ジェームズ・キャメロンの映画を支えるスタッフ達

 複数のキャメロン作品に参加している人々を追ってみましょう。

《プロデューサー》

◎ゲイル・アン・ハード

 『ターミネーター』『エイリアン2』『アビス』『ターミネーター2』

 B級映画の世界では有名な逸材。スタンフォード大卒の才媛でありながら、映画の仕事がしたくてロジャー・コーマンのニュー・ワールド・ピクチャーズに入社したという変わり種で、『トレマーズ』や『アルマゲドン』など低予算、大作に関係なくホラーやパニック映画ばかり製作しています。キャメロンとはニュー・ワールド時代の同僚で、5年の交際期間を経て『エイリアン2』の撮影開始直前に結婚、映画完成後に早くも離婚しますが、その後も『アビス』をプロデュースしました。ターミネーター・シリーズは、キャメロンが関わらなくなった三作目以降も製作を受け持っています。ちなみに、ブライアン・デ・パルマ監督も彼女の元夫。

◎ステファニー・オースティン

 『ターミネーター2』『トゥルー・ライズ』

 共同製作者として参加した『ターミネーター2』での逸話。キャメロンが夜中に特殊効果アーティストのスタン・ウィンストンらを叩き起こし、朝5時のフリーウェイ閉鎖解除までに、4本の腕を持つT1000の撮影を急遽行った時の事。オースティンは、ウィンストンが作った素晴らしい弾痕の到着が間に合わないかもしれないと考え、ケータリングのトラックからアルミホイルと油性ペンを取り出し、ハイウェイの隅っこで即席の弾痕を手作りしたそうです。

 ウィンストン作製の弾痕は結局間に合いましたが、キャメロンはオースティンの機転に感心して面白がり、彼女が作った弾痕も幾つかこの場面で使用した他、彼女のプロデューサーとしての闘志を讃え、T1000が着る制服の名札に「オースティン」と記しました。続く『トゥルー・ライズ』でも製作を担当。

◎レイ・サンキーニ

 『トゥルーライズ』『タイタニック』

 UCLA法学部を卒業してカロルコに入社し、社内で最も優秀なスタッフだというのでキャメロンに引き抜かれた才媛。経歴からして、どこかゲイル・アン・ハードを彷彿させる雰囲気があります。出会いは偶然で、カンヌ映画祭に参加したキャメロンを、カロルコのチャーター便で『ターミネーター2』の撮影候補地ノースカロライナまで送り届ける任務を負ったのが彼女でした。しかしキャメロンは彼女に、ノースカロライナでは撮影しない旨を告げます。『アビス』の撮影で懲りていたからですが、サンキーニは「つまり礼儀として同行してくれただけ。こんな意味のない旅なのに、搭乗ゲートから搭乗ゲートへと私のバッグを運んでくれた」と述べています。

 さらに、オルリー空港発の飛行機が遅延し、その後の乗り継ぎが全て不可能となります。ところが、彼女がSF小説の大ファンで、父親が宇宙計画ビジネスの仕事をしていた事でキャメロンと意気投合。「この旅は大失敗だったわ。明日にはクビになるかも」というサンキーニに、キャメロンは「そうなったら僕が雇ってあげるよ」と約束します。彼女は結局クビにはなりませんでしたが、2年後、本当にキャメロンに雇われる事になりました。

 当初はデジタル・ドメイン社の設立に関わり、資金調達に活躍。その後、30代前半にしてライトストームの社長に就任します。何しろ彼女の信条は「一生懸命働く以外にハードルを越える事はできない」というから、いかにもキャメロン好みの人材ですね。

◎ジョン・ランドー

 『タイタニック』『アバター』

 元々20世紀フォックスの製作担当副部長だった人で、5年半の就任時代に『ホームアローン』や『スピード』など数々のヒット作を指揮。『エイリアン3』でデヴィッド・フィンチャー監督と毎晩喧嘩したというのもこの人です。キャメロンとは『トゥルーライズ』で出会い、フリーのプロデューサーに転向後、ライトストーム社の一員として『タイタニック』『アバター』と映画史に残る大作を製作。

◎チャック・コミスキー

 『T2 3-D』『ジェームズ・キャメロンのタイタニックの秘密』『エイリアンズ・オブ・ザ・ディープ』

 ニュー・ワールド時代からのキャメロンの友人。『宇宙の七人』のためにキャメロンを雇った特殊効果畑の人で、いわば映画の仕事を初めてキャメロンに与えた人物といえます。『T2 3-D』では製作と特殊効果の管理を担当。『タイタニックの秘密』でも製作を受け持っている他、『エイリアンズ・オブ・ディープ』ではVFXのスーパーヴァイザーで参加。

《脚本》

◎ウィリアム・ウィッシャー

 『ターミネーター2』

 キャメロンの学生時代からの友人で、『ターミネーター』や『アビス』にちょっとした役で出演もしています。『T2』では、ショッピングモールのシーンで、ウィンドウから飛び出して来たターミネーターにシャッターを切りまくるカメラマンの役。原田眞人監督によると、キャメロンとウィッシャー、ランディ・フレークスの3人は、ノン・クレジットながら、ずっとチームでシナリオを書いているそうです。ウィッシャーはダイアローグのセンスが良く、フレークスはストーリー・テリングの才があるとの事。本作でやっとクレジットを貰ったウィッシャーは、やはり注目されてオファーが殺到し、キャメロン作品からは外れてしまったそう。もっとも、フレークスも本作のノベライズを出版しているので、一切名前を出さない訳ではないようです。

《撮影監督》

◎アダム・グリーンバーグ

 『ターミネーター』『ターミネーター2』

 ポーランド出身、イスラエルで活躍したキャメラマン。キャメロンからいかに辛い仕打ちを受けたかをライターに訴えた事もありますが、『天使にラブソングを…』『ゴースト/ニューヨークの幻』まで手掛ける売れっ子になれたのは、『ターミネーター』があったからこそだと思います。シルバーがかったブルーが印象的な夜の映像も、独自のスタイルとして確立しました。

    

◎ラッセル・カーペンター

 『トゥルーライズ』『T2 3-D』『タイタニック』

 オーストラリア出身、初めてのアメリカ映画『ハード・ターゲット』(ジョン・ウー監督)を撮り終えた所で『トゥルーライズ』に抜擢されました。B級作品が多い人ですが、その後『T2 3-D』にも参加し、『タイタニック』ではオスカーの栄誉に輝きました。その後あまり華々しい活躍を見ないのが気になる所。

 

◎ヴィンス・ペイス

 『アビス』『タイタニックの秘密』『エイリアンズ・オブ・ザ・ディープ』『アバター』

 元々は水中キャメラマン、水中撮影機材のエンジニアとして名を上げた人物。3D撮影技術の専門家としても活躍をはじめ、I-MAX作品等でキャメロンのパートナーとして3D技術の開発に当たっています。『アバター』ではこの分野のパイオニアとして、自社ペイス・テクノロジーズを率い、キャメロンと共に7年がかりで最新3D技術“フュージョン・キャメラ・システム”を作り上げました。『アビス』の海中照明システムの開発でアカデミー章を受賞。

《プロダクション・デザイナー》

◎ピーター・ラモント

 『エイリアン2』『トゥルーライズ』『タイタニック』

 007シリーズの数々や『屋根の上のバイオリン弾き』など数々の名作を手掛けてきたベテラン。規模の大きな作品によく関わっている人です。キャメロンとの初仕事『エイリアン2』で三度目のアカデミー賞ノミネート。『タイタニック』では本物のタイタニック号を建造した会社からオリジナルの設計図を借りるなど、妥協を許さぬリアリズムで美術部門の底力を見せつけ、見事オスカーに輝きました。

 

《音楽》

◎ブラッド・フィーデル

 『ターミネーター』『ターミネーター2』『T2 3-D』『トゥルーライズ』

 元ダリル・ホール&オーツのキーボード奏者というポップス畑出身の人で、参加作はほとんどがホラーやアクション物。シンセサイザーや金属音をサンプリングしたサウンドがトレードマークですが、『T2』の金属音は、何とフライパンを叩いた音をサンプリングしたものだそうです。ただ、私にはこの人、大した作曲家とは思えないのですが。

◎ジェームズ・ホーナー

 『エイリアン2』『タイタニック』『アバター』

 ジョン・ウィリアムズやジェリー・ゴールドスミスの後継者的な立場で、『アビス』のアラン・シルヴェストリと並んで超の付く売れっ子となった作曲家。意外にも『タイタニック』で初オスカーでした。本人も語る通り、『エイリアン2』ではあまりの時間の足りなさにキャメロンと激しく対立しましたが、『タイタニック』の素晴らしい音楽では世界中の映画ファンを魅了。主題歌も手掛けてヒットさせる手腕は、次世代の作曲家らしい所でしょうか。ゴールドスミス達と比べると実験性や芸術性は大きく後退し、ネアカな安っぽさが鼻につくのはこの世代の特徴。

《編集》

◎マーク・ゴールドブラット

 『ターミネーター』『ターミネーター2』『トゥルーライズ』

 キャメロンと同じくコーマン門下生のジョー・ダンテ作品を多く手掛けている人。『アルマゲドン』などアクション系の映画が得意。

◎コンラッド・バフ

 『アビス』『ターミネーター2』『トゥルーライズ』『タイタニック』

 元々は特殊効果畑の人で、『レイダース/失われたアーク』や『スター・ウォーズ/帝国の逆襲』『E.T.』などILM関係の仕事に携わった後、同僚のジョン・ブルーノの勧めで『アビス』の編集に参加。以後、キャメロン作品をはじめ、アクション作品などを多数手掛けています。『タイタニック』でオスカー受賞。

◎リチャード・A・ハリス 

 『ターミネーター2』『トゥルーライズ』『タイタニック』

 キャメロン作品やテレビ映画などで編集者組合のACE賞を何度も受賞している才人。60年代の映画『白銀のレーサー』や『がんばれベアーズ』なども担当しているから、かなりのベテランです。

◎エド・W・マーシュ

 『タイタニックの秘密』『エイリアンズ・オブ・ザ・ディープ』

 編集だけでなく、クリエイティヴ・プロデューサーという肩書きでもクレジットされている彼は、独立系の映画作家、ライターで、映画のメイキング取材でよく知られた人です。参考文献に挙げた『ジェームズ・キャメロンのタイタニック』も彼の著作。

◎ジョン・レフーア

 『タイタニックの秘密』『アバター』

 経歴不明ですが、意欲作『アバター』に抜擢されている所をみると、才能を買われている様子。キャメロンが製作を担当したテレビ作品『ダーク・エンジェル』にも関わっています。

《視覚効果》

◎スタン・ウィンストン

 『ターミネーター』『エイリアン2』『ターミネーター2』『T2 3-D』

 SFXアーティストの、文字通り第一人者。機械仕掛けのロボットや巨大生物は得意分野で、ターミネーターの各種メカニックから、エイリアンのデザインとエフェクト(『エイリアン2』ではセカンド・ユニットの監督も担当しています)、『ジュラシック・パーク』の恐竜まで、どれも神業的な仕事ばかり。それぞれアカデミー賞に輝いています。自らのスタジオを率いて常に業界の最先端を走りましたが、惜しまれつつ他界。

◎ロバート&デニス・スコタック

 『ターミネーター』『エイリアン2』『アビス』『ターミネーター2』『T2 3-D』『タイタニック』

 ニュー・ワールド時代からのキャメロンの知り合いで、5歳違いの兄弟アーティスト。ミニチュア撮影を得意とする4ワード・プロダクションという特撮工房を経営しています。『ターミネーター』のタンクローリー爆発場面におけるミニチュアを皮切りに、『エイリアン2』ではVFXスーパーヴァイザー、『アビス』では海上の嵐の場面でミニチュアを担当、『T2』では核爆発シーンのミニチュアとCG、『タイタニック』ではサウザンプトン港のミニチュア等を製作。

◎ロン・コブ

 『エイリアン2』『アビス』

 ディズニーのアニメーターとして出発し、『眠りの森の美女』や『禁断の惑星』にも参加しているベテラン。その後は漫画家、アニメーターとして活躍し、『ダークスター』の宇宙船造型や『スター・ウォーズ』の異星人デザインで再び映画界での注目を集めます。『エイリアン』の宇宙船では大ブレイクし、『エイリアン2』でも彼のデザインによる装甲車や着陸船、パワーローダーなどが当時のメカ好き男子の心を躍らせました。『アビス』では、潜水艇やROV(海中作業用遠隔操作ビークル)などをデザイン。

◎ジョン・ブルーノ

 『アビス』『ターミネーター2』『トゥルーライズ』『T2 3-D』『アバター』

 ILM出身で、キャメロン作品において重要な役割を担う人材。『アビス』では特撮シーン全体を監修、『T2』『トゥルーライズ』でもVFXデザインで活躍し、アトラクション『T2 3-D』では共同監督にも名を連ねています。何でも、キャメロンやスタン・ウィンストンとの出会いは、86年に東京・青山で開かれたSFXセミナーに講師として一緒に招かれた時で、ここで意気投合した縁が後に繋がっているというから面白いものです。

◎トーマス・L・フィッシャー

 『T2』『トゥルーライズ』『タイタニック』

 機械を駆使した大規模な仕掛けが得意な特殊効果マン。特に、『タイタニック』の沈没シーンには大きな手腕を発揮しているそうです。関わった作品は、『ランボー』シリーズ、『ブレードランナー』『バットマン』『トータル・リコール』『ラスト・アクション・ヒーロー』と、SFXの新時代を切り開いてきた名作多数。

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