トゥルーライズ 

True Lies

1994年、アメリカ (141分)

 監督:ジェームズ・キャメロン

 製作総指揮レイ・サンキーニ、ロバート・シュライバー、ローレンス・カザノフ

 製作:ジェームズ・キャメロン、ステファニー・オースティン

 脚本:ジェームズ・キャメロン

 撮影監督 : ラッセル・カーペンター

 プロダクション・デザイナー:ピーター・ラモント

 編集:マーク・ゴールドブラット, A.C.E.、コンラッド・バフ、リチャード・A・ハリス

 音楽:ブラッド・フィーデル

 出演:アーノルド・シュワルツェネッガー  トム・アーノルド

    ジェイミー・リー・カーティス      ビル・パクストン

    ティア・カレル              エリザ・ドゥシュク

    チャールトン・ヘストン         アート・マリック

* ストーリー 

 スイス、ジュネーヴ。大邸宅で催されている夜のパーティーに忍び込む一人の男。コンピュータからファイルを盗みだした彼は、追われる身になる。何とか逃げ切った彼、ハリー・タスカーは後日ワシントンにいた。政府秘密機関の職員である彼には妻も娘もいるが、素性を偽って生活を続けている。盗まれた核弾頭とテロリストの手がかりを求め、美女ジュノーに接近した彼は、テロ組織のリーダー、サリムに正体を疑われる。ある日、妻ヘレンの職場に顔を出すと、彼女は男と待ち合わせに出かける所だった。嫉妬に狂ったハリーは、組織を無断で私的利用して妻の浮気調査に乗り出す。しかし彼には、サリムの魔の手が迫っていた。

* コメント  

 キャメロン初のコメディ映画。とは言っても、スリリングなチェイスや、観客の度肝を抜くシチュエーションのアクションが満載なので、コメディ・タッチのアクション映画といった方が本当かもしれません。キャメロン作品唯一のリメイクもので、オリジナルは91年のフランス映画『La Totale!』。キャメロンにこの映画のリメイクを持ちかけたのはシュワルツェネッガーですが、キャメロンは随所に派手なアクションを盛り込み、オリジナルとは全く違う映画に仕上がっているとの事。

 アクション・コメディはヒットしないので業界では嫌われるそうで、キャメロンもスタジオの重役に企画を説明した時、「『ラスト・アクション・ヒーロー』ってタイトルを聞いて、何か特に思うことはないかね?」と訊かれたといいます。しかしこの映画は、内容に関する政治的論争が少々の興行不振を招いたとはいえ、一応ヒット作となりました。

 本作は、キャメロンが立ち上げた製作会社ライトストーム・エンターティメントの第1回作品で、同じ頃にスタン・ウィンストンらと設立した特撮工房、デジタル・ドメイン社の初仕事にもなりました。ちなみに「ライトストーム」という社名は、ターミネーターが未来からやってくる時に伴う強風と電光から採られたとの事です。

 私はこの映画、スパイ映画風の軽快な前半部は好きです。アクション場面はやや大掛かりですが、ストーリー展開は気が利いているし、コメディ描写も愉快。特に、物語が妻の浮気調査にフォーカスされてくる辺りからは、ドラマとしても楽しい仕上がりになっていて、過去のキャメロン作品にはなかった明るい雰囲気が心地よいものです。問題は後半で、殺人の場面が頻出する事と、核爆発の描写がある事で、笑えない映画になってしまったのは残念。二時間半近い上映時間も、コメディとしては少々長すぎます。

 『アビス』でも核の脅威は描かれましたが、本作はもうはっきりと、米国の諜報部員とテロリストが闘う映画なので、観る人によって大きく好みを分つ事が予想されます。このテロリストが又、露骨に中東の組織をイメージしている上、核弾頭を四つも登場させ、その内一つを爆発させてしまうのですから、これはコメディが扱える素材の範囲を超えていると言っても大袈裟ではないと思います。少なくとも、誰もが理屈抜きに楽しめる映画とは言えないでしょう。

 アクション演出自体は見栄えのするもので、馬とバイクのチェイス、フロリダの海に掛かる橋での大掛かりなカー・チェイス、高層ビルでのハリヤーのアクションなど、一体どうやって撮影したのかという迫力のある場面が次々に展開します。もっとも、撮影には危険が伴い、フィルム逆回しのトリックこそ使われているものの、ジェイミー・リー・カーティスは実際にヘリコプターの足にぶら下がっているし、シュワルツェネッガーが馬でビルの屋上に出る場面も、興奮した馬が屋上から一歩踏み出しかけたという恐ろしいエピソードが残っています。

 本作で最もキャメロンらしいと感じたのは、ハリーの妻ヘレンの描き方。冴えない平凡な主婦が、ストリップや格闘など眠れる才能を発揮してどんどん強くなっている様を、ジェイミー・リー・カーティスの素晴らしい演技が活写しています。ストリップの場面などは女性蔑視と評されたりもしましたが、『ターミネーター』のサラと同様、平凡に見える人間の中にも様々な才能や力が隠れていて、本人がそれを発見する事で強くなれるというテーマは、多くのキャメロン作品に共通する要素だと言えるでしょう。

* スタッフ

 製作総指揮のレイ・サンキーニは、UCLA法学部を卒業してカロルコに入社し、社内で最も優秀なスタッフだというのでキャメロンに引き抜かれた才媛。経歴からして、どこかゲイル・アン・ハードを彷彿させる雰囲気があります。当初はデジタル・ドメイン社の設立に関わり、資金体勢固めに活躍した人で、30代前半にしてライトストームの社長に就任。『タイタニック』の製作総指揮も担当しています。

 キャメロンと共に製作を担当しているステファニー・オースティンも、『T2』で共同製作に名を連ねていた女性プロデューサー。ユニット・プロダクション・マネージャーや助監督には、スピルバーグのプロダクションで活躍しているパトリシア・ホイッチャーや、ロン・ハワード作品で助監督やプロデューサーを務めるアルドリック・ラウリ・ポーターの名前も見られます。

 撮影監督のラッセル・カーペンターはオーストラリア出身で、本作の前に初めてのアメリカ映画『ハード・ターゲット』(ジョン・ウー監督)を撮り終えた所でした。B級作品が多い人ですが、本作の後『T2 3-D』に参加し、『タイタニック』ではオスカーの栄誉に輝きました。もっとも、その後あまり華々しい活躍を見ないのが気になる所。

 プロダクション・デザイナーのピーター・ラモントは、『エイリアン2』に続いて二作目のキャメロン作品。この後、『タイタニック』にも参加しています。編集は『T2』のトリオ。その一人コンラッド・バフは、ILM出身で『アビス』から『タイタニック』までの全てのキャメロン作品に参加しています。デジタル・ドメイン社のVFXを監修しているのは、既にキャメロン作品の視覚効果部門にはなくてはならぬ存在となったジョン・ブルーノ。

 音楽のブラッド・フィーデルは、ターミネーター・シリーズで名を上げた人ですが、本作はシンセサイザーではなく、ダイナミックなオーケストラ音楽で盛り上げています。エキゾチックなリズムも取り入れてそれなりにユニークではありますが、見終わった後まで印象に残るメロディなども欲しい所。キャメロンは、そういったメロディに以前から強いこだわりがあったそうで、次作『タイタニック』でやっとそれを実現しました。

* キャスト

 シュワルツェネッガーは、企画をキャメロンに持ちかけた張本人だけあって、生き生きと表情豊かに主演。本作は、『ターミネーター』シリーズ以外に唯一出演しているキャメロン作品でもあります。妻のヘレンを演じたジェイミー・リー・カーティスは、『ハロウィン』などジョン・カーペンター作品を始め、ホラー・ファンの間では知らぬ者のない女優さん。本作でも、“スクリーミング(絶叫)・クイーン”の名に恥じぬ見事な叫び声を披露している上、冴えない主婦からパワフルな身のこなしまで素晴らしい変貌ぶりです。何せ、ジャネット・リーとトニー・カーティスを両親に持つサラブレッドですからね。

 ハリーの相棒ギブを演じたトム・アーノルドは、アメリカではお笑い番組で有名なスター。彼とハリーの軽妙なやりとりは、重い主題も扱うこの作品に独特の柔らかなタッチを与えていて、彼が画面に出てくると、私などはほっとするくらいです。彼の演技があまりに見事だったため、今後は映画俳優に転向するだろうと言った評論家もいたそうです。

 自分をスパイだと偽り、ヘレンを口説き落とす女好きの中古車ディーラーを演じたのは、キャメロンの旧友ビル・パクストン。脅される度に失禁するという、『ターミネーター』『エイリアン2』に続いて又もや情けない役での登場です。往年の名優チャールトン・ヘストンも出演。最近では、全米ライフル協会の会長として、マイケル・ムーア監督の『ボウリング・フォー・コロンバイン』で槍玉にあげられていたのが記憶に新しい所でしょう。

 

Home  Back