キャメロン初のコメディ映画。とは言っても、スリリングなチェイスや、観客の度肝を抜くシチュエーションのアクションが満載なので、コメディ・タッチのアクション映画といった方が本当かもしれません。キャメロン作品唯一のリメイクもので、オリジナルは91年のフランス映画『La Totale!』。キャメロンにこの映画のリメイクを持ちかけたのはシュワルツェネッガーですが、キャメロンは随所に派手なアクションを盛り込み、オリジナルとは全く違う映画に仕上がっているとの事。 アクション・コメディはヒットしないので業界では嫌われるそうで、キャメロンもスタジオの重役に企画を説明した時、「『ラスト・アクション・ヒーロー』ってタイトルを聞いて、何か特に思うことはないかね?」と訊かれたといいます。しかしこの映画は、内容に関する政治的論争が少々の興行不振を招いたとはいえ、一応ヒット作となりました。 本作は、キャメロンが立ち上げた製作会社ライトストーム・エンターティメントの第1回作品で、同じ頃にスタン・ウィンストンらと設立した特撮工房、デジタル・ドメイン社の初仕事にもなりました。ちなみに「ライトストーム」という社名は、ターミネーターが未来からやってくる時に伴う強風と電光から採られたとの事です。 私はこの映画、スパイ映画風の軽快な前半部は好きです。アクション場面はやや大掛かりですが、ストーリー展開は気が利いているし、コメディ描写も愉快。特に、物語が妻の浮気調査にフォーカスされてくる辺りからは、ドラマとしても楽しい仕上がりになっていて、過去のキャメロン作品にはなかった明るい雰囲気が心地よいものです。問題は後半で、殺人の場面が頻出する事と、核爆発の描写がある事で、笑えない映画になってしまったのは残念。二時間半近い上映時間も、コメディとしては少々長すぎます。 『アビス』でも核の脅威は描かれましたが、本作はもうはっきりと、米国の諜報部員とテロリストが闘う映画なので、観る人によって大きく好みを分つ事が予想されます。このテロリストが又、露骨に中東の組織をイメージしている上、核弾頭を四つも登場させ、その内一つを爆発させてしまうのですから、これはコメディが扱える素材の範囲を超えていると言っても大袈裟ではないと思います。少なくとも、誰もが理屈抜きに楽しめる映画とは言えないでしょう。 アクション演出自体は見栄えのするもので、馬とバイクのチェイス、フロリダの海に掛かる橋での大掛かりなカー・チェイス、高層ビルでのハリヤーのアクションなど、一体どうやって撮影したのかという迫力のある場面が次々に展開します。もっとも、撮影には危険が伴い、フィルム逆回しのトリックこそ使われているものの、ジェイミー・リー・カーティスは実際にヘリコプターの足にぶら下がっているし、シュワルツェネッガーが馬でビルの屋上に出る場面も、興奮した馬が屋上から一歩踏み出しかけたという恐ろしいエピソードが残っています。 本作で最もキャメロンらしいと感じたのは、ハリーの妻ヘレンの描き方。冴えない平凡な主婦が、ストリップや格闘など眠れる才能を発揮してどんどん強くなっている様を、ジェイミー・リー・カーティスの素晴らしい演技が活写しています。ストリップの場面などは女性蔑視と評されたりもしましたが、『ターミネーター』のサラと同様、平凡に見える人間の中にも様々な才能や力が隠れていて、本人がそれを発見する事で強くなれるというテーマは、多くのキャメロン作品に共通する要素だと言えるでしょう。 |