『ハウス・オブ・カード/野望の階段』(SEASON 1)〜第1章、第2章 (TV)

House of Cards

2013年、アメリカ (56分、50分)

 監督:デヴィッド・フィンチャー

 製作総指揮:ボー・ウィリモン、マイケル・ドブズ

       アンドリュー・デイヴィーズ、ジョン・メルフィ

       ケヴィン・スペイシー、ダナ・ブルネッティ

       ジョシュア・ドネン、エリック・ロス

       デヴィッド・フィンチャー

 共同製作総指揮:リック・クリーヴランド

         サラ・トリーム、ロバート・ゾトノウスキ

 製作:カリン・マッカーシー、キース・ハフ

 共同製作:ピーター・マグロメイツ、H・H・クーパー

      トム・ブローカー

 脚本:ボー・ウィリモン

(原作:マイケル・ドブズ、ミニ・シリーズ:アンドリュー・デイヴィーズ)

 撮影監督:イージル・ブライルド

 プロダクション・デザイナー :ドナルド・グレイアム・バート

 編集 :カーク・バクスター

 音楽:ジェフ・ビール

 出演:ケヴィン・スペイシー  ロビン・ライト

    ケイト・マーラ  マイケル・ケリー

    コリー・ストール  クリステン・コノリー

    ミシェル・ギル

* ストーリー

 新大統領誕生に沸くワシントン。その立役者フランシスは、大統領選に尽力した見返りとして国務長官の地位を約束されていたが、新政権発足と共に白紙に戻される。突然の裏切りに怒り心頭のフランシスは、妻クレアの後押しを得て、大統領を失墜させるべく謀略を企てる。信頼を置く腹心のダグ、野心的な女性記者ゾーイ、スキャンダルまみれの若手議員ピーターも巻き込み、フランシスは新たな野望への階段を上り始める。

* コメント  

 ゼロ年代以降、バリー・レヴィンソンやM・ナイト・シャマラン、ギレルモ・デル・トロ、ニール・ジョーダンなど、映画界で活躍してきた人がテレビ・シリーズに活路を見出し、プロデューサーを買って出た上に第1話を自ら監督するスタイルがすっかり定着しましたが、その中でひときわ注目されるのが本シリーズ。特に、フィンチャー自身が最初の2話分を監督しているのが大きいです。

 2話分となるとシリーズ全体への影響力が格段に増す感じで、しかもトータル2時間ですから、1本の劇場映画と変わらないボリュームになります。その辺りも、彼の事ですから確信犯的な戦略なのかもしれませんね。他にもジョエル・シュマーカー、カール・フランクリン、ジェームズ・フォーリー、ジョディ・フォスターといった映画監督、俳優達が演出を担当していて豪華。

 実は当シリーズ、イギリスで90年代に大人気を博したテレビ・シリーズのリメイクで、オリジナルは1時間×4話のみ。『ゴーン・ガール』の製作者でもあるジョシュア・ドネンがフィンチャーに「とんでもないドラマがある」と見せたのが最初で、これにハマったフィンチャーが舞台をアメリカに移して製作を決意。第1話はほぼオリジナルを踏襲した物語ですが、第2話からはかなり離れているとの事です。

 第1話から復讐劇の様相が濃く、我が国でヒットしたドラマ『半沢直樹』的な痛快さもあり。セリフに盛り込まれたユーモアゆえか、劇映画ほどの張りつめた緊張感は感じられないものの、フィンチャーらしいスタイリッシュな映像センスと、緊密でシャープな語り口は健在。何よりも脚本が傑出しているし、俳優陣の素晴らしい芝居も手伝って、1秒たりとも見逃せないエキサイティングな高揚感が横溢します。時間を忘れさせるほどの高いテンションで、全編を一気に見せてしまう牽引力は卓抜という他ありません。

  特徴的なのは、オリジナル版を踏襲しているという、主人公がキャメラに語りかける一人称のスタイル。これが、スペイシーの図抜けた演技力のおかげで絶大な効果を発揮します。時にはセリフなしで、ほんのちょっとキャメラに目配せするだけだったり、ほんの一言注釈を加える程度だったりもするのですが、これがあるおかげで、ダークな復讐劇に辛辣なユーモアのセンスが加味されるのは大きな利点です。

* スタッフ

 製作に名を連ねるのはテレビ業界の人だけでなく、『フォレスト・ガンプ』『アポロ13』『ミュンヘン』、そしてフィンチャーの『ベンジャミン・バトン』も執筆した名脚本家エリック・ロスや、『ゴーン・ガール』のプロデューサーでもあるジョシュア・ドネンも参加。

 他の監督には、古くは『俺たちの明日』から『ツイン・ピークス』シリーズ、M・ナイト・シャマラン製作の『ウェイワード・パインズ』シリーズにも参加しているジェームズ・フォーリー、『特攻野郎Aチーム』の俳優出身で、『青いドレスの女』『ハイ・クライムズ』の監督でもあるカール・フランクリン、売れっ子監督ジョエル・シュマーカー、シーズン2以降だと名女優でもあるジョディ・フォスターの他、出演者のロビン・ライトが監督をしている回もあります。

 注目されるのは、編集のカーク・バクスタ−、プロダクション・デザインのドナルド・グレイアム・バートと、劇場映画でフィンチャーと組んできた映画畑のベテラン・スタッフを引き込んでいる事。勿論これはフィンチャー監督篇だけの参加なのですが、このスペシャル感はファンには嬉しい所。一方、音楽や撮影監督はテレビ畑の人と組む柔軟さも垣間見せます。

* キャスト  

 フィンチャーによると、スペイシーは第一希望にして唯一の候補で、せっかく苦労して出来上がった第1章の脚本も、彼に出演を断られたらそれで終りだったそうです。しかしスペイシーはシェイクスピアの『リチャード三世』の舞台公演に主演していて、10か月間で世界12都市を回っており、その後でなければスケジュールが空かないと返答。フィンチャーにとっても、第2章以降の脚本がまだ出来ていないし、この舞台は良い役作りになると好都合でした。スペイシーも、客席に向かって語るセリフが多いシェイクスピア劇を演じた経験が、本作の一人称スタイルにうまく生かせたと語っています。

 『ドラゴン・タトゥーの女』で一度組んだロビン・ライトの抑制の効いた演技も、独特のミステリアスな雰囲気を感じさせますが、彼女が演出を担当している回もあり、単なる助演女優以上の、作品への深い関わりが窺えます。さすがにテレビは低予算と見え、他に知名度の高いスターは起用していませんが、脇役に至るまでステレオタイプの陳腐な演技は徹底排除され、細部に至るまでフィンチャーイズムが徹底している印象は強烈です。

 

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