『タイタニック』以来12年振りのキャメロン監督作品とあって、鳴り物入りで公開されたSF大作。兼ねてより準備中と噂されていた作品ですが、まさか3Dとは、『タイタニック』の頃には想像だにしませんでした。後から思えば、ドキュメンタリーやアトラクション映像で3D上映を行ってきたのは、長編映画のための試行錯誤だったのかもしれません。本作は又、ロバート・ゼメキス監督が自作で大々的に使用しているパフォーマンス・キャプチャーの技術を取り入れていますが、これもキャメロンの新作に使用されるとは、予想もしていませんでした。 技術革新の権化たるキャメロンの事ですから、映像作品としての完成度は非の打ち所のないものです。先駆者のゼメキスが『ポーラー・エクスプレス』『ベオウルフ』、本作と同時期公開の『クリスマス・キャロル』と、パフォーマンス・キャプチャーの精度をどんどん向上させてきており、キャメロンはその出来映えから確信を得て、俳優の顔の表情や目の動きまで読み取る事が出来る、最新のキャプチャー技術を取り入れました。外見こそCGキャラクターですが、演技はほぼ完全に俳優のものである訳です。 本作は3Dと2D、二種類の上映形式で、上映回数からすると3Dの方がメインの様子。昔の3Dと違って目が疲れないという触れ込みでしたが、私はたまたま相性が悪かったのか、午前中に鑑賞してその日の夜までずっと頭がズキズキ痛みました。私は長編映画の3Dは初めてですが、博覧会やテーマパークなどの短い映像では何度も経験があります。公平を期すために書いておくと、同行した妻は私より三半規管の弱い人ですが、全然大丈夫でした。まあ、2時間40分も特殊な仕組みの映像を観れば何らかの症状が出てもおかしくないのでしょう。今後3D作品が普及してゆけば、様々な意見や反応も出てくる事と思います。あと、メガネが少し重いので、鼻の上辺りが痛くなるという問題もあります。 映像自体はすさまじい迫真力を持つものです。実際に映画の中に入ってしまった感じ、というのは大袈裟ではありませんでした。衛星パンドラの情景は全てCGで描かれたもので、実写の場面はかなり少ない印象を受けますが、CGのパンドラ部分と実写の基地部分が交互に展開する脚本構成のおかげか、それほど気になりません。アバターの造型も、予告編で見た時はかなりグロテスクに思えましたが、映画ではすぐに慣れてしまいます。 問題は物語で、設定や世界観はすごく面白いのに、基幹となるラヴ・ストーリーがあまりにも使い古された型に基づいていて、私は少々閉口しました。この傾向は『タイタニック』にも見られたもので、映像やコンセプトが特殊だからストーリーはオーソドックスにという意図もあるのでしょうが、ここまで古典的だともうキャメロンらしくないと感じます。半身不随の主人公が、アバターの肉体で自由に動き回るというのは、物理的にも観念的にも、多様な可能性を秘めたアイデアだと思うのですが、その辺りはクライマックスで少し生かされるだけで、後は二つの世界の往復に終始するのも残念。 後半の展開は、こうなってしまえばもう戦争映画ですから、後は延々と殺し合いが続くのみです。クライマックスに至っては、もう主人公VS悪役の典型的なアクション映画で、映像的な新しさ、いわば虚飾を取り払ってみれば、驚くほど古色蒼然とした映画という印象です。大規模な戦闘が繰り広げられながら、結局は敵のリーダーとの一騎打ちになってしまうのはアクション映画ご都合主義の最たるもので、もうそろそろハリウッドも新しい流れを作っていいような気がします。それが出来るのは、キャメロンのような一部の人達しかいない訳ですから。 エコロジカルなコンセプトは、どこか宮崎駿の世界に通底するもので、思想的には『風の谷のナウシカ』や『もののけ姫』と共通する部分があるし、映像は『天空の城ラピュタ』を連想させる箇所もあり、ジャングルの場面などはピーター・ジャクソンの『キング・コング』とも世界の近さを感じます。衛星パンドラのコンセプトから動植物のデザインに至るまで、全てを一から創造したキャメロンのイマジネーションは素直に凄いと思うのですが、反則技ギリギリのラストも含め、賛否両論が大きく割れる映画ではないかと思います。 |