ミスター・ガラス

Glass

2019年、アメリカ (129分)

 監督・脚本:M・ナイト・シャマラン

 製作総指揮:スティーヴン・シュナイダー、ゲイリー・バーバー

       ロジャー・バーンバウム、ケヴィン・フレイクス

 製作:ジェイソン・ブラム、M・ナイト・シャマラン

    マーク・ビエンストック、アシュウィン・ラジャン

 共同製作:ジョン・ラスク、ドミニク・カタンザリテ

 撮影監督:マイケル・ジオラキス

 プロダクション・デザイナー:クリス・トルジロ

 衣装デザイナー:パコ・デルガド

 編集:ルーク・シアロッキ、ブルー・マーレイ

 音楽:ウェスト・ディラン・ソードソン

 第1助監督:ジョン・ラスク

 出演: ジェームズ・マカヴォイ  ブルース・ウィリス

     サミュエル・L・ジャクソン  アニヤ・テイラー=ジョイ

     サラ・ポールソン  スペンサー・トリート・クラーク

     シャーレーン・ウッダード 

* ストーリー

 フィラデルフィアの施設に自分をスーパーヒーローだと信じる男たちが集められ、精神科医ステイプルによって研究が行われようとしていた。不死身の肉体と悪を感知する能力を持つデヴィッド・ダン、凶暴で超人的な“ビースト”を含む24の人格を持つケヴィン・ウェンデル・クラム、非凡なIQと極度に骨折しやすい肉体を持つイライジャ・プライス。ステイプルは彼らが妄想に取りつかれていると仮定するが・・・

* コメント  ネタバレ注意!

 『アンブレイカブル』と『スプリット』を統合した形での続編。監督はしきりに三部作という言い方を強調していますが、『スプリット』のラストにブルース・ウィリスがカメオ出演した時点では、この展開を誰も予想していなかったように思います。シャマランは『アンブレイカブル』の続編を作りたいと何年も言い続けていたそうですから、構想はずっとあったのでしょう。

 監禁スリラーだった『スプリット』と較べると、本作は『アンブレイカブル』と併せてアメコミのヒーロー映画を脱構築したような物語で、そのユニークな発想は高く評価されるべきだと思います。異化されてはいますが、図式としてはちゃんとスーパーヒーロー物になっているし、ミスター・ガラスというイライジャの通称も、アメコミの悪役キャラクターっぽいです(ただし原題は“GLASS”で、シャマラン作品らしいタイトル)。

 シャマランには珍しく、カットを細かく割ったスペクタクル場面もあり、三つ巴(ステイプルやケイシー達も入れると六つ巴)のクライマックスは、シャマラン作品で最も激しくスピーディなアクション・シーンになっています。特に、デヴィッドとビーストの闘いを車の中から撮影したショットは臨場感満点で斬新ですが、中に監禁されている2人の女性の視点として、ショットにきちんと意味も与えているのはさすが。

 動きが多くて急展開する中間パートと較べると、その前後はやや生彩を欠く印象です。興業面など、何をもってその映画を成功と見做すかは様々ですが、純粋に芸術面から考えると、シャマラン作品がうまく行かない場合には共通点があるように思います。私の見た所、映画の開巻からすでに緊迫感が欠如している場合と、ストーリー上で理屈が前面に出る際に、シャマランの作品は全体の均衡が崩れ、流れが停滞するようです。

 例えば、『レディ・イン・ザ・ウォーター』はその典型ですし、世評は良かったですが『ヴィジット』もそう、『スプリット』も理が勝って緊張感が途切れる場面が多いです。本作にもその傾向がありますが、とにかく描写力に秀でた監督なので、理屈を言葉で説明するシーンが続くと、本領の発揮を阻害する結果になるのかもしれません。

 監督によると、自身初の続編だった事もあり、脚本の時点でかなりの大作になってしまったようです。完成版は最初に編集したものから1時間近くカットされているそうですが、それでも2時間9分の尺があり、シャマラン作品としてはかなり長い方になります。

 オオサカ・タワー(架空)の情報を伏線のようにしつこく出しながら、基本的に施設の敷地から離れないストーリー構成は、ある意味でアンチ・クライマックスですが、そのひねり方がシャマラン流とも言えます。それによって、謎の組織の存在がほのめかされるという意外な展開が導かれますが、これは過去のシャマラン作品の仕掛けとは本質的に違う考え方で、反則の色合いが濃厚。スリラーとしても、施設のスタッフが危険な患者達に不用意に近付きすぎるのは、演出として少々安易。

* スタッフ

 製作陣は『アンブレイカブル』と『スプリット』の混成チーム。共同製作にもシャマランの腹心ドミニク・カタンザリテと第1助監督のジョン・ラスクがクレジットされています。撮影監督のマイケル・ジオラキス、衣装のパコ・デルガド、音楽のウェスト・ディラン・ソードソンも、『スプリット』から続投。編集のルーク・シロアッキもシャマラン組です。

 監督によれば、本作の予算は通常のアメコミ映画の10分の1だったそうですが、シャマランを敬愛する撮影スタッフ達のチームプレイで、クオリティの高い映画となりました。キャストが口を揃えて言うように、全員の名前を覚え、一人一人に小さな試練を課して達成感を与えるシャマランの周りには、いつも素晴らしい人々が集まり、現場は家族のような暖かい雰囲気だったそうです。

 ほぼ全編で舞台となっている病院は、メイキング映像で分かる通り、深い森の中にある廃墟ですが、吹き抜けの階段やピンクの広間など、ヴィジュアル的にとてもインパクトの強い建物。何と、劇中の音楽もこの病院の中にある聖堂で録音されたそうです。エンド・クレジットにもある通り、『アンブレイカブル』からはジェームズ・ニュートン・ハワードの曲も多数使用。

* キャスト

 『スプリット』チームでは、多重人格者を演じるジェームズ・マカヴォイが本作でも圧巻のパフォーマンス。共演したサラ・ポールソンが「一瞬で入れ替わるので身震いした」というほど、瞬時に見事な変貌ぶりを見せます。顔の表情だけでなく、体つきや動き方まで変わるのが凄い所。ケイシーを演じるアニヤ・テイラー=ジョイも、出番こそ前作より減りましたが、繊細な演技で観る者を惹き付けます。

 『アンブレイカブル』組のブルース・ウィリスとサミュエル・L・ジャクソンも、お祭り的な企画で調子に乗る事がなく、肩の力を抜いて、抑制の効いた演技を見せています。嬉しいのは、子役だったスペンサー・トリート・クラークが健在ぶりを披露している事。少し悲しげな風貌は独特で、そのまま成長した感じですが、同じく個性的な風貌のアニヤ・テイラー=ジョイとは、画面上で親和性があります。

 イライジャの母を演じていたシャーレーン・ウッダードも久々に出演。スタジアムで麻薬の売人を演じていたシャマラン監督も、足を洗ったという設定でデヴィッドの店に現れます。ステイプル役のサラ・ポールソンは、スピルバーグの『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』でベン・ブラッドリーの妻を演じた逸材。本作では、全体を統轄する重要な役どころですが、彼女は『アンブレイカブル』を公開当時に劇場で観たそうで、本作の撮影を「夢のような経験だった」と振り返っています。

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