アラクノフォビア

Arachnophobia 

1990年、アメリカ (109分)

 監督:フランク・マーシャル

 製作総指揮スティーヴン・スピルバーグ , フランク・マーシャル

 製作:キャスリン・ケネディ , リチャード・ヴェイン

 共同製作:ドン・ジャコビー、ウェズリー・ストリック

 脚本:ジャスティン・ザッカム

 撮影監督 : ミカエル・サロモン, A.S.C.

 プロダクション・デザイナー :ジェームス・ビッセル

 編集 : マイケル・カーン, A.C.E.

 音楽 :トレヴァー・ジョーンズ

 出演:ジェフ・ダニエルズ  ハーレイ・ジェーン・コザック

    ジョン・グッドマン  ジュリアン・サンズ

* ストーリー

 南米の熱帯雨林。アメリカ化学探検隊のスタッフが、新種の毒グモに刺されて急死する。カリフォルニア郊外の町へ運ばれていった死体には、何とそのクモが紛れ込んでいた。一方、その町に家族と越してきた医者のロス。開業医を始めたのはいいが、なぜか彼が診断した患者が、次々と突然死してしまう。住民からも不審の目を向けられる中、彼は、死の原因が例の毒グモである事を突き止める。しかし、厄介な事に彼はクモ恐怖症だった。害虫バスターや学者と共に、クモ退治に乗り出す彼だが…。

* コメント  ネタバレ注意!

 長年、スピルバーグの片腕として目覚ましい仕事ぶりを展開してきたマーシャルが、そのスピルバーグのプロデュースの元、監督デビューを果たした作品。スタッフも、スピルバーグ作品に関わってきた人材が総動員されています。さらに本作はディズニーの新しいプロダクション、ハリウッド・ピクチャーズの第1作でもあります。ちなみにタイトルは、「クモ恐怖症」の意。

 アマゾンの密林からやってきた毒グモがアメリカ郊外の住宅地を恐怖に陥れるという、典型的な動物パニック物ですが、スタッフが一流なのと、不思議なトーンを持ったマーシャルの演出センスによって、奇妙な味わいの映画になりました。サスペンスの描写は、これが監督第1作とは思えぬほど堂に入っており、クモが町に放たれるシーンも、最初はネコや犬など動物の目線でクモを追い、クモをくわえて飛び去ったカラスが主人公の新居の庭に落ちてくるなど、見事な演出力を発揮。クライマックスも実にスリリングでスピード感があり、B級映画に特有の、安っぽくて即物的な演出とは一線を画します。

 特に目を惹くのがコミカルなタッチで、ジョン・グッドマン演じる害虫退治業者の場面は、完全にコメディのスタイルで演出されています。他にも、「人間の夫婦」「クモの雄雌」の夜の営みを対比させた場面や、絶体絶命のピンチに陥ってもまだ他力本願な主人公ロスのキャラクター造型、ジェームズ・ボンドばりに物陰に隠れて火炎噴射をかわすクモの描写など、散発的に笑いを誘う場面もありますが、全体として、いわゆるホラー・コメディと呼べるほど分かり易いタッチでもないのが、この映画の不思議な所です。

 本編が住宅地を舞台にしている事を考えると、導入部のジャングルの場面などは、映画全体のバランスを崩しかねないほどスケールが大きいですが、前人未踏の大自然というのは、この後のマーシャル作品にも必ず登場してくるモティーフなので、振り返って見るとこの場面は短いけれど重要、という事になるのかもしれません。この不気味なジャングルの存在感があってこそ、郊外の住宅地で人々を襲いまくる獰猛なクモに説得力が与えられるという事でしょう。

 街の新参者である主人公が、患者第1号、第2号の謎の死によって、“ドクター・デス”などとあだ名を付けられ、孤立してゆくくだりは、やはりスピルバーグの監督作『ジョーズ』の主人公とイメージが重なります。美しい音楽をバックに平和な町の情景を紹介する所も、『ポルターガイスト』や『グレムリン』辺りを彷彿させる、アンブリン作品のトレードマーク的演出。

* スタッフ

 スタッフには、スピルバーグ作品の要とも言える編集のマイケル・カーンの他、プロダクション・デザイナーのジェームズ・ビッセルや、製作のリチャード・ヴェインとキャスリン・ケネディなど、過去の映画製作で培った人脈をフルに活用。脚本には、『エイリアン』『スペースバンパイア』などSF/ホラー作品が多いドン・ジャコビーと、『ケープ・フィアー』をはじめ異常心理を描いた映画にも多く関わるウェズリー・ストリックが起用されていますが、ダイアローグがよく練られていて、芝居の部分も面白く見られます。

 撮影監督のミカエル・サロモンも、スピルバーグの『オールウェイズ』を担当した人ですが、彼はとにかく危険を伴うプロジェクトに参加する事が多く、『アビス』の水中ライティングや『バックドラフト』の火災シーンは賞賛されました。ヴェネズエラで撮影された本作の空撮も、危険だらけの仕事だったと聞き及びます(自身の発言によれば、たまたまそういう仕事が続いただけだそうですが)。北欧デンマーク出身で、光を巧みに利用した描写力に注目。マーシャルは彼を「セットにおける自分の師匠」と呼び、絵面を決める時は彼を全面的に信頼していたとの事です。

 音楽のトレヴァー・ジョーンズは、『ダーク・クリスタル』や『エクスカリバー』などで80年代に少し人気が出た作曲家ですが、地味な作風のせいか最近とんと名前を見かけません。本作の音楽は、決して悪くないと思うのですが。

* キャスト

 キャスティングは雑多。主演のジェフ・ダニエルズはともかくとして、コメディ系のジョン・グッドマン、英国作品のイメージが強いジュリアン・サンズという、同じ作品に出演するのも珍しいようなタイプの異なる役者を、それもパニック・ホラーに起用するというアイデアはそれ自体奇抜に思えますが、意外に面白い組み合わせで楽しめました。ただ、クライマックスでは各人がやたらと忙しくなって、それぞれの個性を発揮しないまま終ってしまう憾みがあります。ジョン・グッドマンの害虫バスターなんて、もっと活躍して欲しかったと感じる人は多いのではないでしょうか。

 

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