当時人気者だったピーウィー・ハーマンの初主演映画に運良く抜擢され、これがバートン初の長編劇映画となった。過去のバートン作品に繋がる人材はそれほど参加していないが、デビュー作とは思えないほど明瞭に個性の刻印が押された、強烈な作品である。 盗まれた自転車を取り返すというプロットは単純だが、舞台や登場人物がどんどん移り変わってロード・ムーヴィーの雰囲気。もっとも、犯人が早々に明らかになるなど、ストーリーにはあまり重点を置かず、あくまで短いコントの積み重ねを長編に仕上げたような体裁。 ピーウィーのアドリブ的なパフォーマンスは、小気味良いカッティングでスムーズに繋がれていて、編集のセンスが見事。特にクライマックスのワーナー撮影所でのチェイス・シーンは、あの手この手を使って画面を賑やかに盛り上げていて楽しい。途中、日本人がゴジラとキングギドラの戦いを撮影しているなど、バートンらしいこだわりも随所に入っている(開巻早々、ピーウィーの部屋にゴジラの模型が飾ってある)。 役者の芝居から美術、編集、音楽、特殊効果に至るまで、早くもバートン特有のタッチで全編が彩られ、恐竜のストップ・モーション・アニメや、人の顔がモンスターのように変貌するカット(これは『ビートルジュース』や『スリーピー・ホロウ』にもある)なども既に挿入している。 ピーウィーの芝居が思いのほか多彩なニュアンスに富んでいて、時に男前な一面も見せたりと、あまりこのキャラクターに詳しくない私には驚かされる場面も多い。ちなみに、バイカー達の酒場でダンスを踊る場面は志村けんの“変なオジサン”と同じ振付だが、これは志村けんのオリジナルではなく、アメリカのオールディーズか何かにルーツがあるのだろうか(それともピーウィーのオリジナル?)。 ピーウィーことポール・ルーベンスは91年、フロリダのポルノ映画館で猥褻行為に及んで逮捕。このスキャンダルによって彼の人気は失墜した。しかしバートンは事件の直後であるにも関わらず、『バットマン・リターンズ』に彼をカメオ出演させ、続く『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』にも彼を声優・歌手としてキャスティングし、恩返しを果たした。 |