前作『ジェームズ・キャメロンのタイタニックの秘密』に続く、3DのI-MAXシアター作品第2弾。太陽の光も届かない、深度3000メートルの深海における生態系を紹介したドキュメンタリーです。私は常々、作品の完全度には大きな差があるものの、題材の選び方や嗜好性に関して、キャメロンとリュック・ベッソン監督との近似性を感じていましたが、ベッソンが海洋ドキュメンタリー『アトランティス』を監督したのと同様、キャメロンも又この分野に魅せられたようです。 本作のために、又もや北大西洋に様々な分野の専門家が集結。今回は宇宙生物学者(そんな学者がいた事にびっくりです)やNASAの惑星科学者まで参加。その理由は後で分かります。既にお馴染みのケルディッシュ号と潜水艇ミール二台に加え、今回はローバーという新しい潜水艇も二台追加。これもキャメロンの弟マイクによるもので、アクリルの球体が特徴的な外観。正に『アビス』に出て来た潜水艇を彷彿させる外観です。視界が320度と広いのが美点ですが、そのためにある程度の深さまでしか潜水できないとの事。 深海の生物はたくさん出て来ますが、名前や習性などデータはあまり紹介されず、未知の生物なども多いようです。驚くのは、三千メートル以上もの深海にも関わらず、ものすごく生物密度が高い事。特に400度に達するという高温の黒煙があちこち噴出しているような場所で、辺り一面生物だらけという映像にはびっくりさせられます。エビやカニの類いから、微生物、魚、タコ、イカ、クラゲなど、漆黒の闇が支配する深海にも多様な生態系が存在する訳です。 太陽光線が届かず、水圧も高く、水温のコントラストが激しいこの過酷な環境に、これだけ多くの生物が生息している事実は、学者達をも驚かせ、それが地球外生物の存在の可能性へと繋がってゆきます。特に木星の衛星エウロパについて何度も言及されますが、光合成を行なわない生物だとしても水中の酸素は必要な筈で、やはり酸素のない惑星で生命体が存在する事は難しいようです。しかし、キャメロンを始め参加者達の態度からは、研究成果を惑星探索に繋げたい雰囲気がありありと感じられ、あと数十年もすれば、惑星探索のドキュメンタリーを製作しかねない勢い。 映画は、『タイタニックの秘密』と同様、参加者達のナレーションによって進行し、船上の会話と潜水の様子が交互に紹介される構成です。本作も、DVDで発売されているものはI-MAXシアター版の二倍以上の長さがあるので、公開時はほとんど深海の様子だけだったのかもしれません(私は観ていないので)。前作同様、海底の映像に赤いマグマをCG合成してみたり、惑星の光景や、潜水艇がエイリアンに出会う場面をイメージ合成したりしているので、製作のスタンスとしては必ずしも常にドキュメンタリックではありません。 DVDのレビューを覗いてみると、深海生物紹介的な内容を期待したと思われる人達からの評判が非常に悪いようですが、それも当然かもしれません。マイケル・ムーア作品のような、社会的問題を分かりやすい切り口で世に問うドキュメンタリーでもないし、学術的な興味を満足させる硬派のドキュメンタリーでもないので、そういう意味では特殊な存在とも言えます。あくまでキャメロン流の、ドキュメンタリー風映像作品という感じでしょうか。 しかし、ベッソンの『アトランティス』が、純粋に海の世界の美しさを捉えながら、どこか単調で、一般的な観客を魅了するのに今ひとつの工夫が欲しい面もあったのと比べると、本作は未知の深海世界の驚異から、参加者達の議論、宇宙探索への技術応用の可能性、CGによるイメージ映像となかなか多彩な内容で、私は最後まで興味深く鑑賞しました。 監督はキャメロン一人ではなく、スティーヴン・クエイルと共同で当たっています。過去にTV作品などの撮影・監督作があるようですが、どういう人なのかは今の所よく分かりません。『タイタニックの秘密』に続いて、編集とクリエイティヴ・プロデューサーにエド・W・マーシュ、撮影にヴィンス・ペンスがクレジットされている他、『T2 3-D』『タイタニックの秘密』で製作に回ったチャック・コミスキーは、VFXのスーパーヴァイザーで参加。 |