マッドマックス/怒りのデス・ロード

MAD MAX:FURY ROAD

2015年、アメリカ (120分)

 監督:ジョージ・ミラー

 製作総指揮:イアン・スミス、コートニー・ヴァレンティ、スティーヴン・ムニュチン

       クリス・デファリア、グラハム・バーク、ブルース・バーマン

 製作:ダグ・ミッチェル、ジョージ・ミラー、P・J・ヴォーテン

 脚本:ジョージ・ミラー、ブレンダン・マッカーシー

    ニコ・ラソウリス

 撮影監督:ジョン・シール, A.S.C.,A.C.S.

 プロダクション・デザイナー:コリン・ギブソン

 衣装デザイナー:ジェニー・ビーヴァン

 編集:マーガレット・シクセル

 音楽:トム・ホルケンボルフ/ジャンキーXL

 ユニット・プロダクション・マネージャー:ディーン・フッド

 第1助監督:P・J・ヴォーテン

 第2助監督:サマンサ・スミス

 ストーリーボード・アーティスト:マーク・セクストン

 セカンド・ユニット監督、スタント・コーディネーター統括:ガイ・ノリス

 コンセプト・アート&デザイン:前田真宏、デニス・ガスナー

 特殊効果監修:アンドリュー・ジャクソン

 追加映像効果監修:デヴィッド・ネルソン

 追加音響編集監修:ウェイン・パシュリー

 第2編集助手:エリオット・ナップマン

 協力:ディーン・セムラー、ノーマ・モリソー

 出演:トム・ハーディ  シャーリーズ・セロン

    ニコラス・ホルト  ヒュー・キース=バーン

    ロージー・ハンティントン=ホイットリー

    ゾーイ・クラヴィッツ  アビー・リー

    コートニー・イートン  ライリー・キーオ

    リチャード・カーター  メリッサ・ジャファー

    メーガン・ゲイル

* ストーリー

 石油も水も尽きかけ荒廃した世界。元警官マックスは、資源を独占し、一帯を支配する独裁者イモータン・ジョー率いるカルト的戦闘軍団に捕まり、彼らの輸血袋として利用される。そんな中、ジョーの右腕だった女戦士フュリオサが反旗を翻し、ジョーに囚われていた5人の妻を引き連れ逃亡。怒り狂うジョーは容赦ない追跡を開始するが、囚われたマックスもこの追跡劇に巻き込まれる。

* コメント

 30年ぶりに発表された、シリーズ4作目。01年にクランクインが予定された時はメル・ギブソン主演で準備されましたが、同時多発テロの影響で一旦中止になり、主演を替えて実現しました。これが意外な盛り上がりを見せ、なんとアカデミー賞10部門ノミネート、6部門受賞の快挙。ミラーは過去にも受賞経験があって賞レースと無縁ではありませんが、『マッドマックス』でオスカーとは驚きました。

 相変わらずCGに頼らず、生身のスタントでアクションを構成していますが、背景を説明せず、セリフも省略してアクションだけで進行するスタイルは、このシリーズに顕著なサイレント風のスタイルをより先鋭化したものとも言えます。最初はタッチが少し軽いのではと感じましたが、パワフルな展開が怒濤のように持続。シリーズ3作目に不満を持っていたファンも、本作には満足したようです。

 アクションの凄さは相変わらずで、バイクや車輛が宙を舞うシーンも、スタントマンを使って実際に飛ばしています。棒飛び隊の場面は大道芸人からヒントを得たそうで、シルク・ドゥ・ソレイユの協力で合成なしのアクションを可能にしました。さすがのミラーも、「実写では無理だと思っていたので、実現できて涙が出た」と感激。

 私は特にアクション好きではないので、いきなり突きつけられる奇抜な世界観の方に度肝を抜かれます。何の説明もなく当然のようにファンタジックな世界が現出する所は、正にミラー作品。本作はコミック版も出ていて(海外のみ)、そこで詳細なバックストーリーが描かれていますが、映画の中では全く説明されていません。

 イモータン・ジョーは、限られた資源を独占する事で王国を築き、彼が飲むミルクを産出する女性達や子産み女達がいる。私設軍隊ウォー・ボーイズは大気汚染の影響で皮膚病にかかっていて、健康な人間を輸血袋としている。同盟地区ガス・タウンでガソリンを管理するのは帳簿魔の人食い男爵、弾薬畑で武器を製造するのは武器将軍。砂漠に盗賊集団のヤマアラシ族、渓谷にオフロード・バイクの群盗イワオニ族がいる。

 これらは、普通であればストーリーに最低限必要な了解事項ですが、本作では一切説明がないため、パンフレットや関連本を読まなければ何の事か分かりません。そういった膨大なバックストーリーを背景に、豊穣な世界観を作り上げるのがミラーの常套手段ですが、ここではさすがに説明が足りないというか、映画だけで単独に成立しているかどうかは、ぎりぎり難しい所かもしれません。

 ただ、ディティールがありのままで成立する世界観は、そういったバックストーリーがあってこそです。美術もアクションも演技も、全てがそこに立脚していて、有無を言わせぬ説得力があるのは確か。イランや中国の映画を観る時、文化背景の説明なしにただそういうものとして受領するのと同じ感覚です。ミラー曰く、「架空の世界を描く場合、基本的な方針を固めておく必要がある。人は廃品置き場のような場所では暮らさない。旧石器時代にすら壁画があった。全ては美しいんだ」

 あまりに“描写”に傾倒しすぎて、もう少し情感にウェイトを置いても良かったように思いますが、ミラーほどの映画作家を前に、またこれほどエネルギッシュな映画を前に、そういうクレームは無意味なのかもしれません。

* スタッフ

 製作は『ハッピー・フィート』シリーズのクリス・デファリア、グラハム・バーク、ブルース・バーマン、ミラー組のダグ・ミッチェルとミラー自身、助監督も兼任するP・J・ヴォーテン。脚本はミラー自身と、イギリスのグラフィック・ノベル作家ブレンダン・マッカーシー。それから第1作で整備士グリース・ラットを演じたミラーの学生時代の友人で、ビデオ・ゲーム、グラフィック・ノベルなどマッドマックス関連プログラムも担当した俳優・監督・脚本家のニコ・ラソウリス。

 撮影は『ロレンツォのオイル/命の詩』でも組んだ、名手ジョン・シール。ここでは対照的な映像ルックで、自身がキャメラ・オペレーターも兼任しています。追加の映像効果監修は、『ハッピーフィート』シリーズのデヴィッド・ネルソン。

 プロダクション・デザインは『ベイブ/都会へ行く』以降、美術監督としてミラーと組んできたコリン・ギブソン。マッドマックス・シリーズへの参加は初ですが、マニアが狂喜するようなマシンの数々と背景を作り上げました。ストーリーボード・アーティストとして参加した『ハッピーフィート』シリーズのマーク・セクストンも、実際には美術監督やプロダクション・デザインに近い仕事をしています。

 衣装にはなぜか、『カサノバ』『ブラック・ダリア』『シャーロック・ホームズ』『英国王のスピーチ』『プー大人になった僕』など、上品な作品が多いジェニー・ビーヴァンを起用。女性達の衣装にはどこかファッショナブルな匂いも漂いますが、物資不足の世界で工夫しながら作り上げられる独創的な衣服を、多彩な手法でデザインしています。

 音楽はグラミー賞にもノミネートされた売れっ子プロデューサー、トム・ホルケンボルフ/ジャンキーXL。軍楽隊をロックに置き換えたような爆音トラックや巨大な太鼓など、映画の中のキャラクターやデザインと音楽がリンクしていてユニークです。他の担当作に『ダークナイト・ライジング』『マン・オブ・スティール』『300/スリー・ハンドレッド』『ラン・オールナイト』など。

 08年にはアニメ版の製作も進んでいて、うまく行けば実写版と同時公開という企画でしたが、アメリカにそんなマーケットはないという事で頓挫。この企画をミラー、ミッチェルと進めていたのが、『ふしぎの海のナディア』『青の6号』の前田真宏監督でした。彼のアイデアやデザインは映画版にも吸い上げられていて、コンセプト・アート&デザインの所に彼がクレジットされています。

* キャスト

 主演のトム・ハーディは、リドリー・スコットの『ブラックホーク・ダウン』でデビューした若手。少し小粒で、動きがコミカルに見える箇所もありますが、本人によれば「メル(・ギブソン)と食事して、引き継ぎを受けた。その後も何度も連絡をくれて、『俺よりマッドな奴を演じられる』と言ってくれた」との事。そもそもマックスが大活躍する話ではないので、どちらかというと狂言回しのようなポジションです。

 監督については、「ジョージは全ての動きを分析し、意味を求める。この映画はジョージの世界観に彩られていて、映画というより彼の頭の中を見ているみたいだ。彼が僕らにやらせる事は完全にイカれてる。現場ではその意図がなかなか分からなかったが、映画を観たらよく理解できた」との事。

 スキンヘッドの隊長フュリオサを演じるのは、カメレオン女優シャーリーズ・セロン。もはや彼女がどんな役を演じていても驚きませんが、私設軍隊の大隊長を演じられるスター女優はなかなかいないのではないでしょうか。やはりセリフの少ない役ですが、卓越した身体能力を発揮。

 イモータン・ジョーを演じるのは、第1作で暴走族の首領トーカッターを演じたヒュー・キース=バーン。シェイクスピア俳優出身の正当派ですが、この30年の間もオーストラリアでキャリアを積み、ベテランとして活躍。唯一、特殊なマスクで顔がほぼ隠れているのだけは残念です。ニュークスを演じるニコラス・ホルトは、『アバウト・ア・ボーイ』『シングルマン』や『X-MEN』シリーズで人気の若手。やはりスキンヘッドに白塗りメイクなので、すぐに本人とは分からないかもしれません。

 子産み女達の1人トーストは、レニー・クラヴィッツの娘で『ブレイブ・ワン』や『アフターアース』にも出ていたゾーイ・クラヴィッツ。他はスーパーモデルのロージー・ハンティトン=ホワイトリー、アビー・リーらが演じています。武器将軍を演じるリチャード・カーターは、『ベイブ/都会へ行く』『ハッピーフィート』シリーズでミラー作品の常連。

 また、鉄馬の女たちの“ワルキューレ”を演じるメーガン・ゲイル、“種の守り人”を演じるメリッサ・ジャファーは、それぞれ『アラビアンナイト/三千年の願い』にも出演。

* アカデミー賞

◎受賞/美術賞、衣装デザイン賞、メイクアップ&ヘアスタイリング賞、音響編集賞、音響調整賞、編集賞

◎ノミネート/作品賞、監督賞、撮影賞、視覚効果賞

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