スタンダップ・コメディアンとして成功するシングルマザーの奮闘を暖かくコミカルに描いた、エフロンの監督デビュー作。まず妹デリアと共同で書いた脚本が優れているのと、キャメラワークにしろ編集にしろ、演出全般が新人とは思えないほど成熟していて、あらゆる点で非凡なデビュー作と言えます。又、映画のタッチが浮かれてはっちゃけた感じではなく、古風で落ち着いた雰囲気がある点にも彼女の好みが反映されています。 とは言っても、芸人の世界を描いている所はウディ・アレンの作品を想起させますし、フランク・キャプラ監督『素晴らしき哉、人生』への言及を大々的にセリフに入れている辺りも、映画好きのエフロンらしい所。美男美女を一人もキャスティングしない上、恋愛模様にもほとんど時間を割かず、親子の関係を中心に据えている点はテーマの絞り込みが徹底しています。コメディアンとしてのサクセス・ストーリーが淡々としていて、本筋ではないように見えるのもそのためでしょう。 エフロン作品が「関係性」の映画だなと思うのは、相対的な価値観を物語の中核に持ってきている所。長女エリカは、娘との関係をお座なりにしてタレント活動に勤しむ母に反発しますが、家出してまで見つけ出した実の父に母の成功を笑われた途端、ムキになって母をかばいます。本心では彼女も分かっていた事を、外の人間との関係性によって改めて気付かされるわけですね。思春期で自意識の強い姉と対照的に、淡々と客観的に母の成功を受け入れる妹オパールとの関係も面白いです。 短い尺に多彩なエピソードを入れている点で、テンポの良い映画だと言えますが、カーリー・サイモンの素敵な音楽と抑制の効いた俳優の演技で、全体を優しくシックにまとめているのはエフロンの個性。タイトルの“This is My Life”(これは私の人生)は、主人公ドディの漫談のみならず、娘のセリフの中にも挿入されています。ナレーションの語り手がドティだけでなく娘に移る所にも、この物語があくまで両者にとっての“This is My Life”である事が表現されていて秀逸。 |