海軍で起きた殺人事件をめぐる、法廷サスペンス。演劇界では異例という、ブロードウェイで二年間のロングラン・ヒットとなった戯曲が原作で、俳優達に演技力を要求されるとあって、配役の豪華さがただごとではありません。いかな優れた原作・脚本とはいえ、ここまでくるともう、本作の見どころはしぜん、俳優観賞とならざるを得ないでしょう。 事件解決に向かう弁護団にトム・クルーズとデミ・ムーア。彼らとチームを組む仲間に、コメディアン出身のケヴィン・ポラック(いつもいい味を出す人で、私は大好きです)。ジェセップ大佐にジャック・ニコルソン、その配下にJ・T・ウォルシュとキーファー・サザーランド。J・T・ウォルシュも私の大好きな役者でしたが、亡くなってしまいましたね。ニコルソンが『恋愛小説家』でオスカーに輝いた時、スピーチの中でウォルシュへの弔意を述べていたのが印象的でした。個性的な悪役や憎まれ役のうまい人ですが、ここでは抑えた渋い演技で、事件の真実を握るキーマンを演じています。 キーファー・サザーランドは、『スタンド・バイ・ミー』に続くライナー作品。近年は警察沙汰が続いて素行の悪さばかり注目されますが、迫力のあるいい役者さんです。ドラマ『24 TWENTY FOUR』の大ヒットで、日本でもお馴染みの顔になりました。さらに、ニコルソン側の弁護士を、演技派として大成したケヴィン・ベーコンが演じています。彼とトム・クルーズによる、火花の散るような弁護合戦は実にスリリング。 ライナーの演出は、コメディの時とは違って真摯な姿勢をみせますが、常に素材にとって最良の方法が選択されている所は、さすがという他ありません。最初はいい加減だった人物が、優れた仲間や刺激的なライバルを得て正義に目覚め、巨悪を打ち負かすというストーリーは、いかにも大衆受けしそうな型であるものの、軍隊の内部規律が抱えるモラルのジレンマと、偉大な弁護士だった父の影響と闘うキャフィの内面的葛藤という、二本の大きな柱をテーマの中核に据えた事で、見応えのある物語になりました。映画全体も、監督のセンスと実力のある俳優達、非凡なスタッフ・ワークのおかげで、通俗に堕ちることがありません。 ライナーらしい語り口は、トム・クルーズとデミ・ムーア、ケヴィン・ポラックの三人が、部屋で勉強を重ねて行くシーンによく表れています。キャメラは、窓の外からゆっくりと彼らにドリー・インしてゆき、その間に、彼らが議論を重ねているシーンが、時間の経過を追ってコラージュされてゆくわけですが、その中に、彼らがボールで遊んでいるようなシーンなども組み込まれています。彼ら三人は、常に事件にばかり取り組んでいるわけじゃない。人間だから、生活がある。気が合えば、息抜きにはしゃぎ合ったりする仲にもなる。殺人事件とも法廷での争いとも直接関係ないけれど、そこを描く映画って、やっぱりなんか素敵です。 |