キャメロン自身が自らのフィルモグラフィに入れていない事を筆頭に、様々な逸話が伝えられる一応のデビュー作。原題から分かる通り、ジョー・ダンテ監督の『ピラニア』の続編で、製作も引き続き元・日活女優の筑波久子が手掛けていますが、軍が開発した生物兵器としてピラニアが登場する以外、ストーリーに関連性はありません。ただ、こちらはピラニアと飛び魚を融合させてパワーアップを計り、なんと空を飛んできます(でも飛び魚って、確かそんな飛び方はしないんですよね)。 スタッフは全員イタリア人で、キャストはアメリカ人。要するに米・伊合作ではあっても、事実上はアメリカ映画に見せかけた超低予算イタリア映画の体裁です。製作総指揮のアソニティーズは、オリバー・ヘルマン名義で大ダコのパニック映画『テンタクルズ』や『ディアボリカ』などの監督作もある悪名高いプロデューサーで、全てを自分でコントロールしたがる困った人だそうです。どうも、筑波久子は続編の権利だけ持っていたようで、イタリア資本で製作が開始されて、監督が居なかった所に、野心溢れるキャメロンが抜擢されたと。 意気揚々とロケ地のカリブ海、ケイマン諸島へ向かったキャメロンを待っていたのは、全く英語を話さないスタッフ達と、既に脚本が完成し、プリ・プロダクションが進んでいる現場でした。プロデューサーが後で編集し直す事も明らかだというので、キャメロンはアメリカに帰ろうとして引き止められたり、熱で寝込んだりしたそうですが、この意識朦朧状態で『ターミネーター』のアイデアが生まれたというから、運命とは不思議なものです。 それでも彼は、泳げないアソニティーズを尻目に、思う存分水中撮影を試したり、撮影済みフィルムに決して触らせようとしないアソニティーズを相手に、夜中に編集室に忍び込んで作業を敢行したり、あの手この手で苦闘を繰り広げたらしいのですが、結局は撮影開始二週間半でクビになってしまいました。 作品は、誰が見ても「これはちょっと…」というような低予算B級パニック映画で、ダンテの前作にあった遊び心などもあまりないですが、映画の出来とは別に、後のキャメロン作品に繋がる要素がほぼ出揃っている所は、少なくともファンにとっては重要でしょう。ダイビングや沈没船といった海洋趣味、モンスターの襲撃、開発兵器、息子を守って闘うシングル・マザーのヒロイン(彼女、何と海洋生物学者でダイビング教室のコーチという、キャメロン自身を地で行くようなキャラクターなのです)、廃船やヘリコプターの爆発シーンなどなど。 俳優では、『ターミネーター』『エイリアン2』にも出演している個性派俳優ランス・ヘンリクセンや、『アビス』の撮影直後に亡くなったキャプテン・キッド・ブリューワーJr.が出ているのが、今の目にはキャメロン色と映ります。ヘンリクセンは後にキャメロンの親しい友人となりますが、当時の事を思い返し「努力する価値もない映画だと誰もが思っている中で、あんなに真剣に仕事に取り組む人間を見た事がない。一日三時間眠ればいいという感じで、つまらない脚本から何かを作り出そうとしていた」と語っています。もっとも、ヘンリクセンもヘリコプターから海に飛び込むスタントを自らこなし、手を骨折しています。 |