マイケル

Michael

1996年、アメリカ (106分)

 監督:ノーラ・エフロン

 製作総指揮:デリア・エフロン、ジョナサン・D・クレイン

 製作:ショーン・ダニエル、ノーラ・エフロン、ジェームズ・ジャックス

 共同製作:G・マック・ブラウン

      ドナルド・J・リー,Jr、アラン・カーティス

 脚本:ノーラ・エフロン、デリア・エフロン

    ピート・デクスター、ジム・クインラン

(原案:ピート・デクスター、ジム・クインラン)

 撮影監督:ジョン・リンドレー

 プロダクション・デザイナー:ダン・デイヴィス

 衣装デザイナー:エリザベス・マクブライド

 編集:ジェラルディン・ペローニ

 音楽:ランディ・ニューマン

 ユニット・プロダクション・マネージャー:ドナルド・J・リー,Jr

 スクリプト監修:ダイアン・ドライヤー

 キャスト:ジョン・トラヴォルタ  アンディ・マクドウェル

      ウィリアム・ハート  ボブ・ホスキンス

      ロバート・パストレッリ  テリー・ガー

      ジーン・ステイプルトン リチャード・シフ

      カーラ・グギーノ

* ストーリー

 シカゴのタブロイド紙ナショナル・ミラーの記者フランクは、「うちに天使が住み着いている」という手紙を受け取る。編集長の命令でフランクは、ミラー紙のマスコット犬スパーキー、その飼い主で落ちこぼれ記者のヒューイ、自称「天使研究家」の新入り記者ドロシーとアイオワ州の田舎にあるミルク瓶モーテルを訪れるが、現れた天使マイケルの下品な姿に一同は愕然とする。

* コメント  *ネタバレ注意!

 天使というファンタジー系のテーマを扱ったコメディ。といっても、天使という存在に対する周辺人物達の受け入れ方にマジック・リアリズムのような態度が見られる上、天使登場シーンのコミカルなタッチからすれば、その後の展開は意外にシリアスで羽目を外さない上品さが目立つのが、本作の特徴。さらに、最後のパートはエフロンお得意のラヴ・ロマンスになっています。

 シチェーション・コメディになりそうな題材を、人間関係のドラマとして描く辺りはさすがエフロンで、それによって、登場人物一人一人の重みと存在価値が他の映画とは断然違ってきます。誰もが、血の通った人間としてキャラクター造形されているので、例えば、ドロシーがカントリー・ソングの作詞をして酒場で歌うような場面が、変に浮いてしまわず、しみじみと愛おしいシーンになる訳です。

 その傾向は、小さな役にも演技派の実力俳優を配したキャスティングでより強化されますが、本作においては、撮影監督ジョン・リンドレーによるロー・キーの美しい映像や、奥行きのあるランディ・ニューマンの音楽に負う部分も少なくありません。エフロンらしく、既成曲の使い方も巧いです。超自然的な要素を扱っている事もあって、エフロン作品には珍しく特殊効果をあちこちで使用していますが、この点は同じくファンタジーの設定を取り入れた『奥さまは魔女』とも呼応します。

 物語の展開にご都合主義的な部分があるのは、意図的に古い映画の体裁を真似たものなのかどうか。例えばスパーキーの場面がそうですが、少なくとも、もともと車一台走っていない道路で、このタイミングめがけてトレーラーが走って来るような描写は避けるのが普通でしょう。フランクも何の権利があって、マイケルに「生き返らせろ」と高圧的に命令するのかよく分かりません。

 又、シカゴに戻ったフランクがドロシーを冷ややかに突き放し、一連の出来事を「夢だったんだ」と言うのも、いかにも「映画の脚本」的な展開で不自然です。エフロン作品において、特に「天使」と「魔女」というファンタジーの分野に足を踏み入れた2作品で、このようなご都合主義と通俗性が目立つのは不思議ですが、古典作品への郷愁の表れと考えればいいのでしょうか。全体としては、素敵なロマンティック・コメディです。

* スタッフ

 製作は『ユー・ガット・メール』のG・マック・ブラウン、『ジュリー&ジュリア』でも組んでいるドナルド・J・リー,Jr、ジョナサン・D・クレインにエフロン自身で、これは『ラッキーナンバー』でも集結している面々。『パリ・トラウト』の原作者でアメリカ現代文学の旗手ピート・デクスターと、ナショナル・エンクワイア紙の記者だったジム・クインランによる原案を読んだエフロンが映画化を熱望。妹のデリアと脚本・製作を担当しました。エフロンも記者出身なので、作中の新聞社の描写はきっとリアルなのでしょう。

 撮影監督は、『フィールド・オブ・ドリームス』でアメリカの田舎を美しく切り取ったジョン・リンドレー。本作から『ラッキーナンバー』まで4作続けてエフロンと組んでいます。監督は「田園風景でも美しさと不気味さを兼ね備えた映像にしたい」とリクエスト、かなりのロー・キーで撮影していて、室内はもとより日中の野外シーンでも沈んだトーンが支配的です。

 プロダクション・デザイナーは『月の輝く夜に』『カクテル』『心の旅』のダン・デイヴィス。エフロンとは『ユー・ガット・メール』でも組んでいます。映画の舞台はアイオワですが、「白い影を持つ少しばかり天国の雰囲気がある世界」という監督のイメージに合わせ、オースティンにある中部地域特有の畑やバーをロケに使用。

 音楽のランディ・ニューマンは、アメリカを代表するシンガー・ソング・ライター。『ナチュラル』や『レナードの朝』など素晴らしいスコアの数々でも知られますが、『トイ・ストーリー』シリーズなどアニメに関わるようになってからはアクション・スコアばかりで、個性が薄れてしまいました。本作にはまだぎりぎり詩情と深みが残っていて、ニューマンらしい音楽が聴けるのが嬉しい所。酒場の乱闘シーンにニューマンらしく陽気な曲が付いている辺りは、ひと味違うセンスと言えます。

 挿入曲ではニューマン自身が歌う“Heaven Is My Home”の他、ボニー・レイットの“Feel Like Home”も作曲しています(ニューマンのミュージカル・サントラ『ファウスト』の中の音源)。他では、ドロシー役のアンディ・マクドウェルが劇中で歌う美しいカントリー・ソングも聴き所。ウィリー・ネルソンがカヴァーした“What a Wonderful World”も映画の中で大きな効果を上げていて、音楽好きのエフロン監督らしいサントラになっています。

* キャスト

 マイケル役のジョン・トラヴォルタは『パルプ・フィクション』で見事に復活し、出演依頼が殺到していた頃の作品で、下品極まりない登場シーンに驚かされますが、ダンス・シーンもあったり格調高いシーンもあったりと、彼の魅力はきっちり生かされています。大きな羽を付けて演技するのは、かなり大変だったとの事。

 フランクを演じる『偶然の旅行者』のウィリアム・ハート、ドロシーに『グリーン・カード』やロバート・アルトマン作品のアンディ・マクドウェルと、コメディには珍しいほど実力派の俳優を揃えているのも成功の要因。ヒューイ役は『ダンス・ウィズ・ウルヴス』のロバート・パストレッリ、モーテルの女主人パンジーにTV界のベテラン女優ジーン・ステイプルトン、編集長に名優ボブ・ホスキンスと、脇役も重量級。

 テリー・ガーが判事、カーラ・グギーノが花嫁の役でチョイ役出演しているのは豪華だし、『ラッキーナンバー』にも出ているリチャード・シフ(『ジュラシック・パーク/ロスト・ワールド』)がイタリアンのウェイターで出演。スタッフを脇役で出すのもエフロン作品らしく、製作者の一人ドナルド・J・リー,Jrが裁判執行官、脚本監修のダイアン・ドライヤーがジェニファーという役で出ています。

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