オリジナル脚本を書いたアンドリュー・ケヴィン・ウォーカーは、この作品で大きく名前を売った一人。ゲーム性が強くダイナミック展開や、暗く沈んだムードの横溢、社会の病巣に肉薄する鋭い現代性で、アメリカ映画界の一角に特異なポジションを占めるライターです。彼が、ニューヨークのタワーレコードで店長を務めながらこの脚本を書き上げた事は有名ですが、映画の最初に登場する太った死体を彼が演じている事も、ファンの間ではよく知られています(その後『パニック・ルーム』にも出演しています)。 撮影監督のダリウス・コンジは、『デリカテッセン』『ロスト・チルドレン』等でジャン=ピエール・ジュネ監督と組んできた人で、室内ライティングでは特に高い評価を得ている名手。本作の、カラーとモノクロの中間のような陰鬱な映像は、映画のみならずCMやMTVでも大流行を生みましたが、これはわが国で「銀残し」と呼ばれている現像手法と同傾向のもので、コンジが用いたのはテクニカラー社のENRという実験的プロセス。 銀粒子をフィルムに残存させる事でコントラストが強調され、影は真っ黒に、明るい部分は白くつぶれる。悪魔的映像とまで賞賛された仕事ですが、この手法は勿論コンジの発明ではないし、彼も他の作品で同じ画作りはしてはおらず、むしろ、懐中電灯の光線などを巧妙に生かした幻想的なライティング・センスに、彼の才能が光っているように思います。 音楽のハワード・ショアも一筋縄では行かない作曲家。前衛性すら感じさせる沈鬱な作風で、デヴィッド・クローネンバーグやジョナサン・デミ監督に重宝されているのもうなずけます。アンチ・メロディ型の効果音的なスコアも多く、ここでも執拗に同じ和声を反復したりして、独特の不安なムードを醸造しています。 |