ターミネーター 

The Terminator

1984年、アメリカ (107分)

 監督:ジェームズ・キャメロン

 製作総指揮:ジョン・デイリー、デレク・ギブソン

 製作ゲイル・アン・ハード

 脚本:ジェームズ・キャメロン、ゲイル・アン・ハード

 撮影監督 : アダム・グリーンバーグ

 美術監督:ジョージ・コステロ

 編集:マーク・ゴールドブラット

 音楽:ブラッド・フィーデル

 出演:アーノルド・シュワルツェネッガー  マイケル・ビーン

    リンダ・ハミルトン            ポール・ウィンフィールド

    ランス・ヘンリクセン           ビル・パクストン

* ストーリー *ネタバレ注意!

 1984年、ロスアンジェルス。夜のダウンタウンに、電光と強風を伴って全裸の男が続けて二人、忽然と現れる。最初の男は、電話帳の順にサラ・コナーという女性を片っ端から殺し始める。女子大生のサラ・コナーが、ナイトクラブで銃殺されそうになった瞬間、もう一人の男が彼女を救い出し、何とか逃げ切る。男はカイル・リースと名乗り、2029年の未来からやって来たと語る。襲って来た大男はターミネーターというアンドロイドで、サラを抹殺するために未来から送られたのだと。未来では機械と人間の最終戦争が繰り広げられ、人間のゲリラ軍を組織しているのが、サラの息子ジョンだったのだ。休む間もなく、ターミネーターはサラに執拗に襲いかかる。

* コメント  *ネタバレ注意!

 キャメロンの本格デビュー作で、シュワルツェネッガーの出世作でもある映画。続編がCG技術の進歩を広く印象づけた大作として話題を呼んだために忘れがちですが、本作は当初、あくまでもB級アクション映画と捉えられていたと記憶します。特に冒頭、人間と機械の未来戦争の場面のミニチュア撮影や、クライマックスのコマ撮りなど、特撮に関しては公開当時から既に安っぽさを指摘されてきたものです。

 それでも本作がある種の人達から支持され、キャメロン自身の出世と共に作品世界が拡大されてゆく結果となったのは、やはり映画の中のマニアックな“こだわり”に、自分達と同じマニアの匂いを感じる観客が少なからずいたからでしょう。それは、キャメロンがロジャー・コーマン門下生で、実際にそれらしいチープな技術を作品内に盛り込んでいるせいもありますし、本格的なガンやライフルの実物が画面に多数登場するという、兵器類へのこだわりもあったかもしれません。既に彼の後続作品を知っている私達には、キャメロンのその資質が本物であった事がよく分かりますね。

 さらに、技術の稚拙さ云々を越えて未来戦争の存在を納得させてしまうのは、よく練られた脚本ゆえと言えるのかもしれません。戦争の場面は劇中あちこちでインサートされますが、工事現場の掘削車などを何気なく見ていたマイケル・ビーンが、その連想から悪夢に入ったり、オープニング・タイトルの直後なども、未来の場面の続きと思って見ていて、キャタピラのアップからキャメラが引いてゆくとそれはフォークリフトで、実は現代のシーンだったという、イメージの連鎖が実に見事に演出されています。地面を埋め尽くす骸骨をキャタピラが蹂躙してゆくショットも、人間が機械に滅ぼされる未来の状況を端的に象徴していて、技術的なハンディを乗り越える説得力があります。

 もっとも、SF作品、特にタイムスリップ物に付き物の「卵が先かニワトリが先か」の問題は本作にも依然として存在し、サラの子供ジョン・コナーの存在を抹殺するために未来からターミネーターがやってきて、そのジョンが遣わした戦士リースが、結果的にジョンの父親となるというのは、果たして辻褄が合うのかどうか、深く考え出すと頭が混乱してくるので要注意です(私の頭が悪いだけかもしれませんが)。

 以前はキャメロン作品というと、ハードで冷たくて、ユーモアのセンスはほとんどない印象があったのですが、今改めて観直すと、あちこちにちょっとしたギャグのようなやりとリが入っているのに気付きます。例えば、ランス・ヘンリクセンら警察署内の会話や、ターミネーターにビビる一般市民の描写、サラの同居人の恋人のくだりなどなど。又、ターミネーター自体にもどことなくコミカルな存在感があって、悪態一つ付くのに幾つかの語彙の中から適切な語を選択するとか、サラの母親の声色を使うとか、何よりも、骨格だけになっても執拗にサラに襲いかかるしつこさは、それ自体ギャグでもあります。

 キャラクターの描き方も通り一遍ではないのが美点です。例えば、しがないウェイトレスのサラが店で奮闘していて、客とやりとりしている間に子供がエプロンのポケットにアイスクリームを入れてくるとか。このシーンは、何も言い返せないサラの情けない顔で終了しますが、こういうシーンを全部削って、一時間半のタイトな映画にする事も出来る訳です。こういった、カットしても作品の骨子には影響のない場面を随所に入れて、敢えて二時間近くの映画に仕上げる事で、本作は典型的なB級映画と一線を画す、豊かな内容を盛り込む結果となりました。

* スタッフ

 製作を務め、脚本も共同執筆しているゲイル・アン・ハードは、B級映画の世界では有名な逸材。スタンフォード大卒の才媛でありながら、映画の仕事がしたくてニュー・ワールド・ピクチャーズに入社したという変わり種で、『トレマーズ』や『アルマゲドン』など低予算、大作に関係なくホラーやパニック映画ばかり製作しています。キャメロンはニュー・ワールド時代の同僚で、5年の交際期間の後に結婚。『エイリアン2』を経て離婚後も、『アビス』をプロデュースしました。ターミネーター・シリーズは、キャメロンが関わらなくなった3作目以降も製作を受け持っています。

 製作総指揮のジョン・デイリーは、本作を製作したヘムデイルという会社の社長。キャメロンは、この社長が編集をやり直させようとした時、何と「そんな事をしたら殺すぞと脅してやった」との事。早くも実質的デビュー作から、製作会社やスタジオの重役に楯突いていたキャメロン、恐るべしです。このヘムデイルは後に経営が悪化し、倒産しました。続編は別の会社が製作しています(この会社、カロルコも後に倒産)。

 撮影監督のアダム・グリーンバーグはポーランド出身、イスラエルで活躍したキャメラマン。続編も担当し、キャメロンからいかに辛い仕打ちを受けたかをライターに語りましたが、『天使にラブソングを…』『ゴースト/ニューヨークの幻』まで手掛ける売れっ子になれたのは、本作があったからこそだと思います。車を運転するシュワルツェネッガーの足下にライトを置き、下から顔を照らして不気味に演出した効果は、キャメロンも賞賛しています。又、シルバーがかったブルーが印象的な夜の映像も、独自のスタイルとして確立しました。続編では、さらに美しい夜間撮影を行っています。

 ブラッド・フィーデルの音楽は、パワーアップした続編のテーマが有名になりましたが、ここでは80年代のB級作品に典型的なシンセ音楽で、かなり安っぽい印象です。元ダリル・ホール&オーツのキーボード奏者というポップス畑出身の人で、参加作はほとんどがホラーやアクション物。キャメロン作品では当シリーズの他に『トゥルーライズ』も手掛けましたが、作曲家としてあまり成功しませんでした。

 本作は、低予算映画によくあるようにプロダクション・デザイナーが存在せず、美術監督がそれに準ずる仕事をしているものと思われます。編集のマーク・ゴールドブラットは、キャメロンと同じくコーマン門下生のジョー・ダンテ作品を多く手掛けている人で、キャメロン作品では当シリーズと『トゥルーライズ』に参加している他、『アルマゲドン』などアクション系の映画が得意。

 ターミネーターのエフェクトを手掛けたスタン・ウィンストンは、この後もキャメロンやスピルバーグの作品で素晴らしい特殊効果を展開して一躍トップ・アーティストとなりましたが、惜しくも他界しました。タンクローリー爆発場面のミニチュアを担当しているロバート&デニス・スコタック兄弟は、ニュー・ワールド時代からのキャメロンの知り合い。ミニチュア撮影を得意とする4ワード・プロダクションという特撮工房を経営していて、後のキャメロン作品にも参加し続けています。

* キャスト

 主演のリンダ・ハミルトンは、とにかく容姿の点で本作のファンから注文が付く事の多い人ですが、平凡な女性が自らの使命に目覚めて強くなっていく過程を、実に見事に表現していると思います。キャメロンが特撮顧問を担当した『ニューヨーク1997』の助監督で、後に『ミリィ/少年は空を飛んだ』などを監督するニック・キャッスルが、キャメロンにリンダ・ハミルトンを紹介したそうです。女優さんとしては、その後あまり大成していないのが残念。

 ターミネーターが最初に襲いかかる三人組のチンピラの内、パンク・ヘアの男を無名時代のビル・パクストンが演じています。彼だと知った上で観ても相当注意しないと気付かないくらいですが、その後、多くのキャメロン作品で重要なパートを担ってゆく人になるのですから分からないものですね。彼もニュー・ワールド時代のキャメロンの友人で、当時からキャメロンは本作の構想をよく話していたそうです。又、キャメロンの親友で、脚本にもノン・クレジットで参加しているというウィリアム・ウィッシャーが、警官の一人で出演しています。

 

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