ハッピーフィート

Happy Feet

2006年、アメリカ (108分)

 監督:ジョージ・ミラー

 共同監督:ジュディ・モリス、ウォーレン・コールマン

 製作総指揮:ザレー・ナルバンディアン、ダナ・ゴールドバーグ

       グラハム・バーク、ブルース・バーマン

 製作:ダグ・ミッチェル、ジョージ・ミラー、ビル・ミラー

 共同製作:フィリップ・ハーンショー、ハエル・コバヤシ

      マイケル・ツィッグ、マット・フェロ

 脚本:ジョージ・ミラー、ジョン・コリー

    ジュディ・モリス、ウォーレン・コールマン

 プロダクション・デザイナー:マーク・セクストン

 編集:マーガレット・シクセル、クリスティアン・ガザル

 音楽:ジョン・パウエル

 ライン・プロデューサー、ポスト・プロダクション監修:マーティン・ウッド

 第1助監督:P・J・ヴォーテン

 美術監督監修:デヴィッド・ネルソン

 アニメーション監督:ダニエル・ジャネット

 レイアウト監督:デヴィッド・ピアース

 追加フィルム・ユニット撮影監督:アンドリュー・レスニー

 追加フィルム・ユニット美術監督:コリン・ギブソン

 編集仕上げ、監修:ジェフリー・ストット

 音響編集/音響デザイン監修:ウェイン・パシュリー

 声の出演:イライジャ・ウッド  ニコール・キッドマン

      ロビン・ウィリアムズ  ヒュー・ジャックマン

      ブリタニー・マーフィ  ヒューゴ・ウィーヴィング

      アンソニー・ラパグリア  ミリアム・マーゴリーズ

      マグダ・ズバンスキー  E・G・デイリー

      リチャード・カーター

* ストーリー

 皇帝ペンギンの国、エンペラー帝国。彼らにとって、自分だけの心の歌を見つけるのは何より大事なことだが、ノーマ・ジーンとメンフィスの間に生まれたマンブルは音痴。しかもハートを伝えようとすると、歌の代わりに誰にも真似の出来ないステップを踏んでしまう。ペンギン失格の烙印を押され、仲間はずれにされたマンブルだが、アデリー・ペンギンの5人組アミーゴスと出会い、ステップを褒められて自信を取り戻す。

* コメント

 アカデミー賞に輝いた、ミラー初のCGアニメーション。またもや賞レースに絡む良作に仕上げているのが凄い所で、ファミリー映画とひと括りにはできない、大胆で個性的な作品になっています。ストーリー自体は、取り立てて独創的とは言えません。因習打破的なアウトローは『マッドマックス』的と言えるかもしれませんが、他のペンギンと違ってうまく歌えない主人公が、保守的な共同体を追放されながらも革命を起こすという展開は、エンタメ映画の定番です。

 凄いのは映像と音楽。目を見張るような独創的なヴィジュアルは圧巻で、おそろしいほどスケールが大きくリアルな自然の描写には畏怖の念すら覚えます。大海原や雪原、海中の光景などどれをとっても、観客がまるでそこにいるように感じられる描き方で、臨場感が尋常ではありません。その意味では凡百の動物映画、ファミリー映画とは一線を画する、類を見ないユニークなアニメと言えるでしょう。

 さらに、並のミュージカル映画が足元にも及ばない音楽の凄さ。ここではクイーンやスティーヴィー・ワンダー、ビーチ・ボーイズ、プリンス、ビートルズ、アース・ウィンド&ファイアー、フランク・シナトラ、エルヴィス・プレスリーなど、数々の人気アーティストの曲がカヴァーされていますが、それをジョン・パウエルのオーケストラが見事にアレンジし、連結しています。

 そう聞くと『ムーラン・ルージュ』を想起する方も多いでしょうが、本作の舞台は荒涼たる大自然。荘厳で神秘的な音楽に変貌していたりして、聴き馴れた曲でもすぐにはそれと気付かなかったりします。俳優達の歌声も素晴らしく、音楽映画としても見事な出来映え。

 映画は後半、人間世界に接触しますが、安易な文明批判に走らない代わり、主人公のペンギンの目線で水族館を内側から描いた場面はショッキング。どんなに弁舌巧みに自然保護の論法を展開しても、この、水槽ガラスの向こうに人間達の姿を見る数分間の映像には敵わないような気がします。

 シャチや船のシーンも造形が独特で、ライヴ風のクライマックスも実に斬新。ミラー作品はどれもそうですが、全く独自のイディオムでストーリーを語るので、人によっては違和感を覚えるかもしれません。しかし、ピクサー作品のような文脈で語られる映画でもない訳ですし、映画ファンはその個性をこそ讃えるべきでしょう。

 人間が登場する実写の場面を、モノクロとパートカラーで非現実的なタッチに加工しているのも、アニメとのマッチングに効果的です。声優陣も豪華で、『ベイブ/都会へ行く』の俳優も数名参加。アテレコは一人ずつ別々に声を録るのが一般的ですが、本作では俳優・声優達を集めて同時に録音するという演劇的なスタイルを取っています。「技術的には大変だが、効果は絶大だよ」とミラーも大満足。

* スタッフ

 共同監督は、『ベイブ/都会へ行く』で脚本を執筆した女優・監督のジュディ・モリスと、やはり俳優・脚本家・監督とマルチに活躍するウォーレン・コールマン。製作は、世界トップクラスの視覚効果工房アニマル・ロジック社のザレー・ナルバンディアン、ビレッジ・ロードショー・リミテッド社のグラハム・バークと同ピクチャーズ社のブルース・バーマン、ダナ・ゴールドバーグ。お馴染みのダグ・ミッチェルとビル・ミラー。

 監督3人と共に脚本を書いたジョン・コリーはスコットランド出身、発展途上国で医師として活動後、作家に転身して英オブザーバー誌にコラムを寄稿していた人。映画の脚本は自身の小説を映画化した『背徳の仮面』、『マスター・アンド・コマンダー』があります。本作の社会性の強さは、この人のテイストかもしれません。

 アニメーション監督は、ILM出身で『ハムナプトラ』シリーズで受賞歴もあるダニエル・ジャネット。振付はミュージカルに数多く出演し、振付師としても『スウィート・チャリティ』等で活躍するケリー・アビー、マンブルの振付をタップダンスのスペシャリスト、セヴィアン・グローヴァーが担当しています。

 プロダクション・デザインは『ベイブ/都会へ行く』でストーリーボードを書いたマーク・セクストン、編集は監督妻のマーガレット・シクセルと前作で助手だったクリスティアン・ガザル。製作のマーティン・ウッド、助監督のP・J・ヴォーテン、音響のウェイン・パシュリー、実写パートの撮影監督と美術に『ベイブ/都会へ行く』のアンドリュー・レスニー、コリン・ギブソンと、ミラー組スタッフも大集結。

 音楽のジョン・パウエルは、挿入歌のアレンジとプロデュースも担当し、全体をオーケストラで壮大に連結して素晴らしい仕事ぶり。『ボーン・アイデンティティー』3部作や『ユナイテッド93』のような硬派な映画から、『チキンラン』『シュレック』『アイスエイジ2』とアニメも得意な人です。

* キャスト

 声優は、主人公マンブルを『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズのイライジャ・ウッド、ベビー・マンブルを『ベイブ』シリーズのE・G・デイリーが担当。マンブルの両親をヒュー・ジャックマンとニコール・キッドマン、ラモンとラブレイスの2役をロビン・ウィリアムズが担当するという豪華キャスティングです。

 さらに相手役のグロリアを人気女優で歌手のブリタニー・マーフィ、ミス・ヴァイオラを『ベイブ』シリーズのホゲット夫人役マグダ・ズバンスキー、アルファ・スクーアを名バイプレイヤーのアンソニー・ラパグリアが担当、ミセス・アストラカン役のミリアム・マーゴリーズ、長老ノア役のヒューゴ・ウィーヴィングも『ベイブ/都会へ行く』からの続投組です。

 浜の大将ブライアン(ゾウアザラシ)を担当したリチャード・カーターも、『ベイブ/都会へ行く』『マッドマックス/怒りのデス・ロード』に出ているミラー作品の常連。彼は実写の場面にも出演しています。

* アカデミー賞

◎受賞/長編アニメーション映画賞

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