30年ぶりに発表された、シリーズ4作目。01年にクランクインが予定された時はメル・ギブソン主演で準備されましたが、同時多発テロの影響で一旦中止になり、主演を替えて実現しました。これが意外な盛り上がりを見せ、なんとアカデミー賞10部門ノミネート、6部門受賞の快挙。ミラーは過去にも受賞経験があって賞レースと無縁ではありませんが、『マッドマックス』でオスカーとは驚きました。 相変わらずCGに頼らず、生身のスタントでアクションを構成していますが、背景を説明せず、セリフも省略してアクションだけで進行するスタイルは、このシリーズに顕著なサイレント風のスタイルをより先鋭化したものとも言えます。最初はタッチが少し軽いのではと感じましたが、パワフルな展開が怒濤のように持続。シリーズ3作目に不満を持っていたファンも、本作には満足したようです。 アクションの凄さは相変わらずで、バイクや車輛が宙を舞うシーンも、スタントマンを使って実際に飛ばしています。棒飛び隊の場面は大道芸人からヒントを得たそうで、シルク・ドゥ・ソレイユの協力で合成なしのアクションを可能にしました。さすがのミラーも、「実写では無理だと思っていたので、実現できて涙が出た」と感激。 私は特にアクション好きではないので、いきなり突きつけられる奇抜な世界観の方に度肝を抜かれます。何の説明もなく当然のようにファンタジックな世界が現出する所は、正にミラー作品。本作はコミック版も出ていて(海外のみ)、そこで詳細なバックストーリーが描かれていますが、映画の中では全く説明されていません。 イモータン・ジョーは、限られた資源を独占する事で王国を築き、彼が飲むミルクを産出する女性達や子産み女達がいる。私設軍隊ウォー・ボーイズは大気汚染の影響で皮膚病にかかっていて、健康な人間を輸血袋としている。同盟地区ガス・タウンでガソリンを管理するのは帳簿魔の人食い男爵、弾薬畑で武器を製造するのは武器将軍。砂漠に盗賊集団のヤマアラシ族、渓谷にオフロード・バイクの群盗イワオニ族がいる。 これらは、普通であればストーリーに最低限必要な了解事項ですが、本作では一切説明がないため、パンフレットや関連本を読まなければ何の事か分かりません。そういった膨大なバックストーリーを背景に、豊穣な世界観を作り上げるのがミラーの常套手段ですが、ここではさすがに説明が足りないというか、映画だけで単独に成立しているかどうかは、ぎりぎり難しい所かもしれません。 ただ、ディティールがありのままで成立する世界観は、そういったバックストーリーがあってこそです。美術もアクションも演技も、全てがそこに立脚していて、有無を言わせぬ説得力があるのは確か。イランや中国の映画を観る時、文化背景の説明なしにただそういうものとして受領するのと同じ感覚です。ミラー曰く、「架空の世界を描く場合、基本的な方針を固めておく必要がある。人は廃品置き場のような場所では暮らさない。旧石器時代にすら壁画があった。全ては美しいんだ」 あまりに“描写”に傾倒しすぎて、もう少し情感にウェイトを置いても良かったように思いますが、ミラーほどの映画作家を前に、またこれほどエネルギッシュな映画を前に、そういうクレームは無意味なのかもしれません。 |