ライナーが得意とするクール・コメディのタッチで描いた子供版ロードムービー。垢抜けた笑いのセンスが際立つ、愛すべき小品です。ライナー自身によれば、評論家からは酷評され、観客にも愛されずヒットしなかった作品という事ですが、実は私、この映画がライナー作品の中でも特に好きなのです。ここにみる彼の語り口は、正に才気煥発、自由自在。軽快なテンポで進めて行く呼吸の良さや、適度なパロディ精神、個性溢れるキャラクター造形など、それはそれは器用な演出ぶりで、その見事な手腕には舌を巻きます。 この映画は、登場人物が笑わない、いわばポーカーフェイス・コメディ。かつてライナー作品のキャメラを担当していたバリー・ソネンフェルドや、『ブルース・ブラザーズ』のジョン・ランディス監督などが得意とする分野です。全てがデフォルメされながらも肌触りは極めてクールで、『スパイナル・タップ』や『プリンセス・ブライド・ストーリー』の系列にも連なります。 ノース少年は、両親に無視されている、愛されていないと感じている。野球をしていた彼は、ストレスと悩みのせいでプレイに集中できなくなり、試合を放り出して突然森の中へ入ってゆく。そこへいちいち挿入される、ブルース・ウィリスのすっとぼけたナレーション。曰く「子供には誰でも心落ちつく秘密の場所がある。ノースにもそれがあった」。彼は森を抜け、川を渡り、野原を横断して、いつの間にか意外な場所に落ち着く。オチの前の大袈裟な前フリと上っ面の生真面目な態度、作品のスタイルはこれで決定したも同然です。 ハワイ、アラスカ、パリ、北京、テキサスと、両親探しの旅をしてゆく間、ノースは様々な両親候補と出会いますが、そこに豪華なキャストを投入しているのもライナーらしい所。例えば、アラスカの両親にキャシー・ベイツとグラハム・グリーン、テキサスのパパにダン・エイクロイド、アーミッシュの両親は『刑事ジョン・ブック/目撃者』のパロディでアレクサンダー・ゴドゥノフとケリー・マクギリスが特別出演。 他にも、判事役のアラン・アーキンやジョン・リッターなど個性派達が出演していますが、各自の出番が少ないせいか、この作品はキャストの豪華さと内容のスケールに関わらず、どこか愛らしい小品のような雰囲気を獲得しています。又、ここでのブルース・ウィリスが、とても良い。いつもの彼とは違い、さりげなく淡々とした感じがあって、けれん味のないてきぱきとした言動が、妙にこの作品のトーンとマッチしています。ちなみに本作では、後に天才子役、そして実力派女優と成長を遂げるスカーレット・ヨハンソンが、小さな役ながら10歳で映画デビューを果たしています。 世界の主役が子供になるという設定ゆえ、たくさんの子供が登場し、中には悪役やその手下、裏切り者なども出てきますが、それらを演じる子供達の、生き生きとして芸達者で、なおかつ自然な事といったらありません。主演のイライジャ・ウッドがまた素晴らしく、当時は、天才子役という使い古された言い回しが新たな輝きを獲得したように感じたものでした。この頃からすると、『ロード・オブ・ザ・リング』三部作の彼はいかにもちゃんと成人した役者で、少し物足りない感じすら受けます。 ハートウォーミングなラストは、やはりこうなるしかないという予定調和ではありますが、私は気に入っています。ラストはこれでいいのです。そこまでの経過をどうやって持ってゆくかが映画なのだと思います。それにしてもこの映画、なぜそんなに評価が低かったのでしょうか。「超大作よりも気の利いた小品が好き」という私の性質が世間一般とズレているのかもしれませんが、いつか本作が奇跡的に再評価される日を心待ちにしている今日この頃です。 |