ユー・ガット・メール

You've Got Mail 

1998年、アメリカ (119分)

 監督:ノーラ・エフロン

 製作総指揮:デリア・エフロン、シューリー・ダーク

       G・マック・ブラウン

 製作:ローレン・シュラー・ドナー、ノーラ・エフロン

 共同製作:ドナルド・J・リーJr、ダイアン・ドライヤー

 脚本:ノーラ・エフロン、デリア・エフロン

(原案:ミクロス・ラズロの戯曲に基づくサムソン・ラファエルソンの脚本)

 撮影監督:ジョン・リンドレー

 プロダクション・デザイナー:ダン・デイヴィス

 衣装デザイナー:アルバート・ウォルスキー

 編集:リチャード・マークス

 音楽:ジョージ・フェントン

 ユニットプロダクションマネージャー:ドナルド・J・リーJr

 スクリプト監修:ダイアン・ドライヤー

 編集助手:ティア・ノーラン

 エフロンの助手:J・J・サシャ

 キャスト:メグ・ライアン  トム・ハンクス

      グレッグ・キニア  パーカー・ポージー

      ヘザー・バーンズ  スティーヴ・ザーン

      ジーン・ステイプルトン  デイヴ・チャペル

      ダブニー・コールマン  ジョン・ランドルフ

* ストーリー

 ニューヨークで小さな本屋を営むキャスリーンは、恋人がいるにも関わらずインターネットで知り合ったメール友達NY152とのやりとりを楽しみにしている。店の近くには大手の本屋チェーンがオープンしたが、そんな悩みも“NY152”の存在が和らげてくれた。

 そのチェーンを経営するジョーは商才こそあるものの、女性に対して今一つのめりこめない性格。彼もまたShop Girlというハンドルネームの女性とEメールを楽しんでいた。ジョーはキャスリーンにたまたま出会うが、2人は犬猿の仲になっていく。ある日キャスリーンは、NY152から直接会う事を提案されるが‥‥

* コメント

 『めぐり逢えたら』から5年、再びメグ・ライアンとトム・ハンクスを起用してエフロンが仕掛けた、得意のロマンティック・コメディ。名匠エルンスト・ルビッチ監督『桃色(ピンク)の店』のリメイクで、舞台のハンガリーはニューヨークに、香水ショップは児童書店に、手紙はEメールに、失業する男性は女性に入れ替えられています。エフロンが『めぐり逢えたら』の姉妹篇だという通り、ニューヨークでロケーションをしている点や、全体のシックなトーンなど、共通した雰囲気があります。

 人間関係を丹念に描くエフロンらしく、(それぞれのパートナーといる時を除いて)ジョーは常に仕事仲間のケヴィンといるし、キャスリーンは同僚のクリスティーナ、ジョージ、バーディーと行動を共にしています。そして、彼らのダイアローグを聞いているだけで、お互いが単なる仕事仲間を越えて、気の置けない友人である事が分かる。ジョーの場合も同様で、周辺人物との「関係性」で人物像が見えてくるというのが、エフロン作品の描き方です。

 監督自身、その点についてコメントしています。「キャスリーンは実の家族がこの世にいないので、従業員と家族同然の親しい付き合いをしている。従業員との関係を通して、彼女の人物像がより明確に浮かび上がるの。一方ジョーは裕福な家の出で、身内は優雅だけど極端にひねくれた連中ばかり。これらの人物を通したジョーの生活から、彼がなかなか愛を信じられない状況が充分に理解できる」

 チャットで恋をする相手が、実は身近な商売敵というのは、映画の中では強引なご都合主義に思えますが、エフロン作品の世界観で言えば、これこそが「縁」です。姿は見えないけれどキャスリーンが恋をしている男性と、現実にいがみ合っている男性、実際にはそれが同じ相手で、別々に認識していた人格が一致し、等価で結ばれた時に恋愛は成就する。これは、エフロンが常に描いている「相対的価値観」です。

 エフロンらしさは随所にあって、例えば、映画『ゴッドファーザー』やジョニ・ミッチェルの歌、オースティンの『高慢と偏見』を介在するやり取りが伏線になる辺りは、サブカルチャーがストーリーに絡んでくるエフロン作品ならでは。キャスリーンもジョーも自分の性格の一部である攻撃性を自覚していて、それが発動すると後悔に結びつく事を、(ここが大切な所ですが)恋心を通して反省する点も、『ジュリー&ジュリア』で描かれるジュリーの微笑ましい反省コメントを想起させます。

 前作『マイケル』とはタッチを変えて、『めぐり逢えたら』の世界にも繋がる美しい映像を紡いだジョン・リンドレーの撮影は素晴らしく、他の作品では俗っぽさが気になる事もあるジョージ・フェントンの音楽も、ここでは映像にマッチしています。クライマックスに“Over the Rainbow”が流れるのは、『めぐり逢えたら』の姉妹篇という事で意図的な選曲でしょう。もっとも、歌手はレイ・チャールズからニルソンに代わっています。

 キャロル・キングの主題歌は、キャロル・ベイヤー・セイガーとの共作。暖かい歌声と切ないメロディが胸を締め付ける珠玉のバラードです。ランディ・ニューマンの既成曲も流れ、『恋する惑星』でフェイ・ウォンがカヴァーしたクランベリーズ、先の“Over the Rainbow”を始め複数の曲を歌っているニルソンなど、サントラもエフロン作品らしいクオリティ。

 『めぐり逢えたら』もそうですが、観客の自然な欲求にちゃんと応えてくれるラストが素敵。予想を「覆されない」事がこんなにも嬉しい映画を撮れるのは、ノーラ・エフロンくらいでしょう。それでも、最後はどうやって回収するんだろうと心配になりますが、このキャスリーンのリアクションを見てしまったら、確かにこれ以外のダイアローグ、これ以外の着地点なんてあり得ない、という気持ちになってしまいます。

 エフロン曰く、「私がロマンティック・コメディを好きなのは理由がある。人間の生活をそのまま描き出す事ができるからよ。食事したり、電話したり、コンピュータを使う日常をね。カーチェイスや銃撃戦は非日常でしょ? 例えばジョーがスターバックスについて1分くらい喋る場面があるわよね。ああいう所は自分の考察を盛り込むチャンスね」。キャスリーンの店を児童書店にしたのは、エフロン姉妹が児童書を好きだから。そうやって、個性を盛り込んでゆくわけです。

* スタッフ

 製作は夫リチャード・ドナー監督作の他、『セント・エルモス・ファイアー』『プリティ・イン・ピンク/恋人たちの街角』『フリー・ウィリー』『デーヴ』など話題作を多く手掛けるローレン・シュラー・ドナー、ドナー夫妻のプロダクションの製作責任者シューリー・ダーク、業界のベテランで『マイケル』でも組んでいるG・マック・ブラウン、そして脚本も執筆したエフロン姉妹とエフロン組のドナルド・J・リーJr、脚本監修も兼任するダイアン・ドライヤー。

 撮影は『マイケル』に続いてジョン・リンドレー、プロダクション・デザインも『マイケル』のダン・デイヴィス、衣装は『ラッキーナンバー』でも組んでいるアルバート・ウォルスキー、編集はコッポラ作品を多く手掛けるリチャード・マークス。彼は『ジュリー&ジュリア』も編集しています。音楽は、本作以降エフロンとコラボが続くジョージ・フェントン。

* キャスト

 主演は5年前の『めぐり逢えたら』に続き、メグ・ライアンとトム・ハンクス。前作とは役柄の関係性が全然違うので、いがみあう辺りは好みを分つ設定かもしれません。ライアンの身体の使い方が全く見事で、後ろ姿で歩いてゆくシルエットも、コメディそのものの動きなのが凄いです。

 キャスリーンの恋人フランクを演じるのは、『恋愛小説家』でオスカーにノミネートされたグレッグ・キニア、書店の仕事仲間は新人のヘザー・バーンズ、『すべてをあなたに』『アウト・オブ・サイト』のスティーヴ・ザーン、『マイケル』にも出ていたベテラン人気女優ジーン・ステイプルトン。

 ジョーの側は、恋人パトリシアにインディーズの女王パーカー・ポージー、同僚ケヴィンに『ナッティ・プロフェッサー/クランプ教授の場合』『コン・エアー』のデイヴ・チャペル、シニカルな身内の2人に『雨のニューオリンズ』『タワーリング・インフェルノ』『9時から5時まで』『トッツィー』など膨大な出演作を誇るダブニー・コールマンと、『大脱獄』『セルピコ』『キングコング』『女と男の名誉』のジョン・ランドルフ。店員の一人で、プロデューサーのダイアン・ドライヤーを出しているのはエフロン印。

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