『LBJ/ケネディの意志を継いだ男』に続き、同じ脚本家と主演俳優、ほぼ共通のメイン・スタッフで挑んだ硬質なドラマ作品。やはり短い上映時間で、題材に対してシャープに切り込んでいます。同じく政治を扱いますが、今度はジャーナリズムの立場から描いていて、決してマンネリには陥っていません。 時代背景も製作年にずっと近いですが、テーマはどこまでも普遍的なもの。ジャーナリズムの在り方、四面楚歌の記者たちが信念を曲げずに真実を報道する物語は、ドキュメンタリックな見方にも、劇映画としての娯楽性にも耐えうる、したたかな強度を備えます。 『LBJ』と同様、アンサンブル芝居の高い凝集度、そして脚本の手際良さとスタッフ・ワークのクオリティには、思わず舌を巻きます。ゼロ年代をまたいで少々ユルい映画が続いたライナーですが、決して腕を落していたわけではありませんでした。むしろこの、全てのネジをきっちりと締めてゆくごとき、すこぶる峻厳で手堅い演出は、近年ベテラン監督にも若手監督にもなかなか見られないものです。 タイトな尺の中でテンションと求心力をキープし、陳腐なセリフを一切入れないのが凄い所。芝居臭さのない、俳優陣の自然な演技が真実の重みをヴィヴィッドに伝えますが、特に凄いのがライナー自身が演じる編集長のスピーチ。間といい抑揚といい、迫真的な凄みがあって圧倒されます。彼の出演は撮影開始直前に決まったそうですが、実際のスピーチそのままというこのセリフを、こんな自然体で喋れるライナーは、役者としても一級。 抑制が効いているにも関わらずユーモアや多面性があり、内的な燃焼度が高いという、とにかく素晴らしい脚本、演出です。バリー・マーコウィッツの撮影が傑出しているのも『LBJ』と同様で、強い光を当てて白飛びさせ、モノクロのような効果を出す手法も健在。 後に世界中がそれと認識した、「イラクに大量破壊兵器は無かった」という事実ですが、劇中では話を耳にした編集長が開口一番に「そんなバカな事、あるわけないだろ」という反応をしており、アメリカの知識人にとって、その情報がどれだけ荒唐無稽なものであったかが窺いしれます。 10年、15年ごとに戦争をしないと維持できないとも言われる、巨大な軍産複合体を抱えるアメリカの病巣を、これほどエッジの効いた視点からあぶり出した映画は久しぶり。実際のニュース映像の使用、そしてラストの字幕説明に、作り手の怒りの激しさが如実に表れています。我が国でももっと大きな話題を呼ぶべき映画だったという点では残念ですが、実はライナー、35年の監督人生で初となる来日キャンペーンを行っています(舞台挨拶の様子もソフトの特典映像に収録)。 |