製作総指揮のレイ・サンキーニは『トゥルーライズ』から続投。別記した通り、ライトストーム社の社長です。製作のジョン・ランドーは、元々20世紀フォックスの製作担当副部長だった人で、キャメロンとの出会いは『トゥルーライズ』。フリーのプロデューサーに転向後、ライトストーム社の一員として本作や『アバター』を製作しています。 当初雇われた撮影監督は、『ライトスタッフ』『ナチュラル』のベテラン、キャレブ・デシャネルでした。しかし、カナダ、ハリファックス沖でのロケで早くも意見が対立。デシャネルはタイタニックの時代を、色を抑えた従来のカラーパレットで撮影しようとしていました。一方キャメロンは、その時代がいつも地味な色で表現されるのは、単に当時の写真がみんなセピア色だからにすぎない事から、その時代の上流階級に溢れかえっていた、目の覚めるように鮮やかな色彩で描きたいと思っていました。 根本的なコンセプトの違いですし、事前に分からなかったのかとも思いますが、結局デシャネルは現代の場面のみを撮影して降板、『トゥルーライズ』のラッセル・カーペンターが撮影監督に付き、オスカーを受賞しました。この件に関するキャメロンのコメントは、いかにも彼らしいものです「彼は『キャレブ、君の魔法で私達をびっくりさせてくれ』なんて言ってくれる連中と仕事をするのに慣れているらしい。残念ながら、私は誰かの魔法でびっくりしたいなんて思ってない」。彼の現場では、全てが事前に細かく決められていて、アドリブ的な要素が入る余地がほとんどないそうです。 本作の製作裏話は数多く紹介されていますが、監督の激しい言動にまつわる話は枚挙に暇がありません。例えば、船上で数百人のエキストラを走らせていた時、カットの声と共にキャメロンが「そこのお前! それから、そこの二人! お前ら何してた! アクションをしなかったぞ!」と激しい剣幕で叱り飛ばしたとか。しかし、この映画ではたった一つのシーンの撮影にも、驚くほど多くの複雑な作業が同時進行していて、生死に関わる事態でない限り、撮影を中断させる勇気のある人などいなかったといいます。 本作の製作過程については、ポーラ・パリージ著の『タイタニック ジェームズ・キャメロンの世界』が詳細に取材しているのと、小峯隆生著の『豪快!映画学』の中に撮影現場潜入記があり、スタントマン達が本気で水の恐怖に逃げ惑う、凄まじい様子が生々しくレポートされていて一読の価値あり。沈没シーンの撮影は、もはや映画のための再現という域を超えていたそうです(巨大な船を本当に沈める訳ですからね)。 『エイリアン2』『トゥルーライズ』に続いて参加したプロダクション・デザイナー、ピーター・ラモントは、キャメロンとの初めての会議で「この映画に関しては一切妥協はしない」と言い放ったそうです。灰皿から船体に至るまで詳細な図面が九百枚も描かれ、タイタニック号の建造を請け負ったハーランド・ウルフ社からオリジナルの設計図まで借り受けました。彼は「デザイナーにとって、一度はやってみたい夢のような仕事」と言っていますが、そりゃそうでしょうね。メキシコの海岸に造られた巨大な船は、その規模からいって、到底映画のセットと呼べるようなものではありませんでした。 編集は、『T2』『トゥルーライズ』に引き続いてコンラッド・バフとリチャード・A・ハリス、そしてキャメロン自身が担当。彼は自分で直接編集したいがために、わざわざ編集者組合の一員となりました。彼らはそれぞれ別々のシークエンスを編集し、最終的にキャメロンが全編をまとめたそうです。 特殊効果では、『T2』『トゥルーライズ』に続いて、大規模な仕掛けが得意なトーマス・L・フィッシャーが沈没シーンに手腕を発揮している他、スコタック兄弟の4ワード・プロダクションがサウザンプトン港のミニチュア等を製作。どこまでが実写でどこまでがCGか全く分からない、ブルーバックやCG、ペインティングなどを複合的に組み合わせたVFXはキャメロンの真骨頂です。彼は、CGが美や感情表現のために使われたのはこれが初めてではないかと語っています。 音楽のジェームズ・ホーナーは、あまりの時間の足りなさにキャメロンと激しく対立した『エイリアン2』以来のコラボ。もうキャメロン作品には参加する気がなかったものの、題材に惹かれて連絡を取ってみると、実はキャメロンもホーナーの音楽を求めていました。再会して五分で過去を水に流し、作品について語り合ったという二人。叙情的で美しいメロディは、印象に残るテーマ曲が欲しいキャメロンの要求と一致するもので、ホーナーがピアノで曲を弾いてみせた時、キャメロンは涙を流したといいます(彼だけでなく、世界中が涙しました)。 セリーヌ・ディオンの主題歌も大ヒットとなりましたが、キャメロンは元々、映画のエンディングに主題歌を流す現代的なスタイルが嫌いでした。口頭の説明だと絶対に却下されると踏んだホーナーは、リスクの高い賭けに出ました。こっそり歌をレコーディングし、出来上がったものを監督に聞かせたのです。既に売れっ子だったセリーヌ・ディオンもこういう事は初めてしたそうですが、歌を聴いたキャメロンは「すごいな」と呟き、映画の世界観にもぴったりだというので無事に主題歌に決定しました。 |