋愛天国』から携わっています。衣装は、『マッドマックス』シリーズで大活躍したノーマ・モリソー。編集には、監督夫人のマーガレット・シクセルが初参加しています。

 音楽のナイジェル・ウェストレイクも、前作『ベイブ』から続投。オーストラリア・フィルム・スクールで音楽を学び、Magic Piddin Bandで活動していますが、世界的にはほとんど知られていない人です。豪州の代表的なオーケストラ、メルボルン交響楽団が演奏しているのも贅沢で、収録に使われたホールは、かつてこの楽団の指揮者だった岩城弘之の名前を冠したイワキ・オーディトリアム。主題歌はランディ・ニューマンが作曲し、ピーター・ガブリエルが歌うという豪華企画。

* キャスト

 前作のジェームズ・クロムウェルも出演していますが、本作の主役はその妻を演じるマグダ・ズバンスキー。宙吊りアクションまでスタントなしで披露する彼女はイギリス生まれ、5歳でオーストラリアに移住した人気コメディエンヌです。『ベイブ』に出演するまでは動物嫌いだったとの事で、『ハッピフィート』シリーズにも声優として参加しています。ちなみにクロムウェルの方も、井戸に落ちるシーンをスタントなしで臨んだそう。

 他に、ホテルの女主人役で人気CMタレントのメアリー・ステイン、シェフの役で『ハッピーフィート2』の脚本を書いたポール・リヴィングストン、刑事役でミラー作品常連のリチャード・カーターが出ています。動物達のマジック・ショーを開くファグリーを演じるのは、『ティファニーで朝食を』のベテラン俳優ミッキー・ルーニー。

 動物の吹替を担当した声優は、前作に続いてベイブを担当する女優/声優/歌手E・G・デイリーの他、ヒューゴ・ウィーヴィング、ミリアム・マーゴリーズと『ハッピーフィート』組が参加。『プライベート・ライアン』のアダム・ゴールドバーグの名前もあります。

* アカデミー賞

◎ノミネート/主題歌賞(ランディ・ニューマン)

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