ライナーお得意のラブコメですが、本作が面白いのは、主人公が執筆している時代小説の中の世界と現実の世界がリンクしていて、お互いが影響を与えあっている所です。ドタバタ喜劇あり、ウィットに富んだ会話劇あり、シリアスな恋愛映画的展開ありと、多種多様な要素を散漫にならぬようまとめた手腕は、ライナー監督一流。 冒頭、サラ金の取立て屋とアレックスの攻防シーンは、サスペンスフルでありながら、ドタバタ喜劇の要素も加味した、絶妙のタッチ。それから後は、お互いあまり好印象を持っていなかった二人に恋愛感情が芽生えてゆくという、『シュア・シング』『恋人たちの予感』でも使われたライナーお得意の構成に持ち込みますが、本作での新機軸は、彼らが仕上げてゆく小説の内容を映像で見せている所。エマとアレックス自身が劇中人物として登場する他、ソフィー・マルソーやデヴィッド・ペイマーも加わって、コスチューム物の恋愛物語を同時進行させていきます。この演出は又、小説の内容がアレックス自身の体験を反映している事をも暗示します。 紆余曲折を経てハッピーエンドへという定石の展開はラブコメならではといった所ですが、多彩なテイストを盛り込みながらも一時間半のタイトな尺に収め、実に気の利いた小品に仕上げています。セリフや演出にシニカルなユーモアと創意工夫があるのもライナー印。最初に劇場で観た時は、ラストがどうもしっくりこなかったのですが、今回DVDで見直してみて、多少の強引さはあるものの、この映画にはまあ相応しいラストなのかな、と思いました。ノラ・ジョーンズの主題歌はとてもシックで、センチメンタルな味わいもあって、この曲が掛かると一気にライナー作品らしいムードが高まるのが素敵です。 ちなみにこの映画、信じられない事に実話を基にしているのですが、アレックスのモデルとなったのはなんとロシアの文豪ドストエフスキー。実際に彼も、借金のために30日以内に新作を仕上げなければならず、速記係のアンナと恋に落ちたそうです。その小説、『賭博者』もやはりアレックスの小説と同様、リゾート地を舞台に美女ポリーナをめぐって繰り広げられる物語との事。ちょっと、びっくりですね。 |