アバター

Avatar

2009年、アメリカ (162分)

 監督:ジェームズ・キャメロン

 製作総指揮コリン・ウィルソン、レータ・カログリディス

 製作:ジェームズ・キャメロン、ジョン・ランドー

 脚本:ジェームズ・キャメロン

 撮影監督 : マウロ・フィオーレ

 プロダクション・デザイナー:リック・カーター、ロバート・ストロムバーグ

 編集:スティーヴン・リフキン、ジョン・レフーア、ジェームズ・キャメロン, A.C.E.

 音楽:ジェームズ・ホーナー

 出演:サム・ワーシントン      ゾーイ・サルダナ

    シガーニー・ウィーヴァー  スティーヴン・ラング

    ミシェル・ロドリゲス      ジョヴァンニ・リビシ

    CCHパウンダー       ジョエル・デヴィッド・ムーア

    ウェス・ステューディ     ラズ・アロンソ

* ストーリー 

 22世紀の地球。戦闘で下半身不随となり、車椅子で生活していた元海兵隊員のジェイクは、亡くなった双子の兄の代わりに、地球から5万光年も離れた惑星ポリフェマスの衛星パンドラでアバター計画に参加する。パンドラには多様な動植物が生息し、地球人に似たナヴィという民族が暮らしていた。この星で採れる鉱石が、地球の燃料危機の解決に繋がる重要な鍵である事から、資源開発会社RDAがアバター計画を進めていたのだ。

 アバターとは、ナヴィと人間のDNAを掛け合わせたハイブリッドの肉体で、人間の意識とリンクさせて操作できるようになっていた。ジェイクは、科学者グレースの下で兄の代わりにアバターの肉体を得る。自由に歩き回れる事に歓喜を抑え切れないジェイクだったが、ある日、森の探索中に皆とはぐれてしまい、獣に襲われた所をナヴィの族長の娘、ネイティリに救われる。彼女と出会い、恋に落ちた事で、ジェイクの運命は大きく変わり始めた。しかし、RDAはアバターによる交渉がうまく行かないと分かると、武力でナヴィを追い出す手段に打って出る。

* コメント    *ネタバレ注意!

 『タイタニック』以来12年振りのキャメロン監督作品とあって、鳴り物入りで公開されたSF大作。兼ねてより準備中と噂されていた作品ですが、まさか3Dとは、『タイタニック』の頃には想像だにしませんでした。後から思えば、ドキュメンタリーやアトラクション映像で3D上映を行ってきたのは、長編映画のための試行錯誤だったのかもしれません。本作は又、ロバート・ゼメキス監督が自作で大々的に使用しているパフォーマンス・キャプチャーの技術を取り入れていますが、これもキャメロンの新作に使用されるとは、予想もしていませんでした。

 技術革新の権化たるキャメロンの事ですから、映像作品としての完成度は非の打ち所のないものです。先駆者のゼメキスが『ポーラー・エクスプレス』『ベオウルフ』、本作と同時期公開の『クリスマス・キャロル』と、パフォーマンス・キャプチャーの精度をどんどん向上させてきており、キャメロンはその出来映えから確信を得て、俳優の顔の表情や目の動きまで読み取る事が出来る、最新のキャプチャー技術を取り入れました。外見こそCGキャラクターですが、演技はほぼ完全に俳優のものである訳です。

 本作は3Dと2D、二種類の上映形式で、上映回数からすると3Dの方がメインの様子。昔の3Dと違って目が疲れないという触れ込みでしたが、私はたまたま相性が悪かったのか、午前中に鑑賞してその日の夜までずっと頭がズキズキ痛みました。私は長編映画の3Dは初めてですが、博覧会やテーマパークなどの短い映像では何度も経験があります。公平を期すために書いておくと、同行した妻は私より三半規管の弱い人ですが、全然大丈夫でした。まあ、2時間40分も特殊な仕組みの映像を観れば何らかの症状が出てもおかしくないのでしょう。今後3D作品が普及してゆけば、様々な意見や反応も出てくる事と思います。あと、メガネが少し重いので、鼻の上辺りが痛くなるという問題もあります。

 映像自体はすさまじい迫真力を持つものです。実際に映画の中に入ってしまった感じ、というのは大袈裟ではありませんでした。衛星パンドラの情景は全てCGで描かれたもので、実写の場面はかなり少ない印象を受けますが、CGのパンドラ部分と実写の基地部分が交互に展開する脚本構成のおかげか、それほど気になりません。アバターの造型も、予告編で見た時はかなりグロテスクに思えましたが、映画ではすぐに慣れてしまいます。

 問題は物語で、設定や世界観はすごく面白いのに、基幹となるラヴ・ストーリーがあまりにも使い古された型に基づいていて、私は少々閉口しました。この傾向は『タイタニック』にも見られたもので、映像やコンセプトが特殊だからストーリーはオーソドックスにという意図もあるのでしょうが、ここまで古典的だともうキャメロンらしくないと感じます。半身不随の主人公が、アバターの肉体で自由に動き回るというのは、物理的にも観念的にも、多様な可能性を秘めたアイデアだと思うのですが、その辺りはクライマックスで少し生かされるだけで、後は二つの世界の往復に終始するのも残念。

 後半の展開は、こうなってしまえばもう戦争映画ですから、後は延々と殺し合いが続くのみです。クライマックスに至っては、もう主人公VS悪役の典型的なアクション映画で、映像的な新しさ、いわば虚飾を取り払ってみれば、驚くほど古色蒼然とした映画という印象です。大規模な戦闘が繰り広げられながら、結局は敵のリーダーとの一騎打ちになってしまうのはアクション映画ご都合主義の最たるもので、もうそろそろハリウッドも新しい流れを作っていいような気がします。それが出来るのは、キャメロンのような一部の人達しかいない訳ですから。

 エコロジカルなコンセプトは、どこか宮崎駿の世界に通底するもので、思想的には『風の谷のナウシカ』や『もののけ姫』と共通する部分があるし、映像は『天空の城ラピュタ』を連想させる箇所もあり、ジャングルの場面などはピーター・ジャクソンの『キング・コング』とも世界の近さを感じます。衛星パンドラのコンセプトから動植物のデザインに至るまで、全てを一から創造したキャメロンのイマジネーションは素直に凄いと思うのですが、反則技ギリギリのラストも含め、賛否両論が大きく割れる映画ではないかと思います。

* スタッフ

 スタッフのリストを眺めて気づくのは、過去のキャメロン作品とは顔ぶれが一新している事。12年も経つと、映画界の勢力分布図も変わっているのかもしれません。製作のジョン・ランドーとは『タイタニック』に続くタッグですが、製作総指揮では、スピルバーグ作品で手腕を発揮してきたコリン・ウィルソンの名前が目を惹きます。ちなみに当のスピルバーグは本作を、「『スター・ウォーズ』以来、最も刺激的で驚くべき映画」と絶賛しています。

 スピルバーグのチームで活躍してきた人では、他に撮影監督のマウロ・フィオーレも参加。近年のスピルバーグ作品を一手に引き受ける名手ヤヌス・カミンスキーの大学時代からの旧友で、カミンスキーが撮影した『シンドラーのリスト』『ロスト・ワールド』『アミスタッド』で照明主任やセカンド・ユニットの撮影監督をしていた人です。プロダクション・デザイナーのリック・カーターも、ゼメキスやスピルバーグの作品を数多く手掛けてきたデザイナーで、あらゆるタイプの映画をこなすマルチな才能は高く評価されてきました。

 キャメロンと共に7年がかりで最新3D技術“フュージョン・キャメラ・システム”を作り上げたのは、『タイタニックの秘密』『エイリアンズ・オブ・ザ・ディープ』で撮影監督を務めたヴィンス・ペイス。別項で述べた通り、元々は水中撮影の分野で活躍した人ですが、今や3D撮影技術のパイオニアとして、自社ペイス・テクノロジーズを率いて本作に関わっています。

 編集は『タイタニック』と同様、キャメロン自身が加わって総勢3名。うち一人のジョン・レフーアは、『タイタニックの秘密』に続く参加です。音楽のジェームズ・ホーナーは、『エイリアン2』『タイタニック』に続いて三度目のコラボ。今回は『タイタニック』と対照的にアクション・スコアがメインで、多彩なアイデアを盛り込んでいますが、ラストにレオナ・ルイスが歌うバラードの主題歌を持って来た所は、『タイタニック』に続くメガヒットを狙った感があります。

 視覚効果部門は、大々的にCG映像を駆使した映画とあって、ピーター・ジャクソン監督のWETAデジタル社をメインに、ルーカスのILM、『マトリックス』シリーズのBUF、動物の表現に定評のある英国のフレームストアCFC社、そして勿論ライトストームのCG部門、実写場面ではスタン・ウィンストン・スタジオ(現レガシー・エフェクツ)と、優秀なVFXスタジオを世界中から総動員した印象。まとめ役には、お馴染みジョン・ブルーノを始め、『タイタニック』のロブ・レガートや『アビス』のジョー・レッテリなど、キャメロン作品を支えてきた人々が名を連ねています。

* キャスト

 主演のサム・ワーシントンは、オーストラリア出身。本作に起用された時はほとんど無名でしたが、製作中に『ターミネーター4』で一躍ハリウッドの注目株になり、キャメロンとの因縁も感じさせます。ネイティリを表情豊かに演じたゾーイ・サルダナも、『ターミナル』『パイレーツ・オブ・カリビアン』など話題作に続々出演中の若手女優で、知名度にこだわらないキャスティングはキャメロンらしいですね。

 経済的利益の事しか頭にないRDAの責任者パーカーを演じるのはジョヴァンニ・リビシ。スピルバーグの『プライベート・ライアン』、トム・ティクヴァの『ヘヴン』、サム・ライミの『ギフト』など、どんな映画でも強い印象を残す才能豊かな俳優さんですが、本作ではあまりにもステレオタイプな役柄で、いまいち強いインパクトを示せなかったのは残念。

 ミシェル・ロドリゲスが演じるトルーディは、キャメロン作品を観てきたファンにとってはもう「待ってました!」というキャラクターですね。男社会の中にあっても常にクールで気負いがなく、力強い存在感で目を惹くトルーディは、正に『エイリアン2』のヴァスクェス上等兵、『アビス』のワン・ナイトに連なる女性キャラの系譜だと言えましょう。

 キャメロン・ファンとしては、『エイリアン2』以来23年ぶりのコラボとなるシガーニー・ウィーヴァーの出演が嬉しい所。彼女によれば、お互いずっと連絡は取り合っていて、昔からの関係性もほとんど変わっていないとの事。アバターとして活動する時に、外見が少々貧相な感じになるのが気になりますが(彼女のせいじゃないですが)、実写部分はさすがの貫禄。主人公との関係性が徐々に変化してゆく過程も、丹念に演じています。

 

《アカデミー賞》

◎受賞     撮影賞、美術賞、視覚効果賞

◎ノミネート  作品賞、監督賞、作曲賞、音響賞、音響編集賞、編集賞

 

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