ジェームズ・キャメロンのタイタニックの秘密 (ドキュメンタリー)

Ghosts Of The Abyss 

2003年、アメリカ (劇場公開版61分、DVDデラックス版92分)

 監督:ジェームズ・キャメロン

 製作:チャック・コミスキー、ギグ・バッカウスカス

    ジョナス・タッシュジアン、ジェームズ・キャメロン

 撮影監督 : ヴィンス・ペイス

 編集:エド・W・マーシュ、スヴェン・パペ、ジョン・レフーア

 音楽:ジョエル・マクリーニー

 出演:ジェームズ・キャメロン  ビル・パクスト

    ルイス・アバーナシー

* コメント

 大作『タイタニック』から4年、キャメロンは大西洋に沈むタイタニック号の姿をキャメラに収めるため、ドキュメンタリー映画に着手しました。自ら投資したハイヴィジョンの3D撮影機材“リアリティー・キャメラ・システム”を用い、弟マイクが設計に関わった潜水艇を始めとする最新機器で撮影に挑むキャメロン。『タイタニック』を始め、数々のキャメロン作品に出演してきた俳優ビル・パクストンが、微生物学者や画家、歴史家、研究家など、様々な分野の専門家と共に、深海への旅に挑戦します。

 国営放送などのドキュメンタリー番組と違って、様々な映像素材を盛り込んでいますし、CGなども合成したりして、実にエキサイティングなドキュメントに仕上げている所、さすがは映画監督キャメロンの作品だけあります。映画『タイタニック』にも本物の船の映像が入っていましたが、本作は様々な角度から捉えた外観や、内部の様子などもたっぷりと紹介。

 本作のユニークな特徴は、『タイタニック』の出演者でもある俳優ビル・パクストンの参加でしょうか。キャメロンの古い友人だけあっていかにも打ち解けた様子ですが、海の世界には全く素人の彼が、怖い怖いと言いながらも潜水艇に乗り込み、巨大なタイタニックの姿に次第に魅せられてゆく過程を見ていると、不思議とこちらも同じような気持ちになってきます。

 映画は、パクストンや他の参加者達による日記風ナレーションで進行し、彼らの様子とタイタニック号の映像を交互に提示。実際のタイタニック号の映像だけでは何だか分かりにくい箇所も、CGで航行当時の様子をうっすらと重ねる事で、在りし日の豪華客船の姿が蘇ってきて圧巻です。その映像を観ていると、タイタニックの悲劇が絵空事でなく、つい最近新聞に載ったばかりの事故と変わらぬリアリティを持って目前に立ち現れるような印象があります。

 船内では、帽子や食器、車や備品がまだ形をとどめていたり、誰かが水差しの横にコップを置いたのがそのまま残っていたりして、生活感が漂ってくる場所すら存在します。ナレーションにもありますが、一流の職人達の手仕事である飾り窓や家具の装飾など、本来3650メートルもの海底にあるべきでないものが永遠に沈んでいるというのは何とも哀切な光景で、見ているだけで胸を打たれます。

 一方、ケーブルが切れて船内に取り残されたROVキャメラの救出場面を、なぜか後半のクライマックスに配置。これはユーモラスなタッチで楽しいものですが、私が観たのはDVDデラックス版で、I-MAXシアターでの公開版より30分ほど長いヴァージョンなので、構成はかなり違うのでしょう。しかしこれは、3DのI-MAXで観たら相当な臨場感ではないかと思います。実際に自分が潜水艇に乗って、タイタニック号の残骸を見上げているような感じかもしれません。

 DVD特典にはメイキング映像も付いていますが、コミカルな演出が楽しく、本編に入れても良かったような。キャメロンの妻で女優のスージー・エイミスが、子供を抱いて夫を見送る場面もあります。唯一、撮影中に船上でニューヨーク同時多発テロのニュースを受ける箇所は、各自の反応や撮影中断の様子など、深く心に残ります。

* スタッフ/キャスト

 プロデューサーの一人は、ニュー・ワールド時代からのキャメロンの知り合いで、『T2 3-D』も製作したチャック・コミスキー。撮影監督のヴィンス・ペイスは、元々は水中キャメラマン、水中撮影機材エンジニアとして名を上げた人物です。『アビス』にも参加していますが、この後、3D撮影技術の専門家として活躍をはじめ、続くI-MAX作品『エイリアンズ・オブ・ザ.ディープ』や『アバター』でも、キャメロンのパートナーとして3D技術の開発に当たっています。

 編集チームの3人では、エド・W・マーシュが面白い人選。編集だけでなく、クリエイティヴ・プロデューサーという肩書きでもクレジットされている彼は、独立系の映画作家、ライターで、映画のメイキング取材でよく知られた人です。参考文献に挙げた『ジェームズ・キャメロンのタイタニック』も彼の著作。次作『エイリアンズ・オブ・ザ・ディープ』にも同じ肩書きで参加しています。もう一人のジョン・レフーアは、『アバター』にも参加しているエディター。

 出演者の一人、ロン毛に眼鏡、少々太っちょの陽気なルイス・アバーナシーは、キャメロンのダイビング仲間で、もう10年もタイタニックについて研究しているという作家。映画『タイタニック』を観た人なら、現代の場面で彼が俳優として堂々と出演していたのをご記憶かもしれません。ビル・パクストン演じるラヴェットの友人で、ローズに沈没の科学的メカニズムを解説していたのが彼です。

 

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