アンブリンを去ったマーシャルが、妻キャスリン・ケネディと立ち上げた新プロダクションから発表した第1作は、アンデス山脈で起こった実話を基にした苛烈な作品。事故の生存者であり、作中イーサン・ホークが演じているナンド・パラドがアドヴァイザーとして監修に当たっているだけあって、事実を徹底してリアルに再現しようとしており、その意味においては観客に対して容赦をしない映画だと言えます。 その姿勢は、最初の飛行機墜落シーンで、すこぶるショッキングに示されています。実に恐ろしい場面です。機体が岩山に接触して真っ二つに引き裂かれ、切断部近くの乗客が、座席ごと次々に吹き飛ばされてゆく。胴体だけの姿になって雪の斜面を滑落してゆく機体。負傷した人々の描写。これらの場面に、マーシャル監督は音楽を一切付けません。そのせいか、シーン全体がおそろしくリアルで臨場感があり、まるで自分もこの飛行機に乗っていたかのような錯覚に陥ります。 その後の描写が又、苛烈です。ピストルで撃ってくれと生存者に懇願する瀕死の機長。次々と息絶えてゆく仲間たち。容赦なく襲い来る雪崩。雪の中から堀り出される新たな遺体。耐え難い空腹と乾き。そして、苦渋の選択。極寒の雪山と破損した機体以外何もない風景の中、こんな過酷で辛い状況が、映画の最後近くまで延々と続きます。ほとんど永遠に続くかと思われる時間ですが、これはな演出と思われます。 これが実話である事を私達観客は既に知っていますから、その陰鬱な時間に思いを馳せると、こんな絶望的な状況で二ヶ月以上も過ごし、奇跡的に生還した人々に、神々しい敬意の念を抱かずにはいられなくなるでしょう。それこそが、この演出の意図なのだと思います。それだけに、終盤があっさりと描写されすぎたきらいがあるのは残念。カニバリズム的な側面がクローズ・アップされがちな事故ですが、映画はその問題だけに拘泥せず、彼らの神を信じる力、そして人間の生きる意志の偉大さに光を当てているように感じました。 |