記者たち/衝撃と畏怖の真実

Shock and Awe

2017年、アメリカ (91分)

 監督:ロブ・ライナー

 製作総指揮:マーティン・シェイファー、ロン・リンチ

       トレイシー・ハーシュマン、ケヴィン・J・ワジンスキ

       ウェイン・マーク・ゴドフリー、ロバート・ジョーンズ

       アラステア・バーリンガム、トニー・パーカー

       クリストファー・H・ワーナー、アラン・グレイスマン

       ジョンソン・チャン、ニコラス・チャプティアー

       ジョナササン・デクター、パトリック・デピータース

       マシュー・ヘルダーマン、ルーク・テイラー

 製作:マシュー・ジョージ、ミシェル・ライナー

    ロブ・ライナー、エリザベス・A・ベル

 共同製作:ジョセフ・ギャロウェイ、ジョナサン・ランデー

      ウォーレン・ストロベル、ジョン・ウォルコット

 脚本:ジョーイ・ハートストーン

 撮影監督:バリー・マーコウィッツ, A.S.C

 プロダクション・デザイナー:クリストファー・R・デムーリ

 衣装デザイナー:ダン・ムーア

 編集:ボブ・ジョイス

 音楽:ジェフ・ビール

 キャスト:ウディ・ハレルソン  ジェームス・マースデン

      ロブ・ライナー  ジェシカ・ビール

      ミラ・ジョヴォヴィッチ  トミー・リー・ジョーンズ

      リチャード・シフ  ルーク・テニー

* ストーリー

 2002年、新聞社ナイト・リッダーのワシントン支局長ジョン・ウォルコットは、9.11同時多発テロの首謀者ビンラディンを追っているはずのブッシュ政権が、イラク攻撃を計画しているとの信じがたい情報を得る。

 イラクとテロ組織に繋がりなどあるはずもなく、疑念を抱いたウォルコットは、記者たちの徹底取材によって、“大量破壊兵器の保持”というイラク侵攻の根拠がねつ造されたものであることを突き止める。しかし大手新聞社は軒並み政府発表をそのまま報じ、ナイト・リッダーは孤立していく。

* コメント

 『LBJ/ケネディの意志を継いだ男』に続き、同じ脚本家と主演俳優、ほぼ共通のメイン・スタッフで挑んだ硬質なドラマ作品。やはり短い上映時間で、題材に対してシャープに切り込んでいます。同じく政治を扱いますが、今度はジャーナリズムの立場から描いていて、決してマンネリには陥っていません。

 時代背景も製作年にずっと近いですが、テーマはどこまでも普遍的なもの。ジャーナリズムの在り方、四面楚歌の記者たちが信念を曲げずに真実を報道する物語は、ドキュメンタリックな見方にも、劇映画としての娯楽性にも耐えうる、したたかな強度を備えます。

 『LBJ』と同様、アンサンブル芝居の高い凝集度、そして脚本の手際良さとスタッフ・ワークのクオリティには、思わず舌を巻きます。ゼロ年代をまたいで少々ユルい映画が続いたライナーですが、決して腕を落していたわけではありませんでした。むしろこの、全てのネジをきっちりと締めてゆくごとき、すこぶる峻厳で手堅い演出は、近年ベテラン監督にも若手監督にもなかなか見られないものです。

 タイトな尺の中でテンションと求心力をキープし、陳腐なセリフを一切入れないのが凄い所。芝居臭さのない、俳優陣の自然な演技が真実の重みをヴィヴィッドに伝えますが、特に凄いのがライナー自身が演じる編集長のスピーチ。間といい抑揚といい、迫真的な凄みがあって圧倒されます。彼の出演は撮影開始直前に決まったそうですが、実際のスピーチそのままというこのセリフを、こんな自然体で喋れるライナーは、役者としても一級。

 抑制が効いているにも関わらずユーモアや多面性があり、内的な燃焼度が高いという、とにかく素晴らしい脚本、演出です。バリー・マーコウィッツの撮影が傑出しているのも『LBJ』と同様で、強い光を当てて白飛びさせ、モノクロのような効果を出す手法も健在。

 後に世界中がそれと認識した、「イラクに大量破壊兵器は無かった」という事実ですが、劇中では話を耳にした編集長が開口一番に「そんなバカな事、あるわけないだろ」という反応をしており、アメリカの知識人にとって、その情報がどれだけ荒唐無稽なものであったかが窺いしれます。

 10年、15年ごとに戦争をしないと維持できないとも言われる、巨大な軍産複合体を抱えるアメリカの病巣を、これほどエッジの効いた視点からあぶり出した映画は久しぶり。実際のニュース映像の使用、そしてラストの字幕説明に、作り手の怒りの激しさが如実に表れています。我が国でももっと大きな話題を呼ぶべき映画だったという点では残念ですが、実はライナー、35年の監督人生で初となる来日キャンペーンを行っています(舞台挨拶の様子もソフトの特典映像に収録)。

* スタッフ

 例によって、製作総指揮に大量の人物を参加させる流行のスタイル。そうしないと企画が通らない時代になったのかもしれません。マーティン・シェイファー、マシュー・ジョージ、エリザベス・A・ベルと近年のライナー組に加え、かつての仲間アラン・グレイスマンの名前も混じっているのは嬉しい所。

 メイン・スタッッフも前作と共通で、なんとたった26日間で撮影。その背景にスタッフの優秀さがあり、特に撮影のバリー・マーコウィッツについては、監督も絶賛しています。「バリーは撮るのがすごく早くて、自然光を操るのがうまい。彼のおかげでチームワークがすごく良くなったんだ。彼がまた参加してくれてラッキーだったよ」。

 唯一音楽が、常連のマーク・シャイマンからジェフ・ビールに交代しているのは、なにか事情があったのでしょうか。挿入される多くのニュース映像は、決して使用がスムーズに行ったわけではなく、特定のメディアは映像を売るのを拒否したそうですが、アメリカではフェアユースという著作権に関する法律によって、実話に基づく映画では資料提供の権利が保証されているとのこと。

* キャスト

 前作『LBJ』に続きウディ・ハレルソンが主演していますが、役柄はまるで違い、記者の一人ランデーを演じています。前作では特殊メイクを施して実年齢よりも上の大統領を演じていたので、ここではずっと若く、軽快に見えるのが面白い所。アンサンブル演技でむしろ一歩引き、他の俳優たちの見せ場をサポートしているようにも感じます。

 相棒のストロベル役は、『X-MEN』シリーズのスコットや『魔法にかけられて』のエドワード王子役で人気を博したジェームズ・マースデン。熱血漢の若手として演じても良いような役ですが、彼もまた抑えた演技を貫き、映画全体の自然な雰囲気に貢献しています。

 ランデーの妻ヴラトカを演じたミラ・ジョボヴィッチ、ストロベルの恋人を演じたジェシカ・ビールといった人気女優たちも、ハリウッド・スタイルの装飾的な芝居をしていないのがさすが。しかし、それぞれの立場(特にヴラトカは東欧系移民家系)からナイト・リッダーの記事に反応するなど、緻密な人物描写とそれに対する俳優のアプローチも垣間見えます。

 ライナー自身は見事なまでに自然体の演技で画面に溶け込む一方、逆に、謎めいた情報提供者を演じるリチャード・シフ、伝説のジャーナリストを演じるトミー・リー・ジョーンズ両名の、ややクセの強い存在感は適度なスパイスになっています。

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