『恋人たちの予感』の二人、あの15年後はどうなっているのだろう? ライナーはこのコンセプトを基に、全く別のキャラクター、別の俳優を使って新しいロマンティック・コメディを撮り上げました。世間の評価はそれほど高くないようなのですが、この映画、個人的にはライナー作品の中でも『ノース/ちいさな旅人』と並んで特に好きな一作なんです。ハリウッドの恋愛映画は大抵ハッピーエンドで締めくくられますが、やたらと離婚率の高いアメリカ社会を反映してかどうか、ライナー監督は、ハッピーエンドを迎えた男女がその関係を持続させてゆく難しさを、コミカルに、ちょっぴり切なく描いています。 まずは、遊び心溢れる粋な演出。ベッドの上で口論する二人の両端にそれぞれの両親が現れ、6人での口論を繰り広げるシーン。これは、彼らがカウンセラーに言われた「ベッドに2人で寝ていても、そこにはそれぞれの両親を含めた6人がいると思った方がいい」という言葉からイメージした想像シーン。それから、お喋りなアメリカ人夫婦に悩まされ続けるヴェニス旅行のシーン。そして、『恋人たちの予感』のスタイルを彷彿させる、男性グループと女性グループの会話シーンを比較対称させたような構成(本作ではさらに人数を増やし、それぞれ三人グループになっています)。 それから、編集。この映画は、主人公の二人が夫婦として積み上げて来た時間を、短いカットの膨大な積み重ねとして描いています。口汚く罵りあったり、親密な愛情を感じさせたり、はめを外してふざけあったり、それぞれ1秒にも満たないような一瞬のカットを、スピーディなカッティングで次々に繋いでゆく。各カットは、ごくありふれた日常のワンシーンに過ぎないのだけれど、その断片をこうやって連続して見せられると、映画の外にある、この夫婦が重ねてきたかけがえのない時間を思わずにはいられません。 そして、これらのカットは、キャメラも照明も、俳優の衣装も立ち位置も、全てセッティングが違うのです。きっと、カットごとに場面の設定を話し合って、数分間の寸劇を次から次へ撮影したのでしょう。その、気の遠くなるような作業を思うと、何だか微笑ましくなると同時に、真正な感情のこもった映画作りへのひたむきな姿勢に胸が熱くなります。 もう一つ、忘れてはいけないのが音楽。ライナー監督も音楽担当のマーク・シャイマンも聴いた瞬間に魔法にかかったという、エリック・クラプトンの主題歌“(I) Get Lost”。出来合いの曲を持って来たのではなく、ラフ・カットを見せて作曲依頼したという曲ですが、あまりに作品のトーンにぴったりだったため、シャイマンがアレンジして全編に使う事にしたそうです。この曲と、もう一つのバラード風のテーマは、センチメンタルで、寂しくて、でもほんのりと暖かくて、本当にこの映画にぴったり。これらのメロディが流れてくるだけで、主人公達の心情が画面の外へ溢れ出してくるよう。 夫婦の危機、それも子供の問題も絡んでくるとあって、さすがに『恋人たちの予感』や『あなたにも書ける恋愛小説』ほど軽いタッチとは行きませんが、その代わりに情感豊かな、よりロマンティックな映画になりました。96分という上映時間も内容に合ったもので、ライナー監督自身、このくらいの尺の映画では特に才気を発揮するように思います。ラストシーン、私は爽やかな涙と共に素敵なエンディングを堪能しましたが、皆様はどう受け止められるでしょうか。 |