パニック・ルーム

Panic Room

2002年、アメリカ (113分)

 監督:デヴィッド・フィンチャー

 製作: ギャヴィン・ポローン、ジュディ・ホフランド

     デヴィッド・コープ、シーアン・チャフィン

 共同製作:ジョン・S・ドーシー

 脚本:デヴィッド・コープ

 撮影監督 : コンラッド・W・ホール

       ダリウス・コンジ , A.S.C. , A.F.C.

 プロダクション・デザイナー : アーサー・マックス

 衣装デザイナー:マイケル・カプラン

 編集 : ジェームズ・ヘイグッド、アンガス・ウォール

 音楽 : ハワード・ショア

 出演:ジョディ・フォスター  フォレスト・ウィテッカー

    ジャレッド・レト  ドワイト・ヨーカム

    クリステン・スチュワート

* ストーリー

 マンハッタンの高級住宅街。離婚したばかりのメグは、10歳の娘サラを連れてある家に移り住む。この家には、緊急時の避難スペースとして設計された“パニック・ルーム”という設備があった。しかしある晩、三人の強盗が邸内に侵入してくる。彼らはここが空き家だと思っていたのだ。内一人はパニック・ルームの設計者で、前の住人だった大富豪が相続争いを逃れるために遺産の半分を部屋の中に隠した事を知っていた。

 新しい住人がいる事を知った彼らは、部屋の秘密を知らずパニック・ルームに逃げ込んだ母娘と攻防を繰り広げる。ところがサラは糖尿病を患っていて、一定時間内にインシュリンを注射しないと命の危険に関わるのだった。

* コメント  

 本作はフィンチャーも認める通り、純粋にエンターティメントを志向した、いわゆるヒッチコック型のスリリングなサスペンス。今回ばかりは軽い気持ちで撮影に臨んだにも関わらず、結局は完全主義的性格がたたって、多大な時間が費やされたといいます。出演者のフォレスト・ウィテッカーが言うには「1カットにつき40から50テイクも重ねる事があった」。ジョディ・フォスター曰く「そう、まるで戦っている感じなのよ」

 確かに本作は、今までのフィンチャー作品と違って娯楽性の強いサスペンスという体裁ですが、作品を観てお分かりの通り、フィンチャーらしさが欠落しているわけではありません。プロット自体が現代社会の問題点を示唆していますし、助けを呼ぼうとしても結局役に立たない隣人(『セブン』の脚本家、アンドリュー・ケヴィン・ウォーカーが演じています)の描写などもアイロニーたっぷり。

 主人公が引越しに使ったトラックのロゴが“メイフラワー”(17世紀に英国からアメリカ大陸へ渡ってきたピューリタン達の船の名前)というのも、偶然ではないでしょうね。それにラスト近く、荘厳な色彩の中で、両手を真横に広げて呆然と立ち尽くすフォレスト・ウィテッカーの姿は、十字架にかけられたキリストのイメージでなくて何でしょう。

 フィンチャーお得意の映像マジックも随所に見られ、キャメラはここでも、とんでもない動きをしたりします。又、彼はいつもオープニング・タイトルのデザインにこだわっており、『セブン』でもかすれたタイポグラフィーの書体を使ってアートに敏感なファンの間で話題を呼びましたが、今回もニューヨークの摩天楼に3Dの文字が浮かぶという凝ったもの。映画ファンが連想する通り、ヒッチコック映画のスタイルを現代風に再現したという話です。

* スタッフ

 脚本を執筆しているのはデヴィッド・コープ。『ジュラシック・パーク』に『ミッション:インポッシブル』に『スパイダーマン』と、話題作・超大作で才能を発揮してきた売れっ子です。密室を使ってスリルを煽る所などハリウッドの得意分野という感じもしますが、強盗三人組のキャラクターを際立たせ、その対立構造や関係性の変化を微妙なタッチで描き分けてみせる辺り、ドラマとしてよく書けていて、凡百のサスペンス映画とは一線を画します。

 撮影監督には『セブン』のダリウス・コンジが再び起用されて、ファンの間でも期待が高まりましたが、残念ながら途中降板してしまいました。仕事を引き継いだのは、コンジの助手もしていたコンラッド・W・ホール。『明日に向かって撃て!』などでアメリカを代表する名手コンラッド・L・ホールの息子です。日本の記者にコンジ降板の理由を訊かれたフィンチャーは「その話には触れたくない」としながらも、「彼は“絵”を撮ろうとしていた。だけどこれは動画なんだ」と発言。やはり意見の相違が原因のようです。

 コンジは相当部分を撮影し終えていたのか、クレジットは2人の連名になっていますが、薄暗い室内で動き回る人物を、懐中電灯の光線とシルエットで表現している映像を見ると、コンジの名前を出されなくとも自然に『セブン』を想起してしまいます。

 パニック・ルームを擁する豪邸を中心とするプロダクション・デザインも、『セブン』に続いてアーサー・マックスが担当。彼も又、フィンチャーが敬愛するリドリー・スコット監督作品で腕を振るってきたデザイナーです。音楽のハワード・ショア、編集のジェームズ・ヘイグッドとアンガス・ウォールなど、ポスト・プロダクションの作業にフィンチャー組常連の人材が多数投入されているのも、フィンチャーらしさに拍車をかけた形。

* キャスト

 ジョディ・フォスターは娘役のクリステン・スチュワートと本当の親子みたいによく似ていますが、実は彼女、当初キャスティングされていたニコール・キッドマンが降板したために、急遽参加する事になったそうです。彼女はフィンチャーとの仕事に惹かれてこの話を受けたそうですが、抑えの効いた知的な演技で好演。

 ちなみにキッドマンは、前作『ムーラン・ルージュ』で痛めた膝が悪化したための降板だそうですが、本作への思い入れは強く、主人公の元夫の恋人として声だけのカメオ出演を果たしています。強盗三人組は、演技派として評価の高いフォレスト・ウィテッカーに、米国を代表するカントリー歌手の一人ドワイト・ヨーカム、『ファイト・クラブ』でエンジェル・フェイスを演じたジャレッド・レトという異色の組み合わせ。三人とも、フィンチャーによって当初の設定とはかなり違ったキャラクターに変更されたとの事です。

 

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