エイリアン3

Alien3 

1992年、アメリカ (劇場公開版115分、完全版145分)

 監督:デヴィッド・フィンチャー

 製作総指揮: エズラ・スウェドロウ

 製作 : ゴードン・キャロル、デヴィッド・ガイラー

     ウォルター・ヒル

 共同製作:シガーニー・ウィーヴァー

 脚本:デヴィッド・ガイラー、ウォルター・ヒル

    ラリー・ファーガソン

 (原案:ヴィンセント・ウォード)

 撮影監督 : アレックス・トムソン , B.S.C.

 プロダクション・デザイナー : ノーマン・レイノルズ

 衣装デザイナー:ボブ・リングウッド、デヴィッド・ペリー

 編集 : テリー・ローリングス

 音楽 : エリオット・ゴールデンサル

 特別協力:ジェイムズ・ヘイグッド、ジョーダン・クローネンウェス

 出演:シガーニー・ウィーヴァー  チャールズ・S・ダットン

    チャールズ・ダンス     ランス・ヘンリクセン

    ダニー・ウェブ  ピート・ポスルスウェイト

* ストーリー

 救命艇の睡眠カプセルで眠りながら宇宙を漂っていたリプリーたちは、凶悪犯の流刑地として使われていた惑星“フィオリーナ161”に不時着する。荒廃したこの惑星で、囚人は自分達独自の宗教を持ち、独身主義の誓いを立てて女性を拒絶していた。墜落時の事故で唯一の生存者となったリプリーは、ここで再びエイリアンの襲撃を受ける。

* コメント

 1作目はリドリー・スコット、2作目はジェームズ・キャメロンと、才能あふれる駆け出しの監督を起用して成功してきたこの『エイリアン』シリーズ。3作目では何と、劇場用映画の撮影経験が一度もない若者を大抜擢するという、製作陣の思い切った人選が議論を呼びました。それにしてもフィンチャー、これがデビュー作だとは、呆れて物も言えないくらいです。どんな監督だって、最初の作品にはどこかぎこちなさが垣間みえるものです。然るに、この作品の驚異的な完成度は一体どういう事でしょう。

 しかも彼は、脚本がまだないにも関わらず、混乱した現場に送り込まれたのです。スキンヘッドにしたシガニー・ウィーヴァーの雄々しい姿は話題をさらいましたが、これはフィンチャーのアイデアで、監督に抜擢される前から持っていたイメージだそうです。うがった見方なら、しようと思えばいくらでも出来るでしょう。例えば、本作についてよく云々される宗教色は、それほど注意深くない観客ですら見逃しようのないほど、明瞭に打ち出されています。

 主人公が自らを犠牲にして世界を救うとなれば、少なくとも欧米社会においては、人々はごく自然にイエス・キリストその人を連想せずにはいられないでしょう。だから、リプリーが足をぴったり閉じ、両手を左右に拡げた格好で殉死するのは当然だし、最初にポッドから救いだされる時のリプリーの姿がピエタの構図、十字架から降ろされるイエスの姿と重なっても、全く不思議はありません。少なくとも、監督がフィンチャーである限り、これらを意図的な演出だと考える方が自然ですし、結局(フィンチャーとはもう関係ないけど)次の第4作では、イエスよろしくリプリーが復活を遂げます。

 しかし、そういった宗教的イコンを見つけ出して映画を理解した気になるよりも、まず、作品としてのクォリティの高さを、フィンチャーの監督技量の確かさを、精確に捉える事が肝要なのではないかと思います。作り手の意識が映画製作の全方向に向いている事、あらゆる点において遥かな高みを目指している事、それを達成するにあたっての熱意、センス、才能。

 クレメンス医師を演じたチャールズ・ダンスはいいます「フィンチャーは天才だ。僕は役者として彼に全てを預けている。彼が言うなら僕はロンドン・ブリッジからだって飛び降りるよ。ヴィジュアルに強い監督には俳優とうまく付き合えない者も多いが、デヴィッドは例外だった。彼の仕事ぶりを見ていると、恐ろしいほどの才能を感じるよ」

 冒頭からいきなり、前作のラストでリプリーと一緒に脱出してきたニュートと伍長の死が示され、新しい登場人物もほぼ全滅してしまうばかりか、ラストに至ってはヒロインまで殉死する絶望的な本作。思えばこれは、彼が『セブン』の“絶望ショー”で圧倒的成功を収める事を暗示しているようにも思えますが、こういう深読みは評論家や好事家に特有の悪い習慣でしょうね。何せどちらの映画でも、フィンチャーは脚本の執筆に直接参加していないわけですし、プロデューサーとして彼が立てた企画でもないわけですから。

 この作品、単調な部分もないわけでありませんし、必ずしも何度も観たくなるほど魅力的とは感じませんが、通俗に堕ちない、凄みを帯びた映画である事は確かです。ちなみにタイトル表記ですが、“エイリアン”の後の“3”は原題・邦題共に、数学で言う三乗で右上に付く小文字が正当ですが、どのブラウザでも正確に表示される事を優先して、便宜上大文字の“3”とさせて頂きました。悪しからず。

* スタッフ

 本作は最初、『ダイ・ハード2』などのレニー・ハーリン監督作品として製作がスタートしました。DVDアルティメット・コレクションのメイキング映像をみると、彼は一年近くこの作品に関わり、新しいアイデアは出ないと悟って自ら降板したと語っています。

 次に抜擢されたのが、『奇蹟の輝き』の監督ヴィンセント・ウォード。彼のアイデアはすこぶる斬新で、木造惑星(!)に中世のような生活を営む修道士達が住んでいて、そこにポッドが墜落してくるというもの。この脚本についてもメイキングで詳しく語られていますが、聞いているだけでワクワクする内容です。しかし、いざ撮影準備に入った途端、会社側が色々と注文を付けてきて、ウォードは結局、「言う通りにしないとクビにする」というスタジオの高圧的な態度を受けて降板してしまいました。

 ウォードの名前は原案のクレジットに残っていますが、完成した映画に彼のアイデアはほとんど残っていません。次に抜擢されたのがフィンチャーで、彼の仕事ぶりはキャストもスタッフもいっぺんに魅了してしまいましたが、会社側とはやはり衝突し、毎日が喧嘩だったそうです。

 何しろ、彼が撮影に参加した時には、既にウォードの脚本に基づいた巨大セットの建設が始まっていたのに、その脚本は白紙にされ、新しい脚本は出来上がっていなかったのです。彼の喧嘩相手は、後に『タイタニック』を製作したジョン・ランドーだったそうですが、そのランドーも、脚本なしで映画初監督という無茶苦茶な状況で本作を撮り上げたフィンチャーの才能を誉め称えています。

 各スタッフの精妙な仕事ぶりには驚かされますが、撮影監督が途中で交替した事は、フィンチャーのファンなら既にご存知でしょうか。当初撮影を担当していたのは、シリーズ第1作の監督リドリー・スコットの傑作SF『ブレードランナー』で知られる、ジョーダン・クローネンウェス。スコットを敬愛するフィンチャーらしい人選です。

 これもメイキングで明らかにされているように、クローネンウェスはパーキンソン病を患っており、撮影に耐えられる健康状態になかったため途中降板しました。代役は、これもリドリー・スコットのファンタジー映画『レジェンド』を撮影したアレックス・トムソン。彼もクローネンウェスのファンだといい、その美しい仕事を引き継げるかどうか自信がなかったと語っていますが、彼も暗くて陰影に富んだ映像を得意とするキャメラマンです。

 編集のテリー・ローリングスもリドリー・スコットとコンビを組んできた人。プロダクション・デザイナーのノーマン・レイノルズは、スピルバーグ作品や『スター・ウォーズ』シリーズを手掛けた人なので、フィンチャーとは旧知の間柄といった所でしょうか。彼は“リアリズムの匂い”をコンセプトに、巨大で複雑なセットを幾つも組んだそうです。

 特殊効果では、この分野の開拓者の一人、リチャード・エドランドが参加してるのが目を惹きます。エイリアンの造型は、元々スイスの有名な画家H・R・ギーガーがデザインしたものですが、前作には参加しなかった彼がここで再び新しいデザインを展開しているのも、第1作のファンには嬉しい所でしょう。

 他では、目立って主張の強いのが音楽。エリオット・ゴールデンサルは、ハリウッドの作曲家の中でもひときわ異彩を放つ人で、実に濃密でほの暗い、不思議な音楽を書きます。シリーズ一作目のジェリー・ゴールドスミスも、二作目のジェームズ・ホーナーも、名実共にハリウッドを代表する売れっ子作曲家ではありますが、ゴールデンサルの、得体の知れない不気味な奥行きを持つ音楽の前には、どことなく影が薄い。それに彼特有の、陰鬱な世界に遠くから光が射すような微妙な色彩感は、フィンチャーの映画に、とてもよく合っていると思います。

 脚本執筆に参加しているラリー・ファーガソンは、『プレシディオの男たち』『レッド・オクトーバーを追え!』など、熱くて男臭いアクション物で頭角を現した売れっ子ライターです。プロデューサーはシリーズ共通で、『48時間』の監督ウォルター・ヒルと脚本家デヴィッド・ガイラー。脚本も結局、彼らが担当する事になりました(でも、どの時点で完成したのでしょうね?)。

* キャスト

 キャストは主演のシガーニー・ウィーヴァー以外みんな男で、ヴィジュアル面からいってもハードで重苦しい雰囲気が漂いますが、そのウィーヴァーも頭をスキンヘッドにして男性的な面を強調した格好でしょうか。

 囚人の惑星という設定なので荒々しい風貌の役者が集められていますが、実は、シェイクスピア劇を上演できるほどの演技派揃いだそうです。クレメンス医師を演じたチャールズ・ダンスは一種独特の知的なムードで異彩を放ちますが、彼もかつてはロイヤル・シェイクスピア・カンパニーの舞台に立っていたという筋金入りの演技派です。前作からのキャラクターでは、異色俳優ランス・ヘンリクセンがアンドロイドのビショップを再び担当。

* アカデミー賞

 ◎ノミネート/視覚効果賞

 

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