ゾディアック

Zodiac 

2007年、アメリカ (劇場公開版157分、ディレクターズ・カット版163分)

 監督:デヴィッド・フィンチャー

 製作総指揮:ルイス・フィリップス

 製作:ジェイムズ・ヴァンダービルト、ブラッドリー・J・フィッシャー

     マイク・メダヴォイ、シーアン・チャフィン、アーノルド・W・メッサー

 脚本:ジェイムズ・ヴァンダービルト

 (原作:ロバート・グレイスミス)

 撮影監督 : ハリス・サヴィデス , A.S.C.

 プロダクション・デザイナー :ドナルド・グレイアム・バート

 衣装デザイナー:ケイシー・ストーム

 編集 : アンガス・ウォール

 音楽 : デヴィッド・シャイア

 追加編集:カーク・バクスター

 出演:ジェイク・ギレンホール  マーク・ラファロ

    ロバート・ダウニーJr.  アンソニー・エドワーズ

    クロエ・セヴィニー  ブライアン・コックス

    エリアス・コーティアス  ダーモット・マーロニー

    フィリップ・ベイカー・ホール  クレア・デュヴァル

    ジェームズ・レグロス  アダム・ゴールドバーグ

    ザック・グレニア

* ストーリー

 1969年、カリフォルニア州バレーホでのカップル銃撃から始まった連続殺人事件。ゾディアックと名乗る犯人は、謎めいた暗号文と犯行声明で警察とマスコミを振り回し、関わった刑事やジャーナリストの運命をも狂わせてゆく。

* コメント  

 フィンチャー5年振りの新作は、かつて実際に起こり、今もまだ犯人が捕まっていない犯罪史上初の劇場型連続殺人事件の映画化。彼は連続殺人の映画を再び作る気なんてなかったそうですが、この事件は特別で、何でも彼が7歳の時、自宅からわずか20マイルの所でこの事件が起こったという話。

 ゾディアックと名乗るこの殺人犯も有名で、『ダーティ・ハリー』をはじめ、かつて何度も映画のモデルにされてきました。本作は実際にゾディアックの犯行を追ったサンフランシスコ・クロニクル紙の諷刺漫画家、ロバート・グレイスミスのノンフィクションを映画化したもの。新入りのイラストレーターがなぜ事件に深く関わるようになったかは、劇中で詳しく描かれています。

 フィンチャーは入念なリサーチを行ない、準備の過程で発見した新たな証拠を警察に提出したりもした由。しかし未解決の事件であるせいか、通常のサスペンス物のような直線的な展開はとらず、ゾディアック側の描写が出来ない分、事件に関わった人々が人生を狂わされてゆく様を、確かな洞察力で描いています。

 進行はドキュメンタリックで淡々としていますが、何度か挟み込まれるゾディアックの犯行シーンには恐るべき演出力が光り、これは今までのフィンチャー作品にはあまりなかった事ですが、背筋の凍るような恐怖を味わせられます。キャメラワークも今回は敢えて目立たないようにしたそうですが、道路を走る車を追う空撮ショットなどはやっぱりトリッキーというか、思わず「おおっ」と驚かされますね。

 一方、新聞社の場面は至って軽快で、デヴィッド・シャイアの70年代ソウルっぽい音楽もその印象を助長しますが、時にジャズ風の叙情的な音楽が陰影に富んだ映像と相まってビターな詩情を醸し出すなど、不思議とシックな感性も垣間見せます。不安定な和声の上に時折浮遊するトランペットのシグナルは、アメリカの作曲家チャールズ・アイヴズの作品と似ているなと思いながら観ていましたが、曲のタイトル(《答えのない質問》)を思い出して、ああ、これは意図的なパロディだなと確信しました。

 結局、実話の映画化ですから、二時間半を超える長丁場をもってしても、真実の周りをぐるぐると巡った挙げ句、やはり何も解決しないままエンディングを迎えるわけですが、それでも「何か妙な迫力のある映画だったな」という異様な手応えを感じさせる所がフィンチャーの非凡な所です。彼は「私達、ありとあらゆる資料を研究しました」と声高に主張するタイプではありませんが、その尽力が秘かになされているだけに、作品に不思議な存在感があるんでしょうね。好き嫌いはともかく、その点には敬意を表したいと思います。

* スタッフ

 製作のシーアン・チャフィン、撮影のハリス・サヴィデス、編集のアンガス・ウォールと、フィンチャー組スタッフが主要なポジションに勢揃いしていますが、珍しいのが音楽のデヴィッド・シャイア。『サタデー・ナイト・フィーバー』など主に70年代の映画で活躍した人ですが、事件の時代背景に基づいた意図的な人選なのでしょうか。最近はあまり名前を見かけませんでしたが、上に書いたようにここでの彼の音楽は誠に雄弁で、印象に残ります。

* キャスト

 キャストには華やかなスターを起用せず、実力派俳優たちが手堅い演技を披露。本作は、群衆劇とまではいきませんが、異なる立場の人々に同時にスポットを当てた映画なので、狙いとしては的を得ているのではないでしょうか。

 原作者であり、事件とその騒ぎを一歩引いた立場から観察する主人公グレイスミスには、『遠い空の向こうで』等の好演で知られるジェイク・ギレンホール。事件を追いかける花形記者ポール・エイヴリーに、個性派ロバート・ダウニーJr。担当刑事トースキーに、近年大きな注目を集めるマーク・ラファロ。この三人を中心に物語が動いてゆく周辺で、TVシリーズ『ER緊急治療室』で人気のアンソニー・エドワーズ、ブライアン・コックス、エリアス・コーティアス、クロエ・セヴィニーなど、ユニークなキャスティングが彩りを添えています。

 

Home  Top