シックス・センス

The Sixth Sense

1999年、アメリカ (107分)

 監督・脚本: M・ナイト・シャマラン

 製作総指揮:サム・マーサー

 製作:フランク・マーシャル、キャスリン・ケネディ、バリー・メンデル

 撮影監督:タク・フジモト , A.S.C.

 プロダクション・デザイナー:ラリー・フルトン

 衣装デザイナー:ジョアンナ・ジョンストン

 編集:アンドリュー・モンドシェイン

 音楽:ジェイムズ・ニュートン・ハワード

 第1助監督:ジョン・ラスク

 セカンド・ユニット監督:アンドリュー・モンドシェイン

 美術監督:フィリップ・メッシーナ

 メイクアップ効果デザイン、製作:スタン・ウィンストン・スタジオ

 シャマランの助手:ホセ・L・ロドリゲス

 出演:ブルース・ウィリス  ハーレイ・ジョエル・オスメント

    トニ・コレット  オリビア・ウィリアムズ

    ドニー・ウォルバーグ  トレヴァー・モーガン

    ミーシャ・バートン

* ストーリー

 長年に渡って子供達の心の病の治療に心血を注いできた精神科医マルコム・クロウ。彼は、10年前に担当したヴィンセントという患者が発砲事件を起こした事で深く傷つき、妻との関係にも溝が生まれていた。そんな彼が担当する事になった8歳のコール少年は、事件を起こしたヴィンセントと症状が酷似しているだけでなく、実は死者の姿が見えるという、特殊な能力を持っていた。

* コメント    ネタバレ注意!

 シックス・センス、いわゆる第六感をテーマにしたこの映画は世界中で話題を呼びましたが、本作のせいでシャマランは“どんでん返しを仕掛ける監督”というイメージに付きまとわれる事となってしまいました。今でもなお、この一点から彼の作品を評価しようとする人は後を断ちません。しかし、彼自身の発言にもある通り、意表を衝くオチなど映画においては本来さほど重要なものではない筈です。

 フェリーニの映画にもアンゲロプロスの映画にもオチなんてないですし、そもそもどんでん返しに全てを掛けた映画なんて、一度観てしまえばもう用済みです。『シックス・センス』は、勿論そんな映画ではありません。この、緻密に組み立てられ、細部まで丁寧に描き込まれた作品は、観る度に新しい発見と深い味わいを私達に与えてくれます。

 全編を覆う静寂の中、おそろしくスローなテンポを維持しながら、一瞬たりとも緊張の糸を緩ませない語り口。空気感や温度変化までも捉えた繊細極まる映像。抑制された演技の中に、激しいテンションを秘める俳優達。寄せては返す波のように、摩訶不思議な情感を紡ぎ出す音楽。そういった一切が、東洋的とも言えるムードの内に、強靭な求心力をもって展開してゆく所は圧巻。私達観客は、ただただ固唾を飲んで物語の行方を見守るしかありません。

 本作からすでにシャマランの作品は、主人公の喪失と再生の物語になっています。もっともこの作品の場合(ご覧になられた方はご存知の通り)再生と呼べるかどうかは分かりませんが、少なくともマルコムが“救済”される事は確かでしょう。再生してゆく、癒されてゆくのは主人公だけでなく、コール少年や彼が見る死者達、そして彼の母親もそうです。少年が、祖母のメッセージを母親に伝える感動的な場面は、この映画のハイライトの一つ。

 題材が題材ですから、恐ろしい場面も勿論たくさんありますが、こういうエモーショナルなシーンが、シャマランの映画には必ず入っています。シャマランの手法が素晴らしいのは、作品全体を、あくまで些細な現象から積み上げてゆく所です。温度計の変化、消えてゆく手形、ドアノブに映る像。シャマラン監督は、ディティールに徹底してこだわります。そしてディティールから、世界観が見えてくる。

 映画の冒頭に、ブルース・ウィリスと監督の連名で、映画の“秘密”について他言しないで欲しい旨の字幕が入りますが、いかにもスタジオ側のアイデアっぽいこの演出、私は蛇足だと思います。このアナウンスは、先読みの好きな映画ファン達をいたずらに挑発するだけで、むしろ映画に集中する妨げとなっているのではないでしょうか。本作は、仮に最後のオチがなかったとしても、充分鑑賞に耐える、素晴らしい作品なのですから。

* スタッフ

 製作は、かつてスピルバーグの右腕だったアンブリン出身の2人、キャスリン・ケネディとフランク・マーシャルが担当している他、サム・マーサー、バリー・メンデルもこの後のシャマラン作品にこだわり続ける人です。プロダクション・デザイナーのラリー・フルトン、衣装のジョアンナ・ジョンストン、編集のアンドリュー・モンドシェイン、第1助監督のジョン・ラスクと、後のシャマラン作品に関わるスタッフもここで集結。又、美術監督のフィリップ・メッシーナは、『エアベンダー』でプロダクション・デザインを担当しています。

 本作の映像表現を卓越したキャメラワークで支えているのは、撮影監督のタク・フジモト。『羊たちの沈黙』や『フィラデルフィア』などジョナサン・デミ監督作で凝った映像を展開している人ですが、どこか普通でない雰囲気、異様なオブセッションの表現にかけては当代随一という感じ。マルコムと少年が初めて出会う場面は、主観ショットを用いたキャメラワークと俳優の演技だけで成り立たせた秀逸な場面構成です。

 シャマランの製作会社ブラインディング・エッジの重役として製作に関わってゆくホセ・L・ロドリゲスも、ここでシャマランの助手を担当している他、チョイ役で出演。音楽のジェイムズ・ニュートン・ハワードは、私は必ずしも傑出した作曲家だとは思わないのですが、本作における、微妙に移ろいゆく色彩と霊感に溢れたスコアは素晴らしいと感じました。

* キャスト

 俳優では、ハーレイ・ジョエル・オスメント君の天才的な演技が話題を呼びましたが、DVDの特典映像に入っている未公開シーンにも、観る者を一瞬にしてドラマに引き込んでしまう凄い場面があって、やはりこの子の才能は凄いものだと改めて驚かされます。

 ブルース・ウィリスは、あまり演技の幅の広い人ではないと思うのですが、本作と『アンブレイカブル』での抑えた芝居には哀愁があって、作品にマッチしています。他には、コール少年の母親役で演技派トニ・コレットが好演している他、ニュー・キッズ・オン・ザ・ブロックのメンバー、ドニー・ウォルバーグがヴィンセント役を熱演。大減量した彼の、アイドルの面影すらない病的な芝居は鬼気迫る迫力です。

 後にテレビで活躍してティーンのファッション・リーダーとなり、様々なスキャンダルを起こすミーシャ・バートンもベッド下のゴースト役で出演。全体に、東南アジア系の俳優があちこちに登場するのも、作品に独特なルックを与えています。監督自身も医者の役で出ている他、監督助手のホセ・L・ロドリゲスも出演。

* アカデミー賞

 ◎ノミネート/作品賞、監督賞、脚本賞、編集賞

        助演男優賞(ハーレイ・ジョエル・オスメント)、助演女優賞(トニ・コレット)

 

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