サイン

Signs 

2002年、アメリカ (107分)

 監督・脚本: M・ナイト・シャマラン

 製作総指揮:キャスリン・ケネディ

 製作:フランク・マーシャル、サム・マーサー、M・ナイト・シャマラン

 撮影監督:タク・フジモト , A.S.C.

 プロダクション・デザイナー: ラリー・フルトン

 衣装デザイナー:アン・ロス

 編集:バーバラ・タリヴァー

 音楽: ジェイムズ・ニュートン・ハワード

 ブラインディング・エッジ・ピクチャーズ・エグゼクティヴ:

                      ホセ・L・ロドリゲス

 第1助監督:ジョン・ラスク

 出演:メル・ギブソン     ホアキン・フェニックス

    ローリー・カルキン   アビゲイル・ブレスリン

    チェリー・ジョーンズ

* ストーリー

 妻の事故死がきっかけで神が信じられなくなり、牧師の職を辞して農夫となったグラハム・ヘス。ある日、彼の農場に巨大なミステリー・サークルが出現する。それをきっかけに彼の周囲で、さらには世界的規模で、不思議な現象が起こり始めるが‥‥。

* コメント   ネタバレ注意!

 脚本料に史上最高値が付いたというので大いに話題となった作品。私は、これはひねりでもオチでも何でもないと思うので、敢えてストーリーの内容に触れますが(それでも嫌な人は読まないで下さい)、ミステリー・サークルの映画だと思っていたらやっぱりエイリアンが出て来て、ストレートにSFだったというのは、別にどうという事ではありません。

 雑誌等に「あの展開はないだろう」「アレを正面きって出すなんて」「こんな脚本のどこに史上最高額の価値が?」というようなコメントが並んでいましたが、そういうのはみんな、シャマランの映画だからあっと驚くひねりがあるのだろうと勝手に推測しているだけの話であって、これは別にエイリアン襲撃の映画で全然構わないわけです。第一、シャマランなんて見た事も聞いた事もないという観客には、そんな先入観は微塵もない筈。

 ストーリーの軸は何かというと、これは又もや、絶望した人間の再生の物語です。これは、妻を事故で亡くし、信仰を失った神父が、家族の絆を、希望を、そして信仰を取り戻す話。映画のクライマックスは、エイリアン対人間の攻防戦で、敵の姿を見せず、音響効果を中心に恐怖を煽るサスペンス演出もさすがですが、シャマラン監督はそこで、ただ一つの事を言い続けます。

 彼は、この世の出来事には全て意味があるという事を、力強く叫び続ける。そしてやはり、それを一種の寓話のように描くので、一つ一つの描写、例えば部屋中に置かれたコップや、壁に飾ったバットや、間違って届けられた本や、そういう具体的なアイデアについていちいちこれは陳腐だとか、無理があるとか、そんな事を指摘した所で何にもなりはしません。あくまでこれは、例え話なのです。

 物事には良い面も悪い面も両方あり、持病の喘息が逆に命を救う事もある。これは『アンブレイカブル』や『スプリット』でも描かれる、シャマラン作品ならではの思想です。世界の均衡と調和、その世界観をファンタジーで描いたのが、正に『エアベンダー』という事になるでしょう。

 又、本作はスリラーとしてもパニック物としても、非常に緻密に演出されています。後半の、思わず映画館から逃げ出したくなるほどの密室サスペンスは、実はほとんど音響だけの演出で、脅威の相手は物音と気配だけで描写されているのがシャマランらしい所。そこへ喘息の発作が追い打ちをかけて、タイムリミットの絶体絶命サスペンスもプラスする所、まったく憎たらしいほどの演出巧者と言う他ありません。

 私はホラー映画もかなりたくさん観ますし、その中で本当に怖いと感じる作品はごくごく稀ですが、本作におけるブラジルのビデオ映像には背筋が凍りました。これはシチュエーションと手法の勝利。室内から誰かが撮影した、不安定に揺れる下手くそなホームビデオ、子供達が怯えて騒ぐ中、窓の外にふらりと飛び出てくるエイリアン、その映像に驚いて飛び退くホアキン・フェニックス。周到に配置されたこの演出には、ただならぬ臨場感があります。

* スタッフ

 製作は再びキャスリン・ケネディ、フランク・マーシャル夫妻にサム・マーサーが集結し、シャマラン自身も参加。プロダクション・デザイナーのラリー・フルトンも続投しています。じっくり腰を据えて細部に至るまで丹念に描写し尽くすシャマランの手法は健在ですが、ここでは再び『シックス・センス』のタク・フジモトと組んで、シンボリックなメタファーを用いた色彩設計を展開しています。

 初参加となる編集のバーバラ・タリヴァーは可憐な感じの女性で、撮影現場では女優さんにも見えますが、デヴィッド・マメット作品を担当してきた実力派。作品に並々ならぬ愛情を注ぐ、非常に頑固な所のある編集者だという話です。本作にユーモアの要素が加わっているのは彼女の功績のようで、次作『ヴィレッジ』で影を潜めたユーモア感覚は、再び彼女が編集を担当した『レディ・イン・ザ・ウォーター』で復活しています。

* キャスト

 俳優陣は、過去2作のブルース・ウィリスからメル・ギブソンに交代。どちらかというとパワフルで剛毅な彼の個性を抑え、作品のミステリアスなタッチにうまく合わせています。彼の弟を演じたホアキン・フェニックスは、天才少年と呼ばれた故・リヴァー・フェニックスの弟。『誘う女』の悩める高校生から『グラディエーター』の残忍な皇帝まで、驚くほど演技の幅の広い役者ですが、ここでは兄想いの爽やかな青年を演じて印象的です。

 グラハムの子供達を演じるのも、ローリー・カルキン、アビゲイル・プレスリンと天才子役勢揃い。事故現場を取り仕切る女性保安官をチェリー・ジョーンズが演じていますが、彼女の存在は、辛くて痛切なこの場面に一種の柔らかみを与えていて、絶妙のキャスティングだと思います。監督の助手から出発し、後に製作者となるホセ・L・ロドリゲスも、ラジオ・ホストの声でチョイ役出演。彼はブラインディッグ・エッジのエグゼクティヴとしてもクレジットされています。

 シャマラン自身も、グラハムの妻を事故死させた張本人レイの役で出演し、かなり長いセリフも喋っています。終始沈鬱な調子で、あの事故は運命だったとしか思えないというレイ、事故のことをずっと気に病み、半年間ずっと電話の前に座っていたというセリフは、自身が演じたからこそ説得力を持ち得たようにも感じられます。

 

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