レディ・イン・ザ・ウォーター

Lady In The Water 

2006年、アメリカ (110分)

 監督・脚本: M・ナイト・シャマラン

 製作:サム・マーサー、M・ナイト・シャマラン

 共同製作:ホセ・L・ロドリゲス

 撮影監督:クリストファー・ドイル , H.K.S.C.

 プロダクション・デザイナー: マーティン・チャイルズ

 衣装デザイナー:ベッツィ・ハイマン

 編集:バーバラ・タリヴァー

 音楽:ジェイムズ・ニュートン・ハワード

 第1助監督:ジョン・ラスク

 出演:ブライス・ダラス・ハワード  ポール・ジャマッティ

    ジェフリー・ライト  ボブ・バラバン

    ビル・アーウィン  メアリー・ベス・ハート 

    M・ナイト・シャマラン  ジャレッド・ハリス

    サリータ・チョウダリー  フレディ・ロドリゲス

* ストーリー

 フィラデルフィア郊外のアパートで管理人をしているクリーヴランド・ヒープ。強盗に妻と子供を殺されて以来、彼は単調な毎日をひっそりと生きていた。そんなある日、彼はアパート中庭のプールで、“ブルー・ワールド”から来たという不審な女性を発見する。ストーリーという名のこの女性の出自は、同じアパートに住む韓国女性が語る東洋の伝説と一致し、彼女に会った住民達は、それだけで自分に与えられた真の役割を明瞭に理解しはじめる。住民達は力を合わせ、彼女を元の世界に送り返す計画を練り始めた。

* コメント   ネタバレ注意!

 「全く新しいシャマランと出会える」などと鳴り物入りで宣伝された作品ですが、観客にはあまり好かれなかったようです。フィラデルフィア・ロケを行なわず、集合住宅のセットからキャメラが出ない事や、おとぎ話をテーマにしている事、ディズニーからワーナーへ移籍した事と関係あるのか、確かにどことなく生気を欠き、研ぎすまされた感覚や緊張感に乏しい印象は否めません。いつもは周到と感じられる伏線の数々も、どこか無理の多いような、くどいような感じがして残念。

 技術的な面から見れば、今回はカットバックを多用した代わりに長回しのショットが少なく、シャマラン作品にしては少し動的で、テンポが速い印象を受けます。又、ロックを使ったパーティの場面があったり、クリーチャーがたくさん出て来たり、コマ落としや特殊処理など流行を取り入れた映像処理など、平均的なアメリカ映画のルックに近づいているせいで、シャマラン特有の個性が希薄になっているとも指摘できるでしょう。

 私がこの映画に同調できる部分があるとすれば、人にはみな与えられた“役割”があり、一人の存在は必ず他の人達に影響を及ぼしているという主題です。主人公が心の奥に秘めた悲しみと真正面から向き合う事で、自分と他人の双方を癒し、再生してゆくという物語も、シャマラン作品に底流するテーマ。無力感に打ちひしがれて日々を過ごしてきたクリーヴランドが、「女王になんかなりたくない」と怯えるストーリーを「大丈夫。君は人を導く力を持っている」と元気づける場面は感動的です。

 残念なのは、評論家ファーバーがスクラントに襲われるシーン。映画評論家に対するシャマランの復讐という意味合いも含んだ、もしかするとブラックユーモアなのかもしれませんが、現実世界なら当然事件となってしまうわけで、物語の信憑性がここで格段に落ちます。おとぎ話と現実のバランスが崩壊してしまう。この作品では、登場人物は誰も死んではいけなかったと思います。シャマランはそういう事に敏感な映画作家だっただけに、ここは返す返すも残念。

 壁画風の絵で物語の背景を説明するオープニングもムード満点ですが、無用なこけ脅しや虚飾を加えず、ストレートに物語を完結させたラストシーンは、センスの良い絵本の最後のページを読み終わったみたいな、何とも言えない静かな余韻を残して素敵。うるさ方の映画ファンにはこれではシンプルすぎて論外なのでしょうが、シャマランという人の優しさ、気宇の大きさが、ここによく出ていると思います。

* スタッフ

 製作はここでもサム・マーサーとシャマラン自身に、ブラインディング・エッジのホセ・L・ロドリゲス。今回はロケ撮影ではなく、ケネス・ブラナー作品の美術を担当してきたマーティン・チャイルズが、中庭付き五階建てアパートの完全なセットを建設しています。第1助監督のジョン・ラスク、音楽のジェームズ・ニュートン・ハワードも続投で、編集も『サイン』のバーバラ・タリヴァーが再度登板。

 撮影監督はクリストファー・ドイル。『恋する惑星』や『ブエノスアイレス』などウォン・カーウァイ作品のファッショナブルな映像美で知られる彼は、他にも写真家、俳優、映画監督、エッセイストなど幅広い分野で活躍するアーティストです。ハリウッドの映画に参加する事は稀ですが、どの作品を観ても、アジア圏での仕事と違ってあまり個性が出ていないように感じるのは残念。

* キャスト

 主人公クリーヴランドを演じたポール・ジャマッティは素晴らしく、近年高い評価を受けたロン・ハワード監督作『シンデレラマン』の演技を彷彿させます。主演作『サイドウェイ』も評判。前作に引き続いて出演のブライス・ダラス・ハワードも、現実とおとぎ話を橋渡しするような非常に難しい役柄を、独自の存在感で好演しています。こういう役では、女優さん自身が元々持っている雰囲気も大事。

 映画監督でもあるボブ・バラバンは、評論家の役で出演。アパートの住民は若手の役者が中心ですが、名女優メアリー・ベス・ハートも出ています。シャマラン自身も重要な役で出演。彼が俳優として出る事についてとやかく言う人も多いですが、なぜそれがいけないのかさっぱり分かりません。映画監督で俳優もやっている人(その逆は勿論)はたくさんいるし、比較的出演シーンの長かった『サイン』の時と同様、作品世界の中でも十分にリアルな存在感を持っていると思います。

 

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