ディス・イズ・マイ・ライフ

This is My Life

1992年、アメリカ (95分)

 監督:ノーラ・エフロン

 製作総指揮:パトリシア・K・マイヤー、キャロル・アイゼンバーグ

 製作:リンダ・オブスト

 共同製作:マイケル・R・ジョイス

 脚本:ノーラ・エフロン、デリア・エフロン

(原作:メグ・ウォリッツァー)

 撮影監督:ボビー・バーン

 プロダクション・デザイナー:デヴィッド・チャップマン

 衣装デザイナー:ジェフリー・カーランド

 編集:ロバート・レイターノ

 音楽:カーリー・サイモン

 第1編集助手:アリサ・レプセルター

 キャスト:ジュリー・カヴナー  サマンサ・マティス

      ギャビー・ホフマン  キャリー・フィッシャー

      ダン・エイクロイド  ボブ・ネルソン

      マリタ・ジェラーティ  キャシー・アン・ナジミー

      ティム・ブレイク・ネルソン  ダニー・ゾーン

* ストーリー

 夫と別れたドティは、娘のエリカ、オパール、叔母と暮らしていた。ある日、叔母の急死で遺産を相続したドティは、家を売ってマンハッタンへ引越し、スタンダップ・コメディアンを目指す。大物エージェント、モスの目に留まった彼女はロスのコメディ・クラブに出演するようになり、CMやTV番組からも出演依頼が来てタレント活動も始めるが、娘たちと過ごす時間は減ってしまう。ママの成功を喜んでいた娘たちも不満を爆発させ、別れた父親を探し出して家出するが‥‥

* コメント

 スタンダップ・コメディアンとして成功するシングルマザーの奮闘を暖かくコミカルに描いた、エフロンの監督デビュー作。まず妹デリアと共同で書いた脚本が優れているのと、キャメラワークにしろ編集にしろ、演出全般が新人とは思えないほど成熟していて、あらゆる点で非凡なデビュー作と言えます。又、映画のタッチが浮かれてはっちゃけた感じではなく、古風で落ち着いた雰囲気がある点にも彼女の好みが反映されています。

 とは言っても、芸人の世界を描いている所はウディ・アレンの作品を想起させますし、フランク・キャプラ監督『素晴らしき哉、人生』への言及を大々的にセリフに入れている辺りも、映画好きのエフロンらしい所。美男美女を一人もキャスティングしない上、恋愛模様にもほとんど時間を割かず、親子の関係を中心に据えている点はテーマの絞り込みが徹底しています。コメディアンとしてのサクセス・ストーリーが淡々としていて、本筋ではないように見えるのもそのためでしょう。

 エフロン作品が「関係性」の映画だなと思うのは、相対的な価値観を物語の中核に持ってきている所。長女エリカは、娘との関係をお座なりにしてタレント活動に勤しむ母に反発しますが、家出してまで見つけ出した実の父に母の成功を笑われた途端、ムキになって母をかばいます。本心では彼女も分かっていた事を、外の人間との関係性によって改めて気付かされるわけですね。思春期で自意識の強い姉と対照的に、淡々と客観的に母の成功を受け入れる妹オパールとの関係も面白いです。

 短い尺に多彩なエピソードを入れている点で、テンポの良い映画だと言えますが、カーリー・サイモンの素敵な音楽と抑制の効いた俳優の演技で、全体を優しくシックにまとめているのはエフロンの個性。タイトルの“This is My Life”(これは私の人生)は、主人公ドディの漫談のみならず、娘のセリフの中にも挿入されています。ナレーションの語り手がドティだけでなく娘に移る所にも、この物語があくまで両者にとっての“This is My Life”である事が表現されていて秀逸。

* スタッフ

 メグ・ウォリッツァーのベストセラー小説を、エフロンと妹デリアが脚色。ニューヨーク・タイムズ誌の編集者だった製作者リンダ・オブストは70年代からエフロンと知り合いでした。曰く、「母親になる事について書いた彼女のエッセイを編集しはじめたのが37歳の時で、お互いに妊娠していて、働く母親の問題は私達にとって重大なテーマだった。この映画は、私達の長年の夢を実現させたもの」

 撮影は『すてきな片想い』『君がいた夏』『さよならゲーム』のボビー・バーン、プロダクション・デザインは『ダーティ・ダンシング』のデヴィッド・チャップマン、衣装をウディ・アレン作品のジェフリー・カーランドが手掛けています。編集は『ビリー・バスゲイト』のロバート・レイターノで、この後のエフロン作品にも参加。編集助手をしているアリサ・レプセルターも、ウディ・アレン作品を担当している人です。

 音楽は人気歌手カーリー・サイモンが担当し、彼女の歌がたくさん流れるサントラも大ヒット。エフロンは自身が原作、脚本を書いた『心みだれて』でサイモンの仕事ぶりに感心し、デビュー作に他の作曲家は考えられなかったそうです。ノタルジックな感情を呼び起こすウクレレが一番好きな楽器だという監督の言葉を受け、前半のクイーンズの場面に流れる“Back the Way”にはウクレレが使われています。

 ニューヨークとラスヴェガスでロケが行われ、ヴェガスの有名なトロピカーナのコーヒー・ショップは、店内の滝も含めてセット撮影。化粧品売り場のシーンはトロントの高級デパート、シンプソンズで撮影されています。トークショーのクラブやアッパー・ウェストサイドのアパートメント、ジェット機の内部もセットで再現されているそうですが、スター俳優を起用していない分、予算が潤沢に使えたのでしょうか。

* キャスト

 主演はウディ・アレン作品の常連で、『レナードの朝』の看護婦役でも注目されたジュリー・カヴナー。手堅い演技力に定評があり、ハスキーな声と愛嬌のあるルックスも、エフロン作品のムードとも相性抜群です。長女エリカを演じるのは『今夜はトーク・ハード』のサマンサ・マティス、次女オパールは『フィールド・オブ・ドリームス』『めぐり逢えたら』のギャビー・ホフマン。

 他はドディのエージェントに『スター・ウォーズ』のキャリー・フィッシャー、大御所エージェントのモスに『ブルース・ブラザース』のダン・エイクロイド、芸人仲間に『ブロードキャスト・ニュース』『遭愛がこわれるとき』のマリタ・ジェラーティ、『ソープディッシュ』『フィッシャー・キング』のキャシー・アン・ナジミー、『マイノリティ・レポート』『シン・レッド・ライン』のティム・ブレイク・ネルソン、人気コメディアンのボブ・ネルソン、エリカのボーイフレンドに『ビリー・バスゲイト』のダニー・ゾーン。

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