長年、スピルバーグの片腕として目覚ましい仕事ぶりを展開してきたマーシャルが、そのスピルバーグのプロデュースの元、監督デビューを果たした作品。スタッフも、スピルバーグ作品に関わってきた人材が総動員されています。さらに本作はディズニーの新しいプロダクション、ハリウッド・ピクチャーズの第1作でもあります。ちなみにタイトルは、「クモ恐怖症」の意。 アマゾンの密林からやってきた毒グモがアメリカ郊外の住宅地を恐怖に陥れるという、典型的な動物パニック物ですが、スタッフが一流なのと、不思議なトーンを持ったマーシャルの演出センスによって、奇妙な味わいの映画になりました。サスペンスの描写は、これが監督第1作とは思えぬほど堂に入っており、クモが町に放たれるシーンも、最初はネコや犬など動物の目線でクモを追い、クモをくわえて飛び去ったカラスが主人公の新居の庭に落ちてくるなど、見事な演出力を発揮。クライマックスも実にスリリングでスピード感があり、B級映画に特有の、安っぽくて即物的な演出とは一線を画します。 特に目を惹くのがコミカルなタッチで、ジョン・グッドマン演じる害虫退治業者の場面は、完全にコメディのスタイルで演出されています。他にも、「人間の夫婦」「クモの雄雌」の夜の営みを対比させた場面や、絶体絶命のピンチに陥ってもまだ他力本願な主人公ロスのキャラクター造型、ジェームズ・ボンドばりに物陰に隠れて火炎噴射をかわすクモの描写など、散発的に笑いを誘う場面もありますが、全体として、いわゆるホラー・コメディと呼べるほど分かり易いタッチでもないのが、この映画の不思議な所です。 本編が住宅地を舞台にしている事を考えると、導入部のジャングルの場面などは、映画全体のバランスを崩しかねないほどスケールが大きいですが、前人未踏の大自然というのは、この後のマーシャル作品にも必ず登場してくるモティーフなので、振り返って見るとこの場面は短いけれど重要、という事になるのかもしれません。この不気味なジャングルの存在感があってこそ、郊外の住宅地で人々を襲いまくる獰猛なクモに説得力が与えられるという事でしょう。 街の新参者である主人公が、患者第1号、第2号の謎の死によって、“ドクター・デス”などとあだ名を付けられ、孤立してゆくくだりは、やはりスピルバーグの監督作『ジョーズ』の主人公とイメージが重なります。美しい音楽をバックに平和な町の情景を紹介する所も、『ポルターガイスト』や『グレムリン』辺りを彷彿させる、アンブリン作品のトレードマーク的演出。 |