アカデミー賞に輝いた、ミラー初のCGアニメーション。またもや賞レースに絡む良作に仕上げているのが凄い所で、ファミリー映画とひと括りにはできない、大胆で個性的な作品になっています。ストーリー自体は、取り立てて独創的とは言えません。因習打破的なアウトローは『マッドマックス』的と言えるかもしれませんが、他のペンギンと違ってうまく歌えない主人公が、保守的な共同体を追放されながらも革命を起こすという展開は、エンタメ映画の定番です。 凄いのは映像と音楽。目を見張るような独創的なヴィジュアルは圧巻で、おそろしいほどスケールが大きくリアルな自然の描写には畏怖の念すら覚えます。大海原や雪原、海中の光景などどれをとっても、観客がまるでそこにいるように感じられる描き方で、臨場感が尋常ではありません。その意味では凡百の動物映画、ファミリー映画とは一線を画する、類を見ないユニークなアニメと言えるでしょう。 さらに、並のミュージカル映画が足元にも及ばない音楽の凄さ。ここではクイーンやスティーヴィー・ワンダー、ビーチ・ボーイズ、プリンス、ビートルズ、アース・ウィンド&ファイアー、フランク・シナトラ、エルヴィス・プレスリーなど、数々の人気アーティストの曲がカヴァーされていますが、それをジョン・パウエルのオーケストラが見事にアレンジし、連結しています。 そう聞くと『ムーラン・ルージュ』を想起する方も多いでしょうが、本作の舞台は荒涼たる大自然。荘厳で神秘的な音楽に変貌していたりして、聴き馴れた曲でもすぐにはそれと気付かなかったりします。俳優達の歌声も素晴らしく、音楽映画としても見事な出来映え。 映画は後半、人間世界に接触しますが、安易な文明批判に走らない代わり、主人公のペンギンの目線で水族館を内側から描いた場面はショッキング。どんなに弁舌巧みに自然保護の論法を展開しても、この、水槽ガラスの向こうに人間達の姿を見る数分間の映像には敵わないような気がします。 シャチや船のシーンも造形が独特で、ライヴ風のクライマックスも実に斬新。ミラー作品はどれもそうですが、全く独自のイディオムでストーリーを語るので、人によっては違和感を覚えるかもしれません。しかし、ピクサー作品のような文脈で語られる映画でもない訳ですし、映画ファンはその個性をこそ讃えるべきでしょう。 人間が登場する実写の場面を、モノクロとパートカラーで非現実的なタッチに加工しているのも、アニメとのマッチングに効果的です。声優陣も豪華で、『ベイブ/都会へ行く』の俳優も数名参加。アテレコは一人ずつ別々に声を録るのが一般的ですが、本作では俳優・声優達を集めて同時に録音するという演劇的なスタイルを取っています。「技術的には大変だが、効果は絶大だよ」とミラーも大満足。 |