ビートルジュース

Beetlejuice

1988年、アメリカ (92分)

 監督:ティム・バートン

 製作:マイケル・ベンダー、ラリー・ウィルソン、リチャード・ハシモト

 脚本:マイケル・マクドウェル、ウォーレン・スカーレン

 (原案:マイケル・マクドウェル、ラリー・ウィルソン)

 撮影監督 : トーマス・アッカーマン、A.S.C.

 プロダクション・デザイナー:ボー・ウェルチ 

 衣装デザイナー:アギー・ゲラード・ロジャース

 編集:ジェーン・カーソン

 音楽:ダニー・エルフマン

 美術監督:トム・ダッフィールド

 出演:ジーナ・デイヴィス  アレック・ボールドウィン

    ウィノナ・ライダー  マイケル・キートン

    キャサリン・オハラ  ジェフリー・ジョーンズ

    シルヴィア・シドニー グレン・シャディックス

* ストーリー 

 ニュー・イングランドに住む、アダムとバーバラのメイトランド夫妻。休日に出かけた彼らは、家に戻る途中、交通事故に遭う。帰宅した彼らは、様子がおかしい事に気づき、自分達が死んでゴーストになったのだと知らされる。やがて家は売却され、ニューヨークから新しい住人がやってきて、彼らの平安は破られる。彼らは心静かに暮らすため、住人を脅かして追い出そうとするが、うまくいかない。そんな時、フリーのバイオ・エクソシスト、ベテルギウスと出会うが、その破天荒なやり口で逆にトラブルとなってしまうのだった。

* コメント    

 日本で公開されたものとしては、最初のバートン作品。限りなくコメディに振り切ったホラーですが、今の視点でみればそういうジャンル性よりも、バートン作品という一つのジャンルに括ってしまいたい、独特の映画です。特に美術デザインにはバートン特有のタッチが濃厚に表れていますが、作品は観客にも大いに受けてヒットしました。ちなみにタイトルは、登場キャラクター“ベテルギウス”の英語読み。

 バートンの初期作品に対してよく言われるように、物語は破綻しているというか、筋の通ったストーリー・ラインは見当たりません。新米の幽霊夫婦が新しい住人をいかにして追い出すか、というのが大まかなプロットですが、これにウィノナ・ライダー演じるゴス少女リディアや、タイトルロールのベテルギウス、霊界の住人達などが脈絡なく出入りして、何となくオチに向かうという感じ。視覚的なインパクトは強烈ですが、物語は何度観ても印象が希薄です(バートン作品にはよくある事です)。唯一、クライマックスでどことなく悲哀が漂ってくる幽霊夫婦とリディアの関係性には、こういったコメディには珍しく、ナイーヴな優しさが感じられます。

 ハリー・ベラフォンテの“バナナボート”に合わせて全員が踊らされる所や、宙吊りのウィノナ・ライダーが妙な動きで踊る場面など、ミュージカル風のシークエンスはあまりに唐突な印象ですが、その奇抜さも又、作品にパワーを与えていると言えるでしょうか。美術デザインと特殊効果はさすがのセンス。合成映像や特殊メイクの他、チープなコマ撮りアニメーションも多用していて楽しい仕上がりです。映像的にも、原色を多用したカラフルなルックを採用している他、怪物が暴れ回るシーンは、ドイツ表現主義を彷彿させるスタイルで撮影されています。

 残念なのは、これは作品のせいではありませんが、ベテルギウスのマシンガン・トークの日本語字幕に妙なダジャレや関西弁がうるさく入ってくるのと、霊界のキャラクターに逐一くだらない名前を付けて字幕を出すのは、個人的に鑑賞の邪魔と感じました(これは確かVHS時代からと記憶しますが、ブルーレイ・ディスクにもそのまま流用されています)。吹替のアドバイザーが所ジョージとなっていますが、字幕の方もそうなのでしょうか。とにかく、言い回しが気になって肝心のセリフの内容が頭に入ってきません。

 美術以外でバートンらしいのは、オープニング・タイトル。町の空撮がいつの間にかミニチュアになっていて、最後にクモが侵入してくる所、ダニー・エルフマンの冴えたテーマ曲と相まって見事な掴みになっています。それと、夫婦が事故で命を落とす場面。小犬を使ったユーモラスな展開は、後のバートン作品と通底するセンス。

* スタッフ

 原案は、ホラー小説家でもあるマイケル・マクドウェルと、製作も兼任しているラリー・ウィルソン。バートンが監督したテレビ番組『ヒッチコック劇場』の一話『ザ・ジャー』のシナリオを書いたコンビです。バートンは、『ピーウィーの大冒険』の興行的成功の後、似たような企画の依頼ばかりでうんざりしていた時に、この脚本と出会いました。しかし、二人はバートンの質問攻めにアイデアが尽きてしまい、脚本修繕屋として知られていた『ビバリーヒルズ・コップ2』のウォーレン・スカーレンが参加。最終稿をまとめました。ちなみにマクドウェルは、『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』の脚色も担当しています。

 撮影のトーマス・アッカーマンは『フランケンウィニー』に続く登板。音楽のダニー・エルフマンも『ピーウィーの大冒険』に続いての参加で、B級テイスト満載のエキサイティングなテーマ曲によって、オープニングからワクワクするような高揚感を味わせてくれます。エルフマンは、以後ほとんど全てのバートン作品を担当して、双方のファンにとっても名コンビというくらいの間柄となりました。彼ら自身が望んでいた、ヒッチコックとバーナード・ハーマンのような関係を築く事ができて、彼らにとっても映画ファンにとっても、本当に良かったと思います。

 注目したいのは美術部門。出演者キャサリン・オハラの夫でもあり、後に『シザーハンズ』『バットマン・リターンズ』でも腕を振るう個性派ボー・ウェルチがプロダクション・デザインを担当している他、後のバートン作品でも活躍するリック・ヘインリックスが視覚効果の顧問、トム・ダッフィールドが美術監督に名を連ねています。

* キャスト

 メイトランド夫妻を演じた二人は、他のバートン作品に出ていませんが、この映画に向けられた批判で多かったのが「主人公二人が退屈」というものでした。確かに、この二人が出てくるといつも画面がトーン・ダウンするのですが、バートンは「ある意味で当たっているけど、必要な役柄だった」と語っています。「アレック・ボールドウィンは少し映画と僕の悪口を言ってたけど、彼はいい演技をしたと思うよ」。

 この映画の脚本は、バートンによれば「説明するのは難しい。だってあれは“見た目”と“感じ”であって、その場にいてやってみない限り、実際には説明できない」せいで、最終稿ですら、読んだ誰もが「これ、どうやってやりゃいいの? 何なのこれ?」と口走るような代物だったそうです。少なくとも、最初からこの映画に乗り気だったのはジーナ・デイヴィスただ一人に見えたといいます。

 マイケル・キートンはご存知の通り、この後バットマンに抜擢されました。ウィノナ・ライダーも、『シザーハンズ』で本作のイメージとは真逆の金髪チア・リーダーを好演。キャサリン・オハラは『ホーム・アローン』シリーズのお母さん役で有名ですが、コメディ番組の即興一座のメンバーとしても人気を博した人で、多彩なパフォーマンスには定評があります。彼女とグレン・シャディックスは、『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』に声優、歌手として参加。ジェフリー・ジョーンズも『エド・ウッド』『スリーピー・ホロウ』、シルヴィア・シドニーは『マーズ・アタック!』に出演しています。

* アカデミー賞

 ◎受賞/メイクアップ賞

 

Home  Back