あなたにも書ける恋愛小説

Alex & Emma 

2003年、アメリカ (95分)

 監督:ロブ・ライナー

 製作総指揮:ピーター・グーバー、ジェフリー・ストット

        ジェイソン・ブルーメンタール、スティーヴ・ティッシュ

 製作:ジェレミー・レヴェン、アラン・グレイスマン

    トッド・ブラック、エリー・サマハ

 脚本:ジェレミー・レヴェン

 撮影監督 : ギャヴィン・フィニー, B.S.C.

 プロダクション・デザイナー :ジョン・ラレナ 

 編集 : ロバート・リートン、アラン・エドワード・ベル

 音楽 :マーク・シャイマン

 出演:ケイト・ハドソン  ルーク・ウィルソン

    ソフィー・マルソー  デヴィッド・ペイマー

    ロブ・ライナー 

* ストーリー

 サラ金に借金を作り、30日以内に新作を執筆しないと殺されるという絶体絶命のピンチに陥った小説家アレックス。取り立て屋にパソコンを壊されてしまった彼は、口述して速記してもらおうとタイピストのエマを雇うが、自分の意見をズバズバ言う彼女と対立する内、仕事仲間以上の気持ちを彼女に対して抱きはじめる。

* コメント  

 ライナーお得意のラブコメですが、本作が面白いのは、主人公が執筆している時代小説の中の世界と現実の世界がリンクしていて、お互いが影響を与えあっている所です。ドタバタ喜劇あり、ウィットに富んだ会話劇あり、シリアスな恋愛映画的展開ありと、多種多様な要素を散漫にならぬようまとめた手腕は、ライナー監督一流。

 冒頭、サラ金の取立て屋とアレックスの攻防シーンは、サスペンスフルでありながら、ドタバタ喜劇の要素も加味した、絶妙のタッチ。それから後は、お互いあまり好印象を持っていなかった二人に恋愛感情が芽生えてゆくという、『シュア・シング』『恋人たちの予感』でも使われたライナーお得意の構成に持ち込みますが、本作での新機軸は、彼らが仕上げてゆく小説の内容を映像で見せている所。エマとアレックス自身が劇中人物として登場する他、ソフィー・マルソーやデヴィッド・ペイマーも加わって、コスチューム物の恋愛物語を同時進行させていきます。この演出は又、小説の内容がアレックス自身の体験を反映している事をも暗示します。

 紆余曲折を経てハッピーエンドへという定石の展開はラブコメならではといった所ですが、多彩なテイストを盛り込みながらも一時間半のタイトな尺に収め、実に気の利いた小品に仕上げています。セリフや演出にシニカルなユーモアと創意工夫があるのもライナー印。最初に劇場で観た時は、ラストがどうもしっくりこなかったのですが、今回DVDで見直してみて、多少の強引さはあるものの、この映画にはまあ相応しいラストなのかな、と思いました。ノラ・ジョーンズの主題歌はとてもシックで、センチメンタルな味わいもあって、この曲が掛かると一気にライナー作品らしいムードが高まるのが素敵です。

 ちなみにこの映画、信じられない事に実話を基にしているのですが、アレックスのモデルとなったのはなんとロシアの文豪ドストエフスキー。実際に彼も、借金のために30日以内に新作を仕上げなければならず、速記係のアンナと恋に落ちたそうです。その小説、『賭博者』もやはりアレックスの小説と同様、リゾート地を舞台に美女ポリーナをめぐって繰り広げられる物語との事。ちょっと、びっくりですね。

* スタッフ

 脚本を書いたのは『バガー・ヴァンスの伝説』のジェレミー・レヴェンで、製作にも参加。プロデューサーのジェフリー・ストット、音楽、編集はいつものメンバーですが、撮影監督、プロダクション・デザイナーには独立したばかりの若手を起用している所、比較的低予算で製作された映画だったのかな、と思ったりもします。しかし、暖色系のルックで撮影された小説のシークエンスは、衣装やセット美術なども20年代の雰囲気を再現していて、なかなか凝った仕事。シャイマンの音楽は、粋なアニメーションで綴られる古風なオープニング・タイトルこそ生気に溢れますが、本編中はあまり存在感を示さず、むしろノラ・ジョーンズの主題歌の方が耳に残ります。

* キャスト

 アレックスを演じたルーク・ウィルソンは、兄のオーウェン・ウィルソンほど華々しい活躍はしていないようですが、知名度に比して好感の持てる芝居を展開、冒頭の逃避シーンや、フラメンコから空手まで珍妙なダンスを踊る場面など、身体を使ったコミカルな演技もうまいようです。相手役のケイト・ハドソンは、顔の表情が素晴らしく豊かで、ラブコメへの適性を見事に発揮。作中劇では、様々な国の四人のキャラクターをデフォルメ気味に演じ分けています。

 ソフィー・マルソーは、90年代前後の作品を私があまり観ていないせいか、『ラ・ブーム』の主演アイドルから情念とエロスの女優へ脱皮した人というイメージばかりが先行していたのですが、小説シークエンスでの繊細な表情は見ものだし、現実の場面に登場した時の爽やかな感じも素敵で、アメリカの街角にすっかり溶け込んでいるのが不思議でした。他には、『アメリカン・プレジデント』でもライナーと組んだデヴィッド・ペイマーが出ています。ライナー自身、編集長の役で何度も登場。自分の映画によく出る人ですね。

 

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